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鋼月の軌跡  作者: チョコレ
第三章 黒銀の断罪機
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(44)月影謀略

 世界大会の熱狂がようやく落ち着きを見せ始めるころ、各国代表はシャトルや軌道エレベーターで地球へと帰還しつつあった。その一方で、地球某所では新たな闘争の火種が密かに灯り始めていた。


 廃ビルの地下――外界から隔絶された暗い空間に、わずかな機械音が響く。中央に設置されたホログラム装置が淡い青白い光を放ち、複数の人影を映し出していた。だが、それらは実体ではない。映像は高度な暗号化技術によって加工され、顔も声も判別不能なものに歪められている。ここは、テロリスト集団ネザーファングの幹部たちが集う秘密の会議室だった。


 短い電子音が鳴り、会議の開始を告げる。


 「宇宙アリーナの作戦は予定通り実行された。」


 一人のホログラムが静かに語る。その声は感情を削ぎ落としたような、冷徹な響きを持っていた。


 「貨物データを偽装し、ムーンギアを送り込むことに成功した。潜入した仲間は捕らえられ、ルナフロントの収容施設に送られたが…それも織り込み済みだ。重要なのは、ルナヴァルド社に揺らぎを生じさせたこと。これで十分な種は蒔かれた。」


 彼は一息置き、次なる計画へと話を進めた。

 「しかし、次の舞台であるルナフロントは、そう簡単にはいかない。」


 別のホログラムが低く笑う。その映像が淡く揺らぎ、虚ろな光が暗闇を切り裂いた。


 「月面大会が開催されるルナフロントは、史上最高レベルのセキュリティが施されている。ムーンギアを持ち込むどころか、我々自身が潜入することすら困難だ。」


 短い沈黙が流れた。中央に位置するリーダー格のホログラムが口を開く。ほかの影が自然と静まり、その言葉を待つ。


 「だが、完全に道が閉ざされたわけではない。」

 場の空気が微かに緊張を帯びる。リーダーの言葉に、全員の注意が集中した。


 「ルナフロントの基幹部は地表ではなく、月面地下に存在する。内部からの協力者を得ることができれば、採掘通路を経由して潜入する道が開ける。」


 「内部から?」 

 慎重な声が問いかける。その響きには疑念が滲んでいた。


 「具体的にはどうするつもりだ?」

 リーダー格のホログラムが冷静に答える。


 「既に月面採掘の労働環境に不満を抱く反体制派の一部と接触している。彼らはルナヴァルド社の独占体制と、その圧政的な管理に怒りを抱いている。そして――月面評議会内にも、同様の疑念を持つ一派が存在することを確認している。直接的な協力は期待できなくとも、情報提供やセキュリティの隙を突く支援は得られる見込みだ。」


 ホログラムが微かに揺れ、空間には一瞬の沈黙が広がった。やがて、誰かが薄く笑う気配がする。


 「なるほど…内部からの支援を得て潜入する計画か。それに評議会の一部が絡むとなれば、ますます現実味を帯びるな。」


 リーダー格のホログラムが頷き、さらに計画の核心に触れる。

 「月面大会に乗じて採掘通路を経由し、基幹部へ潜入。発電施設を制圧し、ルナフロントそのものを掌握する。そして、ルナリウムを我らの支配下に置く。」


 「ルナリウムだけで十分なのか?」

 冷徹な声が響く。ホログラムの影の一つがわずかに揺らぎ、沈黙の中で疑問を投げかけた。

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@chocola_carlyle

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