(10)蒼穹昇天
軌道エレベーターが静かに動き出す。その瞬間、足元がじわりと浮き上がるような感覚が広がった。地面が徐々に遠ざかり、身体にかかる重力が変化していくのを全身で感じる。俺たちを乗せた巨大な箱は、まるで地球を後にして新しい世界へ飛び立つように、確実に上昇を続けていた。
透明なガラス張りの壁越しに広がる景色。最初はいつもの青空だったものが、だんだんと薄まり、暗い闇が現れていく。下を見下ろすと、地球の大地が小さくなり、ついには地平線が丸みを帯びた輪郭を見せ始めた。
「これ……本当に俺たち、宇宙に行くんだな。」
思わず零れた言葉が、驚くほど静かに響いた。いつも見慣れていた地球が、こんなにも壮大で、遠い存在に感じられるなんて。まるで、今まで知らなかった地球のもう一つの顔を初めて見た気がした。
「すごい……地球って、こんなに広かったんだ。」
隣でアヤカが感嘆の声を上げる。その目は完全に地球の青に釘付けだ。普段はどんな機械でもいじり倒している彼女が、ここまで素直に感情を表すのは珍しい。思わず俺も笑みが浮かんだ。
さらにエレベーターが上昇を続けると、地球の曲線がよりはっきりと見えてきた。青い大地と海が広がり、その上に散りばめられた都市の灯りがまるで星空を逆さにしたように輝いている。遠くにはいくつもの人工衛星が静かに漂い、漆黒の宇宙に点在しているのが見えた。
「この景色……写真で見たのと全然違う。」
ルナが小さく呟く。その声には、懐かしさと驚きが混じっているようだった。月面都市出身の彼女にとって、宇宙は故郷に近い存在なのかもしれない。でも、彼女の表情には特別な何かが宿っているように見えた。
俺は窓ガラスに手を置きながら、自分に言い聞かせる。ここに立っているのが、かつてジャンクをいじっていたただのスペースポートのバイトだった俺だなんて信じられない。でも――これが現実なんだ。俺は今、宇宙を目指している。
軌道エレベーターはついに頂上に到達した。扉が開き、シャトルへの乗り換えが始まる。目の前には漆黒の宇宙を背景に、巨大なリング状の宇宙ステーションが浮かんでいた。まるでこの空間全体を支配するかのように堂々と輝くその姿は、圧倒的な存在感だった。
地球の青さを背景に浮かぶその光景に、俺は目を奪われた。こんな場所に自分が来るなんて、昔は想像すらできなかった。でも、ここにいる。この先に待つのは、きっと地球では考えられないような激戦の舞台だ。
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