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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第四章 30歳から始める学院生活
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現れた「影」




「自分達がのこのこと……追いついたんじゃなくて、呼び出されたって事もわかってないらしい。

立ち込めろ、『暗霧』(ネブラ)!」





「な、また魔法陣……!?」


「大盤振る舞いってか……!」




「やっちまえ騎士ども!奴らはもう動けねえ羽虫だ!」




騎士が大挙して襲い掛かってくる。

四方から遅い来る黒い塊は、完全に俺達を取り囲んでいる。



「させるかッ……プレートを……!」


「トーラス!嫌な予感がする!」


「えっ……!?」



白銀の騎士が黒い騎士と戦うも――数に押され、劣勢のようだ。


しかし問題はこの黒い霧だ。特に状態異常になっていないという事は、俺達の『何か』を無力化するためのものだろう。



「あっ……ウィード君!大変だ、僕の道具が……発動できない!?」


「やはりか!」



相手は最初から俺達を狙い撃ちで潰しに着ている。

ヒナを分断するところまで作戦だろう。


しかしこの……異次元魔術や、魔法陣を消費してまで霧や騎士を召喚するやり方……、

どうにもひっかかる。




「テメェらの事は聞いてるぜ!そっちのメガネは魔術道具がなきゃあただのザコ!

そしてもう一人の新入生は火属性魔法だろ!ネブラは水系統魔力を室内に充満させる!火属性はクソみてぇな威力しか出ないぜ!」


「……は?」


「あ?」




……そうか。


これは嬉しい誤算かもしれない。




「テメェなんだ!何笑ってやがる!」


「俺がいつ……火属性魔法が得意なんて言ったよ」



俺は確かに、この学院に来てから火属性魔法しか披露していない。


むしろ、それくらいしか使う機会がなかったのだ。


しかし俺の強さは――、得意分野は、そんなものではない。




「ハッ!!」



黒い騎士が両断される。


やはりこの魔術を選んでおいて正解だったようだ。俺の戦い方とは合っている。




「な……!?ただの木剣で!?」


「ウィード君……!?なにそれ!?」


「説明は後だ!白銀の騎士よ!加勢するぞ!」




魔術付与(エンチャント)二律背反(アンチノミー)は、

その名前の通り、この木剣に「二律背反(アンチノミー)」を付与するだけの簡単な魔法だ。

非常に単純かつ、覚えやすいものだったので習得できたが、俺以外が使ってもあまり意味はない気がする。


二律背反(アンチノミー)」はそもそも、「反魔力」と呼ばれる魔力の対物質を作る魔術だ。

物質と反物質等、そちらの理論が頭に入ってる俺だからこそ簡単に習得できた。


この魔術を付与した木剣で相手を殴れば――




「ぜあっ!!」



バチン!と音を立て、黒い騎士が崩れていく。




「どういう事だ!何故そんな木剣で……!?」




俺の魔力でそのまま殴ったのと同じ理論となるわけだ。


そして、前に気がついた事だが、俺の魔力はそう多くない、()()()()()()()()()


「ある場合」、それは今のように、自分に害意、悪意を持つものからの攻撃を受けている時―――!





「何が起きてやがるっていうんだよ……!クッソ!何だよ!?その剣は!」



10体程黒い騎士を切り伏せると、こげ茶ローブは焦った表情を浮かべる。


騎士自体の戦闘力はそこまで高くない。

正直、聖騎士の職能一つで十分対応可能な速度だ。



「ネタ切れか!ならこっちから行くぞ!」



2、3、黒騎士を切り伏せ道を作り、こげ茶ローブの男のもとへ近づく。


が、職能が反応したのか、直前で足が止まる。



罠―――ではない、また別の何かが、今ここに脅威として向かっている……?






『何をやっている』





虚空から声のみが響く。




「だ、旦那……!すまねえ!こいつら、予想以上だ!こっちの新人がわけわからねえ!助け……がァ……ッ!?」




いきなり悶絶して倒れる男、仲間に攻撃を加え……いや、違う!これは―――、



キィィン、という音がかすかに聞こえてくる。それと同時に、トーラスも苦しみ始める。



「ウィ……ウィード、君……!?こ、れは……がッ……アア!?」



「クソッ……トーラス!?ぐ……!これは……!」



異常なまでの「音圧」が耳に負荷を与え、意識が混濁してくる。

三半規管を直接揺さぶられているような吐き気がし、体のバランスを崩される。





『使えない奴め』





ぬっ、とこげ茶ローブの男の影から現れた黒い男は、黒い騎士のような存在自体がおぼろげなものだった。

しかしながら確かにそこにあり、しっかりとトーラスのマジックプレートを回収する。




『……封じよ』



そう呟くと、白銀の騎士は静かに消滅する。




「待………て………!」




『まだ意識があったか。構わぬ、じきに―――、忘れる』




その言葉を残し、影はゆっくりと消えていく。

それと同時に、俺の意識も薄れて行き――――――――









「はっ」




「お兄ちゃん!」


「お兄様!」





「アイツは!?こげ茶ローブと……影の男!

あとトーラスは無事か!?」


「こげ茶ローブ……?ああ、一緒に倒れてた人……?まだ、眼を覚まさないみたい。トーラス君も」


「お兄様……ごめんなさいです!ユユは、ユユは、大切なときに……!」


「いや、いいんだよ。むしろユユが危ない目に遭わなくて良かった……」



体を起こすと、少し節々が痛む。無理に強化を使った反動がきたのか、

戦闘中にぶつけたのかはわからない。



「俺はどれくらい寝てた?」


「えっと……あれから放課後までずっと。先生も心配してたよ」


「まったく起きる気配がなかったです……治癒を試しても起きなかったので、本当に持っていかれたかと思っちゃったです」


「持っていかれた、ってまた怖いな……」




眠らせるだけで殺さなかった……?


あの場では俺達は殺しておいた方が得であるはずだが……何か殺さなくて良い理由があった、とかか?



「ローツレス君!フィガロス君が起きたよ!」


「ロジーナ!来てくれてたのか」


「うん、なんか事件に巻き込まれて倒れたんだっけ?転校早々すごいね……」


「はは、悪いな……」




体に異常はない様子なので、トーラスの様子を見に行く。


保健室は何故か広かったが、ベッドの位置は近いようだ。



「トーラス、怪我はないか?後遺症は……?」


「ああ、おはようウィード君……僕、ずいぶん寝てたみたいだね……今何時?講義終わった?」


「え?ああ……今は放課後だが……それより大丈夫なのか?」


「大丈夫って?」


「お前、騎士とまともにやりあってただろ、傷は……」


「騎士……?」


「…………え?」



「お兄ちゃん、騎士ってどういう事、中で何があったの?」


「まさか……」




そう、俺が確かに聴いた言葉……「じきに、忘れる」

あれはまさか、そういう意味だった、という事か……?






「あー!?ここはどこだ……!?保健室か?何で俺ァこんな所に……?」



別のベッドからした声の方向へ。


そこには確かに、先ほどまで戦っていたこげ茶ローブの男がいた。



「お前!」


「なんだお前……新入生か。何の用だよ?」


「…………なるほど」


「あ?なんだよ。テメェ……」



フードの男は茶色交じりの金髪で、ガラの悪い男だった。

しかしそんな事は今、どうでもいい。こいつも「覚えていない」のだ。




「ヒナ、ユユ、後で話したいことがある」


「うん」


「わかったです」



ロジーナに聞こえないよう、二人に呟く。

今回の件、もはや俺達が来た目的と無関係とは呼べなさそうだ。


女神様の言っていた意味が今なら良く分かる。


なるほど魔族が集まるというのはこういう意味合いなのだろう。災厄そのものを引き寄せる。

そこにある災厄が、勝手に俺を巻き込んで始まる――という事か。


俺がいなければ平和かといえば、今回のケースを言えばそうでもないだろうな。

目的は完全にトーラスのプレートだったわけだし。







――――





「記憶消去?」


「おそらく。そういう魔術はあるか?」




宿屋に戻り、俺は室内で起きた出来事の一部始終を話した。


こげ茶ローブの男が使った謎の魔法陣、黒い騎士、霧、影の男。

これらが何を意味するかはわからないが、俺達の敵であり、今回の目的に関係しているのは間違いないだろう。


第一、あれだけ強力な力を持つ組織がたくさんあってたまるかと。



「記憶……うん、できなくはないと思う。私の『吸収ドレイン』だって、相手の記憶や技能を奪うことができるわけだし」



そう言えばヒナは元々そういう能力の持ち主だったか。

つまり相手はサキュバスの系統……?いや、雰囲気からしてそういう感じではなかったな。

もっと、こう、無機質というか……。



「お兄様」


「ん?」


「さっき……敵さんが使った魔法陣ですが、詠唱というか、起動は、なんて言ってたです?」



「えっと、うろ覚えなんだけど……ウンブラ、とか、ネブラ、とか……霧のほうがネブラだったと思う」


「……ネブラ



そう呟くと、ズ……という静かな音と共に、ユユの近くから黒い霧が現れる。



「おおっ!?これだよ、これ!まさか……!」



「そうです。これは私達エルフに伝わる『古代魔術』です」


「古代魔術……!」


「口伝のみで伝えられる……もはや残らぬ文化と思ってたですけど普通に王都ではご本になっててちょっと嬉しかったです」


「そういう感じ!?一気に軽くなったな!?」


「古代魔術同好会とかあったもんね……」



あった気がする。何か勧誘されてた気がする。



「でもです、古代魔術が現代に残っている事と、魔法陣によって簡単に起動できるというのは話が違うです?」


「そもそも、魔法陣ってあれどういう仕組みなんだ?」


「基本はトーラス君のマジックプレートと同じ、紙に書ける分だけ面積を多く取れるってだけ。

後は魔力を殆ど込められないはず……」




魔力を殆ど込められない……?


黒騎士は少なくとも10体以上はいた。一体一体は確かに弱かったが、小さい魔力で出せるものか?




「うん、お兄ちゃんの疑問はわかるよ、『明らかに多かった』んだよね?」


「ああ」



流石はヒナ、俺の表情からさくっと結論までもっていくとは……。


こいつ本当、幼女なのは見た目だけで、中身は俺よりも聡いな……。



「私達にも理解が難しいことだけど、敵は何らかの手段で、その紙に複雑な魔力を込められる魔法陣が準備できた、

って事みたいだね」


「ふむ……」


「ユユの無詠唱とかとは完全に逆の発想だと思うです。最小の魔力で、最大の結果を出すようなやり方です。

あまり効率が良いお仕事とは思えないですけど……」




「今回、トーラス君のマジックプレートが取られたのはまずかったかも」


「……そういう事か?」


「どういう事です?」




恐らく――あくまで推測にはすぎないが、

トーラスには才能があったのだろう。マジックプレートという、限られたスペースに魔術を込めるやり方について。


敵は何らかの手段でそれを知り、マジックプレートの回収を試みた。


何故屋外でなく追いやすい学校を選んだか、何故トーラス一人の時を狙わなかったか――、疑問は尽きないが、

おそらく偶然の産物だったと判断してよさそうだ。敵もいまいちよく考えてなかったようだし。捨て駒っぽいし。



「敵の最終目的はわからんが、トーラスのマジックプレートを悪用して、次はより強い魔法陣を用意してくるかもしれないって事だよな」


「そ、これからは三人一緒に行動したほうがいいかも……」


「次はユユもお役に立つです!」


「しかし敵も……いきなり仕掛けてきたよなあ、こんな急にこなくても」



「……いや、そっか、もしかしたら」


「ん?」


「お兄ちゃん、逆かも。もう時間がないのかもしれない」


「……ヒナ、それって?」



「もう計画は進んでいて――――、実行に近いところまで着ていた。そして必要だったピース、トーラス君のマジックプレートが手に入りそうになったから、

私達を警戒しつつも、強硬手段で手に入れた、そう考えるのが自然じゃない?」


「確かに!」



「もしかして、早めに敵さんを見つけないと……」


「終末兵器を準備させる前に、なんとしてでも潰さないと、まずいことになりそうだ……」




もしかして、割とピンチなのではないか……?


こちらは敵について全く分かっておらず、向こうにはこちらの手がある程度バレてしまっている。


敵が攻撃してくる――?



「いや、むしろこれはチャンスなのでは?」


「お兄ちゃんのそういうとこ、好きだよ」


「ユユもお兄様が大好きです!」




その後、しっかりと作戦会議をし、明日の講義に備えた―――。

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