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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第四章 30歳から始める学院生活
40/71

魔術付与の基礎

―――



「おはよう!ウィード君!」


「おはようトーラス。その表情は……」


「ああ!無事完成したよ……!君たちには感謝してもしきれないくらいだ!」


「喜んでもらえるといいな、今日だっけ?渡すのは」


「そのつもりだよ。彼女はこの日は中央通りにいるはずさ」



そうか、この世界では携帯などの連絡手段がないから、連絡は手紙だったり、人づて……、

お互いの住所や連絡先を知らないと、そういうふわっとした感じになるのか。



「ほら……これさ!」



そう言って彼が見せてくれたのは銀のマジックプレートだ。そこそこ高価ではあるが、

流石にドン引きされるレベルではない。


しかしながらこれの素晴らしい所は『守護精霊』――、トーラスが彼女のために術式を付与してあるところだ。

買えば結構な値段がするはずだ。


マジックプレートはその名の通り、魔術を付与できる金属の板だ。

その特性によって付与できる容量が異なり、最大は金剛アダマントだったと思う。

恐らく俺達の校章と同じようなランク分けだろう。


トーラスは元々魔術付与が得意だった事があり、銀に付与できる中では最上級の『守護精霊』魔術を付与できたらしい。

らしい、というのは守護精霊魔術をエフィールさん達から教わってからは、彼が土日をまるまる使って工房に篭って付与していたから、

俺達はその詳細について知らないのだ。


手作りのプレゼントだが、彼女はあまり貰いなれていないはずだし、

魔術付与の事を除けばそう高価なものではない。きっと喜んでくれるだろう。



「しかし『守護精霊』ってどうやって起動するんだ?」


「うーん……僕もいまいちよくわかってないんだけど、『起動鍵』を使って……魔力を与えてやれば動くとか?」


「一発限り、って事か……?」


「『守護精霊』の場合はそうじゃなかったはずだよ。魔力を充填してやれば何度でも起動したはずさ」


「めちゃくちゃ便利だな」



スマホのようなアイテムだった。

しかし守護精霊か……そんな簡単に精霊が手に入るのか、この世界では。



「あ、そうだトーラス、今日の持ち物を確認したいんだが……これで合ってたよな?」



俺は手持ちの道具を取り出して机に並べる。

今回は魔術付与の基礎だ。


人の形をした木人形に、魔術を付与するといったもので、

必要なものは対象となる木人形、魔術書かその写し、特殊な強化を施す場合は媒体、

あとはあると便利なのが魔法陣だ。魔法陣は魔術式を口で言うのではなく書いておくことで、

即座に魔術が使える便利なアイテムである。今回はこれは使わず、購入した魔術書を見ながらやろうと思う。



「うん、これでいいと思う……。特に難しい術式もないし」


「助かる……ところで、ヒナ」


「なあに?」


「そろそろ俺を椅子にするのやめない……?」


「やだ」




そう。今までの会話は滅茶苦茶自然にヒナを座らせながらしていた。

一人になるとまた囲まれるとかで、俺の影に隠れたいのかずっとこうしている。



「ぼ、僕は気にしないから……」


「ほら、トーラスが困ってるだろ……」


「むー、仕方ないなあ」



初回以外はずっと老獪かつ機転の利く、頭の良いサキュバスだと思っていたので、

最近の甘えたぶりは新鮮に感じる。この前ヒナの母親と出会ってからしばらくはこんな感じである。



「でもヒナもトーラスも、一緒に授業取ってくれてありがとうな。

お前らからしたら簡単すぎるだろうけど……」


「いいんだよ、僕だって基礎は何度でもやっておきたいしね」


「私はお兄ちゃんがいる所ならどこでも行くよ……!!」




ヒナ、最近ちょっとぽんこつになってきていないか……?




「皆さん、準備はよろしいですか~……?」



授業開始より少し時間が早いが、先生が入ってくる。アメリア・ガーネット先生だ。

緩やかなウェーブの桃色のロングへアでおっとりした性格と、可愛らしい顔立ちから生徒には人気がある。



「……今日はたくさんの方がこの授業を登録してくれたんですよ」



ふにゃっとしたやわらかい笑顔で話を続ける。



「私の授業は……担当が基礎が多くて、最初のほうは履修してくれる人も多かったのですが、

最近は魔道書も便利になってきて、基礎の授業くらいなら独学で済ませる方も増えてきたんですよね」



なんだか闇を感じるな……。

これは現代の大学にも通じるところがあるような……必修とかにすればいいのでは?



「普段から空席が目立つ教室で講義をする時……時々少し寂しい気分になっていました……。

でも、今日はほぼ満席の中で講義ができて、先生とっても嬉しいです!皆さん、持ってきた人形を机に出してください!」



うきうきしてるのが子供みたいで可愛らしい。

さくさくと準備をする。木人形は魔術では良く使うものらしく、近くの魔術道具店で300アルテだった。

1アルテは1円くらいの計算でだいたいあってると思う。物価よくわかってないけど。



「付与する魔術は皆さんで好きなものを選んでくださいね~。何を付与すればよいか分からない人は、

先生がお手本を持ってきました。写しがあるので席に持ち帰って使ってくださいね~」



あれは活版印刷……?いや、手書き、手書きだ……!手書きで100枚くらい写しがある……!!

ガーネット先生、めちゃくちゃ真面目なんだな……そりゃあ生徒から好かれるわ。


俺は一応、予習してきた魔術を付与する事にした。

内容が少し複雑で、理解に時間がかかってしまったが、ヒナやユユにもコツを教えてもらったので、

ある程度はできるようになってきた。いよいよ本番という事だ。


その瞬間、プシュ!という音が近くから聞こえてくる。



「はわっ……!?火事ですか!?」


「違いまーす、黒煙の魔術が暴発しました。すみませーん」



生徒の声が聞こえる。

こういう場で派手な魔術を失敗しないで欲しい。心臓に悪い。



「煙いな……」


「ごほっ……確かに、しばらく収まりそうにないね?」



近くの席から発生した煙のせいで、俺達の席まで煙でもくもくしている。


これでは作業にならない。なんとかしないと……。



「えっと、こういう時は風魔術か?」


「そうだけど、ウィード君、微調節とかできる?」


「うっ……」


「しょうがないなあ。私に任せて!『風よウィンド』!」



ふわっ という感覚と共に煙が払われる。

煙はまとめて窓から外に出される。



「あら……払ってくれたの?ありがとうね!リーズベルトさん!」


「先生も私の名前覚えてるんですね……」


「だって有名人だもの。光栄だわ……今日もこんなたくさんの人が着てくれたのは貴方がいるおかげね……!」


「そうでしょうか……?」



先生にめちゃくちゃフレンドリーに絡まれ困惑するヒナ。

もう慣れたと思ったけどそうでもなさそうだ。



「さて、作業の続きやろうぜヒナ」


「あ、うん……」


「がんばってねリーズベルトさん!先生期待してるから」


「……リ、リーズベルトさん、何か気になる事でも?」


「ううん、別に……ちょっと、そこに人がいたような」


「人?」


「気のせいかも。続きやろっ」


「ああ」



ヒナのこういう態度は珍しいが……、

彼女は人一倍洞察力が高い。なんらかのトラブルの前兆でなければいいが。



「とりあえず作業だな。準備を……あれ?」


「ウィード君も何か?」


「トーラス、お前、鞄は?」


「えっ?……あれっ!?」



先ほどまで机の近くに置いていたトーラスのカバンが―――消えている。

これは、まさか。




「お兄ちゃんごめん、やっぱり気のせいじゃなかったみたい。

さっき二人、私達の机に近づく気配があったの」


「二人組……計画的な犯行か」



「ど、どうしようウィード君!これ!?」


「落ち着けトーラス、まだ相手はそう遠くに行っていない!」



「すみません、先生、少し席を外します……!」


「ええ、何かあったみたいなら仕方ないわね……」



なんかちょっと罪悪感感じるなこれ……。




「トーラス君、鍵は覚えてる?」


「えっ?ぼ、僕の事?鍵って……?」


「守護精霊の起動鍵!相手が遠くに行っていなければ発動できるはず……!」



「なるほど!ええと、『我が身を守りたまえ、白銀の騎士よ』だったと思う……!」


「発動しない……!?魔力不足かな、私がやるね、『我が身を守りたまえ!白銀の騎士よ』!」





―――その瞬間、廊下の向こう側で光がほとばしり、

歩いていた生徒達がざわめく。



「あっちだ!」


「ありがとう、リーズベルトさん!」


「お礼は後!追いましょ!」





「クソッ……聞いていた話と違うぞ!?なんだこのデカブツっ」



悪態をつく生徒のそばには、臨戦態勢といった風の騎士が立っている。

全身を白銀の鎧が包んだ無機質な見た目からも、はっきりとした闘志が感じられる。



「追いついたぞ窃盗犯、おとなしくお縄についてもらおうか」


「チッ、もう追ってきやがったが……!」




「お兄ちゃん!気をつけて!そいつなんか持ってる!」



「喰らえッ!」




ボシュ!という音と共に煙が発せられる。

先ほどの煙とよく似ている。おそらく犯人は、この煙を使って、混乱に乗じ、トーラスのカバンを盗んだのだろう。

アイテムまで用意しているとは計画的だ。



「逃がすか!」


「お兄ちゃん!あっちの部屋にはいったよ!」


「わかった!」



ヒナの魔力感知―――、常人には難しいレベルの判定も行えるこれならば、

相手の場所を特定するのは簡単だ。




勢いよく扉を開き、トーラスと二人、杖を構える。



「追い詰めたぞ!」


「ぼ、僕のカバンを返せ……!」





しかし、中にいた男は余裕の表情で―――、




「ハッ、追い詰められたのはお前らの方だがな。『隔離』を開始する」


「何……!?」




「お兄ちゃん!?ど、どこいったの……!?」



閉じられたドアの向こうからヒナの声が聞こえる。

どこもなにも、俺はヒナの指示された部屋に入って……まさか?



「ヒナ・リーズベルトを引き剥がした!うまくいったぞ……たかだか守護精霊一枚の獲得に手間をかけさせやがって……!」


「お前ら、何が目的だ」


「目的?知るかよ。俺は金がもらえるからやってるまでだ。さっさとお前らにはこの件を忘れてもらうぞ」


「こ、ここまでの事をして、退学じゃすまないかもしれないぞ!」


「それは……()()()()()()()()()()()()『隆起せよ大地よ、《衝撃クラッシュ》』!!」



ガキン!



防御反応が間に合わなかったトーラスを、白銀の騎士がかばう。



「た、助かったよ……!」



コクリ、と頷く騎士。これを見ると、主人よりも守護精霊の能力が高くなる事がある、

という面白い事実がわかった……いや、そんな場合ではない。相手は本気だ。

殺すつもりがあるかどうかは別として、間違いなく口封じにきている。


たかがといっては何だが、トーラスのマジックプレート一枚のため、かなり人数と、費用をかけた周到な計画があるようだ。

これは裏で手を引いてる奴がいるな……!?



「チッ!クソが!俺のいう事を聞けよ守護精霊……!プレートはこっちにあるんだぞ!」


「無駄だよ、守護精霊は起動者に従う。まあ実際の起動者はリーズベルトさんだから……詳しい命令はできないけど、

かなりの魔力がこめられたこいつはしばらく動くはず……!」


「ならてめえらごとその騎士も()()しかねえって事だな?出番だぞ!ウンブラ・エクゥエス!」



足元の紙の魔法陣が妖しく光り、黒い騎士たちが現れる。




「ええっ……!?紙で!?そんな簡易なやり方でどうやって……!」



「俺も詳しくはねえんだよな。貰っただけだからよぉ。でも貴様らをつぶすには十分だろ

別に殺しはしねえよ。後処理が面倒だからな?喋りたくなくなるまで痛めつけるだけだッ!」



「……そういう事か、大体理解した」


「あ?」


「いよいよお披露目する時が来たみたいだな」



「テメェ、何言って……」


『魔術付与』(エンチャント)『二律背反』(アンチノミー)!」




いざというときのために携帯していた木剣に、その力が宿る―――、




「かかってこいよ、悪党」




剣の切っ先を、こげ茶ローブの妖しい学生に向ける。




「良い度胸だ……後悔させてやるぜッ!」


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