(23)次元歪曲
ディスプレイに映るルミナスフローラの挙動は、もはや常識の範疇を超えていた。 特に、周囲の空間が揺らぎ、歪む異常現象。まるで湖面に投じられた石が波紋を広げるように、戦場の景色がルミナスフローラを中心にして波打っていく。それはただの光学的な錯覚ではない。目に映る現実そのものが、崩壊しつつあるように見えた。
「これ、一体何が起きてるんだ…?」
操縦桿を握る手が汗で滑りそうになる。
見慣れた戦場が、まるで夢と現実の境界を失ったかのように感じられた。
『解説の深野さん、これはどういう現象なのでしょうか!?』
司会者の震える声が響く。
会場全体が静まり返り、誰もがスクリーンに釘付けになっていた。
「これは……」
解説席の深野は、モニターを凝視したまま額の汗も拭おうとしない。
彼の冷静なはずの声が、珍しく揺れていた。
「…次元の歪みが発生している可能性があります。」
一瞬の沈黙。そして、爆発するような観客席のどよめき。
『次元の歪み!?』
司会者が驚愕の声を上げる。
「いや、正確には…」
深野は、ゴクリと唾を飲み込む。
「…虚数次元が干渉しているのかもしれません!」
観客席が騒然となる。
『虚数次元!?それは、どういうことですか!?』
司会者の声が上ずる。
深野は一度息を整えると、言葉を選びながら説明を続ける。
「ルナドライブのエネルギー生成機構は、ルナリウム結晶の再構成によって膨大なエネルギーを生み出します。しかし――」
彼はディスプレイを睨みつけながら、声を低くした。
「このような空間の歪みは、通常の物理理論では説明がつきません。」
「つまり?」
「虚数次元、すなわち、私たちが知る三次元空間の背後に存在する未知の次元が関与している可能性があります。」
会場が一気に静まり返る。
「おいおい、冗談だろ……」
思わずコックピット内で呟く。だが、目の前の光景は紛れもない現実だった。ルミナスフローラが動くたび、空間が裂け、波紋が広がる。何かが、何かがこの世界の法則を超えてしまった。
「虚数次元とは、通常の物理次元を超えた数学的仮定の領域。もしこの現象が虚数次元からのエネルギー抽出によるものであれば…ルナドライブが未到の領域に達した証拠かもしれません。」
彼は一度言葉を切ると、重く言い放った。
「しかし、この規模のエネルギーを制御することは、本来、不可能なはずです。」
観客のざわめきが、恐怖へと変わっていく。
そして、その瞬間――
ルミナスフローラが、さらに加速した。
青白い閃光が戦場を駆け抜け、視界に映る空間そのものが裂けるように感じられる。観客たちは息を呑み、すべての視線がその異常な動きに釘付けとなった。
「あの光…なんだか嫌な予感しかしねぇ!」
思わず身を乗り出し、全身に緊張が走る。
その時、通信越しにルナの静かな声が響いた。
『リュウトさん、大丈夫です。この力は、私が制御します。母の機体を、信じてください。』
その言葉に、俺は息を飲んだ。深く息を吸い、気持ちを落ち着けるように操縦桿を握り直した。
観客席のざわめきが徐々に高まり、戦場全体が異常な緊張感に包まれていく。虚数次元に触れたその力が、これからどんな結末をもたらすのか——俺にはわからない。けれど、この戦いがただの大会を超えた何かになっていることだけは確信していた。誰もが固唾を飲み、次の展開を見守っていた。
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