猟犬ユズリマスの前の基礎知識(転載)
昨年末、人づてに猟犬を譲ってほしいという話を頂きました。
幸い、私には紹介できる伝手があり、猟犬の悩みを共有&飼い方の研鑽を共にできる仲間が増えることは助かるので、喜んで紹介しようと思ったのですが、どうも事情をうかがうと免許取りたてのご新規様。
それでは譲る譲らないの前に基本的な用語くらいは揃えたほうがいいかなと思い、ネット検索の一助くらいにはなるだろうと長文のメールをしたためました。
年明けに今年の狩猟はどうしようかと思案していた時に、そうだこれを共有すると役に立ててくれる人がほかにもいるかも!と思い、本編の投稿に至りました。
個人名や金額などについて多少の削除やぼかしを入れつつ、ほぼ転載したものをいかに示します。
さて、実際に猟犬ブリーダーさんのご紹介に向けて
オンライン通話でお話しする前に簡単に自己紹介と、私の見聞きしてきた猟犬育成についてまとめさせていただきます。
以下の概要でお送りします。
1.私の狩猟・猟犬経歴
2.猟犬に関する一般的理解
3.猟犬を用いた狩猟と猟犬の「芸」
4.猟犬に関する今日の経費、相場
5.猟犬譲受のときの特に重要な注意
6.私からの猟犬に関する紹介について
7.譲り渡しの条件等
[まとめ]
話が長くなるので先に譲り渡し関連の結論から申し上げます。
知り合いの猟犬ブリーダーに子犬が出来たら譲っていただけるようお願いすることが可能です。
ただし、ブリーダーさんから私が紹介する知人等にお譲りする場合の条件が細々とあります。
以降のお話を読んでご納得いただけるようであれば今後の段取りを調整したいと思います。
本件お話がまとまらなくても色々なチームの猟について興味があるので情報交換の機会をいただけますと幸いです。
[1.私の狩猟・猟犬経歴]
縁あって山を買い、趣味で畑を作ったところあまりにシカ被害が酷く全作物を食べられてしまったのをきっかけに
狩猟免許取得を思い立ち、その年のうちに免許や所持許可を取得、活動を始めました。
それから数年師匠について猟犬と共に修行しつつ専業ハンターのビジネスを立ち上げるか勤め先を見つけるために
関東近郊で見分を広めていました。
そうした中で茨城のブリーダーさんと話がまとまって、2代続けてビーグルをもらってきています。
その後勤め先を見つけて捕獲事業者で務め、兼業で猟友会等でも活動しています。
地元では巻狩を5~10人で行っています。
巻狩で囲んだ山での追い出しは初代のビーグル一頭+私で担当していましたが、
残念ながら3年目の後半で返り討ちに合ってしまい、今は2代目を育てています。
狩猟免許取得の発端からお察しかもしれませんが害獣駆除に重きを置いており、
経費は押さえつつある程度捕獲量を確保しようという心持で活動しています。
これまで自分で直接仕留めたのはだいたいシカ、イノシシ、その他合わせて50頭程度です。
初代のビーグルはシカの追い出しでタツマ(待機射手)に打たせるなど10回ほど実際の捕獲に結びつく追い込みを成功させ、
待ち伏せ場所を通らず逃げるパターンも含めるとほぼ毎回シカの発見と追走はしていました。
年表風にまとめると、以下のようになります。
20XX年~狩猟免許並びに銃砲所持許可取得でハンターに。
20XX年~20XX年初代ビーグル
20XX年 捕獲等事業者に所属し、通年ハンター(専業。のち兼業)
20XX年~猟友会にて有害駆除・管理捕獲
20XX年~2代目ビーグル(今に至る)
[2.猟犬に関する一般的理解]
直接お話しするにあたり、ある程度一般的な用語が揃うよう、当たり障りのなさそうな資料を共有します。
おそらく譲受に関する意思決定に影響の大きい和犬・ハウンド・鳥猟犬について了解いただければと思います。
以下、いくつか参考資料を貼り付けます。
まずは一般的な部外者がネットで調べたらこれくらいが常識かなと感じた目安を一点。
(参考資料1)狩猟犬はどうやって飼うの?犬種の選び方・訓練・育て方など解説
https://agri.mynavi.jp/2020_01_21_103566/
一方、現実のイノシシ猟の過酷さは完全に都市生活者の日常から隔絶しており、
藪の中の危険さ、長丁場の疲労はとても一方的に「狩る」という概念から離れて泥沼の闘争となることもままあります。
下記の例ではYoutube向けに編集されたものでも視聴者の集中力が持たない程長く、その間数々の犬や人も危険な場面が登場します。
これは鍛え抜かれた和犬とその飼い主の動画なので「上手く」イノシシを誘い出していますので、
実際はこうならず逃げられたりい犬が返り討ちに合って死傷したり人が死傷する場合も多数発生します。
(参考資料2)【閲覧注意】猪猟 Part77 危険なので絶対に真似しないでください
https://www.youtube.com/watch?v=-euPKvbzGaI
上記のイノシシ猟と対置されるものとしてある程度下草の少ない開けた土地でのシカ猟等では安全に撃ち込める場合もありますが、
そのような場合でも少し移動すればこうした沼や茂みでの苦戦、予定外のイノシシやクマの乱入はあり得ます。
猟犬と行う猟については、どういった形の猟を行いたいかによって
活用する方式によってが大きく変わり、飼う頭数や訓練手法が大きく変わります。
例えば複数頭の犬でイノシシを追い込む方式となれば多数の犬を常に維持し、
訓練は犬から犬への実践的継承も織り込んだ効率的な教育が行われます。
この場合は頭数の維持で食費が多くなるとともに、散歩で健康管理できる頭数を超えると
年間通して出猟頻度を維持するための手間や費用が大きくかかります。
一方で鳥猟犬等のような1:1の信頼関係を重視したものでは人間による教育でほとんど全てを
対応するため、事前に訓練のノウハウや方針を綿密に準備する必要があります。
両極端の例を挙げましたが、どちらも自分の活用したいスタイルを教え込むために0歳~2歳で
高頻度の出猟と実際の獲物との出会いや捕獲を多数実践する必要があります。
基本的に犬は人間と違い座学や模擬戦のようなことが出来ないので捕獲を通した訓練が出来なければ一人前になりません。
茨城のブリーダーさんはこのイノシシに関して高頻度で出猟を実現出来ていますが、
私が活動する山間部のチームでは高齢者主体で出猟回数も一緒に歩くのも限度があり、
訓練に失敗して発見や追跡がほとんど出来ない猟犬になってしまう例も見ました。
[3.猟犬を用いた狩猟と猟犬の「芸」]
呼び方には諸説あるのですが、実際の4つ足捕獲に即して猟犬に期待する行動・技能=「芸」は概ね6つに分類されるかと思います。
鼻…嗅覚による遠距離探知です。
香り鳴き…嗅覚探知を知らせるためにやや大人しめに鳴くことです
追鳴き…視聴覚による近距離探知を知らせて激しく鳴くことです。
止め鳴き…獲物に飛び掛からず、吠えて足止めすることです。困難かつ効果的なので重宝されます。
噛み止め…獲物を噛んで行動不能にします。違法です。また、これに偏った犬は他の犬も噛むなど問題を起こしがちです。
呼び戻し…猟の終了時等に呼んだら戻ることです。
鳴きによって犬の位置がある程度分かり、チーム猟では重宝しますが、逆に単独猟で忍びたい時にはむしろ邪魔です。
また、これらと別な重要な要素で足の速さ、スタミナ、戦術性というのがあります。
足の速さ、スタミナは読んで字のごとくですが、戦術性はやや分かりにくい内容で、
挟み撃ち・誘い出し・等で実際に一連の行動でハンターに獲物を取らせるテクニックのようなものになります。
一般に、止め鳴きが上手くできれば格闘にならずケガをしにくく、チーム猟のみならず単独猟が可能なので重宝されます。
しかし訓練が困難で犬種と獲物の組み合わせ次第ではほぼ不可能なのでがむしゃらに目指せばいいものでもありません。
傾向としてはハウンド系は鼻がよく(一部目重視のハウンドもいますが)香り鳴きしながら自分と獲物の位置を知らせ、
足が速く大きな声で追い鳴きします。山に獲物がいればかなり高い確度で見つけてよく追い出しますが、
包囲陣が噛み合わず包囲網を突き抜けても他の山で追いかけっこを続行してしまい、
呼んでも戻らないためそのまま犬の回収に一日経った、等の展開が起こりがちです。
逆に和犬では多少嗅覚で劣り山に獲物がいても見落とす傾向が多少ありつつも、鳴き方が大人しいか自重可能で、
足の速さもやや劣る一方で訓練次第で思慮深く成長するため人間から離れすぎず獲物を追い詰め、
止め鳴きで上手く人間に仕留めさせる潜在能力に優れているものが多くいます。
ただし、和犬の系統はかなり多様で血統管理も徹底されていないため、土佐闘犬のような勇猛に飛び掛かるものもて
ポインター、レトリーバー、ハウンドのような分かりやすい性格を定着させた犬種より傾向が特定しにくいです。
ビーグルは芸の性質としてはハウンド系ですが、体格が小さく足が短く遅いので大型ハウンドより回収が多少マシです。
また、犬種としての特性で非常に嗅覚に優れ、それに基づく好奇心からほぼ訓練無しでも獲物を追い始める傾向があります。
私の実体験としても鼻・香り鳴き・追い鳴きについては散歩中に野良猫を追うだけで身について仕込みが簡単でした。
鳥猟ではこれがセッター、ポインター、レトリーバー等となり、犬種説明等から芸も確認できるので割愛します、。
[4.猟犬に関する必要経費や負担と相場]
ご参考まで、当方では猟犬の維持について以下のような負担が発生しています。
・食費やペットシーツなどの消耗品が毎月5千円~1万円程度
・運搬用自動車の維持
・GPS首輪初期費用1万円、毎月500円
・毎日1時間程度の散歩
・出猟時は犬を追って毎回勢子で歩き回り、犬改修で撤収は最後(日没近く)になりがち
・予防接種、飼養登録などで毎年数日の時間と診療費平均1万円程度
・出猟時のケガはイノシシが相手の場合数年に一度程度数万円~数十万円の治療費がかかるケガを負うか死ぬようです
・上記のような犬治療費について仲間内で積み立てる等の事前調整・対策が必要です(例えば犬を使う猟は参加費いくら、みたいな)
・猟犬の治療を拒否する獣医もいるため、あらかじめケガをした時の獣医確保が必要です
・猟犬をコントロールする人が猟の進行役であり猟犬中心の狩りの責任者となるため、必然的に会の主導権争いに巻き込まれる
・犬種問わず初年度は狩りにも出られず2年目までは訓練、7年目前後で引退となります
・多くの場合致命傷でなくても猟を継続できない大けがを負うため7年たたず引退することも多いです
・引退後の犬の身の振り方は案外難しく、次の猟犬の訓練をしながら一般のペット並みに介護・治療すると高額高負担になる
・猟犬の仕上がりの大半は0~2歳の訓練にかかっているが都合よく2年間猟犬の訓練に週何度も猟に出て全力投球するのは難しい
猟犬の譲受についてはこうした大変さ、売主の犬に対する愛着、育成の失敗率、育成後の絶大な効果を基に
一定のコスト感に基づいて、成長した猟犬は完成度によって50万~数百万、またはそれ以上で取引されます。
無論、高額になるので購入に先立って一緒に山に入る、動画で猟の風景を見る等の十分な品質確認が行われます。
一方で子犬については身内に残すもの以外は実費に近い良心的価格で譲ってもらえる傾向があり、
どの時点で渡すかによって変動は大きいですが例えば子犬の譲り渡しは20~30万円から相談に乗ってくれるブリーダーさんはいるかと思います。
[5.猟犬譲受のときの特に重要な注意]
・自分のスタイルにあった犬を育てる、基本的なしつけをするには生まれて3か月~半年以内に飼わないと難しいと感じています。
・チームの仲間、通行人や他の飼い犬にケガをさせると賠償金や少なくとも医療費がかかるので
人や犬を噛まない犬に育てた方がよいですが、それも子犬の内にしつける必要があります
・市街地で飼う場合鳴き声等のご近所トラブルに注意が必要です
・犬を飼うと家具や壁などが破壊されますので賃貸物件での飼育は貸主との事前調整が必要です。
[6.私からの猟犬紹介について]
・茨城県のブリーダーさんでプロットハウンドとビーグル、その混血等を育てています
・基本的に母乳によって健康と成長を確保するため生後3か月程度母犬のもとで育ててから譲り渡します
・譲り渡すまでの3か月は母犬および他の子犬たちと共同生活で、しつけ等をしません
・一緒に生まれた犬から小さいうちに先着順で選びますので、遠地から行く我々はだいたい最後の方です
・仲間内の融通ですが手間暇がかかっているので、手間暇で貢献しない私等遠地の仲間は多めに金銭を払います
[7.譲り渡しの条件等]
ブリーダーさんから知人等にお譲りする場合の条件として聞いていること。
・買った後の犬に関する責任は終生飼養含め全て買った側が持つこと
・猟犬の血統による猟欲や健康については自分達が使うために選抜しているのと同じ
→基本的に信じてよいが、個体差でたまたま振るわなくても割り切って欲しい
・予防注射等については譲受後速やかに買った側で行うこと。
・上記事情を踏まえ、猟犬は直接確認して、自力で連れ帰ってください
・子犬の健康のため譲り渡しは乳離れ(3か月程度必要)の後で想定しています
・繁殖の手配、妊娠中の母犬が猟に出られないこと、母子の食費や飼育場所等の占有などで
繁殖にはとても負担がかかるため諸経費相当で●●万円前後申し受ける。これは激安身内価格です
私からのお願い等。
・交渉は私を通して行って下さい。ブリーダーさんに面倒をかけない前提で激安身内価格にするという約束になっています
・本件の顔つなぎで横浜~茨城を往復する交通費や手土産、事前調整等の諸経費として、譲受が成功したら●万円いただきます
・避妊をしない場合は、将来の繁殖等で協力できるようたまにで良いので情報交換をしましょう
・私が答えたり詳しい人を紹介したりである程度は協力できるかと思います。
・ご自宅までの子犬を連れた移動手段が確保できないときは日程と経費次第でご相談に乗ります
以上、長くなりましたがお読みいただきありがとうございました。
以上、ご参考になりますと幸いです。
本年も皆様の安全な狩猟と一定の猟果を得られますよう祈念いたします。