(21)冷徹論理
「これがお兄様の力…」
ルナの声が震えていた。怒りと悔しさが滲んでいるが、それすらもゼファーの前では意味をなさない。
彼の声は冷徹だった。静かで、重く、抗いがたい圧力を帯びていた。
「ルナ。お前がここに立つ理由、その浅はかな目的、その拙い理想――すべて、見透かしている。」
ソレイユヴァンガードが一歩動く。
黄金の巨影が、まるで戦場そのものを支配するかのように間合いを詰める。
「母が夢見た『誰もがルナリウムの恩恵を享受できる世界』?その理想を掲げれば、お前の行いが正当化されるとでも思っているのか?」
「違う…私は…!」
「黙れ。」
ゼファーの声が戦場に響く。圧倒的な冷たさと鋭さに、ルナの言葉が遮られる。
「お前の言葉には、何の価値もない。」
戦場が凍りつく。
「その理想を盾にすることで、お前は何を隠している?未熟な自分か?無力な自分か?何一つ成し遂げたことのない、お前自身の矮小さか?」
「……!」
「お前は母の死を父の陰謀だと決めつけ、感情のまま妄想を膨らませ、その未熟さを隠す盾としているだけだ。その姿がどれほど滑稽か、自覚すらないのか?」
「お兄様、ですが!」
「ルナリウム解放計画のデータを見ました!」
「父が秘密裏に進めていることを――!」
叫ぶような声。それを、ゼファーは微動だにせず受け止めた。
「“解放計画”だと?」
わずかに視線を落とし、冷ややかに息を吐く。
「また父の詩的な命名癖に踊らされたか。」
「…え…?」
「父は壮大な名前をつけるのが好きだ。『未来への扉』『人類の躍進』……お前が見つけた計画とやらも、せいぜい次世代ルナドライブの開発計画か、月の深部採掘計画の延長だろう。」
ゼファーの声には侮蔑すらなかった。そこにあるのは、ただの確信。
「それを“秘密裏に進めている”と?」
「お前はその計画の全貌をどこまで理解している?」
「……っ」
「数枚の断片的なデータを見ただけで、すべてを知った気になっているのか?」
ゼファーの機体がさらに間合いを詰める。もはや逃げ場はない。
「誰が関与し、どの部門が動き、どの予算の下で進められている?」
「お前は何を知っている?」
「……」
「答えられないか。」
ゼファーは微かに笑う。
「それが、お前の限界だ。」
ルナは息を詰まらせた。
「思考を放棄し、感情のままに父を敵と決めつける。それが愚かでなくて何だ?」
沈黙。
「仮にだ――」
ゼファーの声が、冷たい刃となってルナの心臓を貫く。
「ルナリウム解放計画とやらが月全体を巻き込む陰謀だったとしよう。」
「……!」
「そんな計画を、父がたった一人で秘密裏に進められると、本気で思っているのか?」
ゼファーの声には、明確な嘲笑が混じる。
「我が社は月面自治を担う月面評議会と密接に連携している。その彼らが計画の存在を知らず、ましてや黙認しているなど――」
「……」
「――あり得るはずがない。」
ゼファーの機体が、また一歩、静かに進む。
「母が愛した機体をお前は私物化し、母の信念を理解したつもりでいる。」
ルナの息遣いが荒くなる。
「もし母が今ここにいたら、お前の行いをどう思うか?」
ゼファーの機体が剣を下げる。その動きには、圧倒的な余裕があった。
「母の遺志を勝手に捻じ曲げ、その遺産を自己満足の道具として浪費する。これほどの愚劣が他にあるか?」
ルナの肩が震えた。
「お前の行動は、ただの幼稚な反抗心だ。」
ゼファーの声は鋭さを増す。
「自分を特別な存在だと証明したいだけの、稚拙な執着に過ぎない。」
「違う……!」
ルナの叫びは、もはや悲鳴だった。
「違う?では証明してみせろ。」
ゼファーは冷たく言い放つ。
「お前の言う“解放計画”とやらの全貌を、今ここで明らかにしてみせろ。」
戦場が静まり返る。
ルナは、何も言えない。
「……言えないか。」
ゼファーは、息を吐く。
「やはり何も知らない。」
冷酷な断言。
「お前はただの子供だ。」
ソレイユヴァンガードの黄金の輝きが、戦場全体を覆う。
「感情をぶつけ、しがみつくことしかできない未熟者だ。」
ゼファーの声は静かだった。だが、その静寂こそが、絶対的な勝利を示していた。
「もう一度言おう。」
「これが、お前の限界だ。」
その冷徹な声が戦場を支配する。重い沈黙が漂う中、ゼファーの圧倒的な存在感が全てを覆い尽くしていた。彼の言葉は冷たく、残酷だったが、それが彼の揺るがぬ勝利を象徴していた。まるで、その瞬間に戦場全体が彼の前にひざまずいたかのようだった。
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