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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第三章 「世界」の秘密
33/71

共食の獣

娼館に行くことの何が悪いって言うんだ……。


畜生、畜生……。




「ローツレス殿……有益な情報を見つけてきたにも関わらず……何故そんな浮かない顔を?」


「こいつは……、本当に娼館で遊んでいたらしい」


「な……!?あれはあの場の冗談だと思っていたが……真だったとは」


「まあお兄ちゃんがちゃんとした情報を持ってた事は確かだからね、いいこいいこしてあげる」


「あッ……ユユもやりたいです!」


「…………これは本当に、凶悪な魔物を討伐する精鋭部隊と考えていいのか?」


「ヴォルフ……。考えすぎは、よくない……、気を抜いて……いこう」



大柄の狼人がヴォルフ、小柄な甲冑少女がガングだ。

どちらもエメリアの近衛兵として雇われた強者だが、護衛中にエメリアを見失ってしまい、

よくわからん旅人である俺に助けられる、という失態を晒し、地位が危ぶまれている所だ。


そんな折――、王が出した「神聖騎士団」の一部である先遣隊が、

魔神十傑の住むと言われる「谷」へ偵察に行った所、戻ってこないという事態から、

急遽、先遣隊の救援に駆り出され……なんとなしに同行しているのだ。



「しかし……『共食カニバリィ』とはな……またおぞましい魔物も存在するものだ」


「聞いた……ことも、ない……、本当に、いる……?」


「俺もさっき話を聞いただけだからなあ……。どんな魔物かもさっぱりわからんし……」


「とにかく、食った相手を吸収できるってのだけが面倒くさいね。お兄ちゃん、食べられちゃダメだよ?」


「俺が食べられたら本気でやばそう」


「その時はユユが命をかけて助け出すので大丈夫です!」


「ユユ、もうちょっと命は大切に扱おうな」



これからの道中はかなり危険なものになるだろうはずなのに、

割と馬車の中はまったりとした空気が流れていた。だいたいヒナとユユのおかげだと思う。



「――うぉっ!?」



急に、馬車が横揺れする。



「どうした!?何事だ!」


「ヴォルフ様!敵襲です!!何者かから狙撃されています!」


「何……、一度、馬車を止めろ!ガング!」



「うん……、『広がりし大気よ、ここに集い、謳い、そして我を守らん――《角柱結界プリズム》』!」



突如、ガラスのような壁が四方に出現する。

飛来してきた何かを弾いているのが見える。これは――クロスボウか!



クロスボウは見た目から近代的な武器に思いがちだが、

古代ギリシア時代から存在する割と古典的な武器だ。


その威力に反して練習すれば使えるため、雑兵の武器にもってこいだ。



「もう敵の領土内か!?しかし聞いていた情報と敵が違うような……」


「ヴォルフ……あれ……」


「む……まさか!私兵団か!?」


「私兵団?」


「あの赤色の装束、ルイドスの持っている傭兵団がつけていたものと似ているのだ。

つまり、奴の私兵団である可能性が高い」


「ルイドスって……あの何か腹立つオッサン!」


「ああ、アイツは亜人差別の筆頭に立つ男だからな。一度殺しておいたほうがいいとは思っていたが……よもやここまでしてくるとは」


「あのおっさんは……姫様を狙っている……だからきっと私達が邪魔……ぺっ!」



急に態度が悪くなるガング。そこまで嫌いなのか、あいつ。



「悪意のある刺客なら、俺が出れば……!」


「待ってくれローツレス殿、貴殿は頼みの綱だ、ここで予想をはずしてダメージを受けたら、

後の『共食カニバリィ』戦が厳しくなる。俺が行こう」



「任せる……『吹きかける風の妖精よ、我々の行く手に加護を与えん、《風鎧グラムス》』!」



風の鎧を纏い、走り出すヴォルフ。


しかし敵も敵で、集団戦には慣れている様子。あっさりと勝たせてくれそうにはない……!




「ちぃ!ちょこまかと!」



あきらかにヴォルフの方がスピードは上だが、かく乱魔法、

クロスボウの弾幕と、ヒットアンドアウェイで近づかせてくれない。



――ならば。



「ユユ!」


「はいです!『雷撃フォルグア』!」




「何ッ……!?」



少し離れた敵に命中した事を確認した。

向こうもクロスボウを撃てる距離なら、当然こちらの雷撃は当たるはずだ。

スピードに関してはこちらが段違いに速いので、クロスボウと違って躱す事はまずできない。


こちらの援護が始まった途端、形勢が傾く。

そもそも戦力差的にはこちらの方が上。真っ向勝負になった時点で勝ちのようなものだ。




「ちっ……退け!」



赤装束の男が仲間に叫ぶ。

かなり状況判断の早い男のようだ。敵ながら優秀な相手というべきか。



「逃がすか!貴様らの上司について話してもらうぞ!」



追いかけるヴォルフ、明らかにこちらの方が早い。

これはいけ―――



「ヴォルフさん!逃げて!」



「……むっ!?」




ヒナの叫び声が早かったか――――、瞬間、赤装束の男が虚空へと消える。




そして「ばくん」という音と共に、大きな塊がある事に気が付いた。




「……な、なんだ、これは!?」




「……『共食カニバリィ』!」




見た目については聞いていなかったが、それが『共食カニバリィ』であると一目でわかった。

体は盾や甲冑という金属で覆われた、巨大なライオン、そして鳥と蛇が混ぜあわさったような姿。

何本もある尻尾の先は槍となっている。――いや、槍そのものか。


その長い舌で赤装束の男を捕らえ、捕食している。



「どこから現れたよ……!」


「擬態……してたの、かも」



そういえば、共食カニバリィの一部は緑色に変色している。

まだ谷に到着していないのに現れたという事は、こいつ自主的に砦から外に出て、食料を探しているという事か……!?

それも擬態みたいな、動物っぽい技を身に着けて……?




「予想してたよりも……やっかいだなこれ」





「オオオオオオオオオオオオオン!!!!」




共食カニバリィの雄たけびに、思わず足が竦んでしまう。

その一瞬を見逃さず、奴は次々と赤装束を捕食していく。



「まずい……次は、ヴォルフ……が!」


「いくぞヒナ!ユユ!あいつはヤバイ!」


「うん!」


「はいです!」



捕食と自己進化を繰り返す魔物――、しかも、思っていたより成長のスピードが速い。

向かってくる俺達に気づき、捕食を一時中断、そして、矢を射出する!



「もう、()()()のか……!」



すばやくヒナ達の前に回り、矢を叩き落とす。



「わっ、お兄ちゃん、剣術上手くなってない?」


「練習したのもあるが……これは多分、職能の効果だと思う!」



矢、矢、火炎弾、――そして、剣、槍、盾、兜!

次々と射出されるそれは、今まで喰らってきたものが何なのかを理解するには十分だった。

次から次へと的確に飛来するそれを、片っ端から剣で叩き落していく。



「良い腕だな!人間にしておくのがもったいないぞ……!」



ヴォルフも戻り、共食カニバリィに対して一斉攻撃の準備をする。



「ガング!赤装束を何人か牢獄に閉じ込めておいてくれ!このままでは全て食われてしまう!」


「わかった……『人を罰せよ、神々の息吹よ。その力を持って閉じ込めん、《封牢ギリス》』!」




風壁――気圧だろうか?突然出現した壁に赤装束は成すすべなく、

その場に座り込む。


しかしながらヒナとかで見慣れていたが、一発一発が強力かつ長時間にわたる呪文を連発し、

その上息一つ切らしてないこの人も結構すごいな。



「この距離なら十分!『愚鈍なる者よ、その思考を放棄せよ。《困惑コンフューズ》!』」



共食カニバリィの巨体がグラついた!

これは決まった……、いや、決まってない!?


グラついたかと思いきや――、すぐ様姿勢を建て直し、

射出準備に入る。これは連打が来る!



「う、うそっ!?効いてない!?」


「ヒナちゃん!あいつ……、()()()()()()()()!」


「ええっ……!?そんなのアリ!?」



「はやく……!角柱結界(プリズム)まで戻ってきて……!」



「ヒナ!ユユ!防御間に合うか!?」


「ちょ、ちょっと待って!防御系あんまり得意じゃないから!」


「……『聖壁よ(プレシディオ)』!」



ユユの十八番とも呼べる、無詠唱魔法によって光の壁が展開される。

最も、当の本人曰く、「そもそも魔法は詠唱するものではない」らしいのだが。



降り注ぐ火炎弾、そして剣や槍、矢といった金属物。

ユユは何重かに壁を張ってしのいでいるが、かなり厳しい様子だ。



「ず、ずっとは持たないです!お兄様、この隙に!」


「わかった!」



ユユたちが攻撃を引き付けているうちに横から回りこむ。


共食カニバリィはすぐさま俺の接近に気づくが――、



「ぜりゃあっ!」



ヴォルフが逆方向から槍を投げつけ、注意を引きつつ、



「『たゆたう風よ、刃となって敵を切り裂け!《風刃ストルム》!」


「『水よ、その意思を持って刃とならん、《穿水撃スプラッシュ》!」




「グオオオオオッ!」




ガング、ヒナによる遠距離射撃が命中する!

こちらに注意を割けば、その分ヒナ達にチャンスができる。

そして敵が向き直った隙をついて――、



「オラアッ!!」



一閃。横薙ぎの一撃は見事に共食カニバリィの胴体に深い傷をつける!



……しかし、



「なっ……傷が!?」




その傷はあっさりと塞がり、

槍となった尻尾が俺に襲い掛かる!



「くっそ!?」



剣ではじくも、その後の前足までは追いつかない。

前足の打撃をモロに受け、吹っ飛ばされる。




「お兄ちゃん!」



「大丈夫だ!加護がなかったら今ので死んでたと思うけど!」



強力な爪によるダメージもそこまでなく、

重い打撃としてのヒットなので出血もほぼないのだけが救いだ。



休む暇なく、火炎弾、そして斬撃が飛んでくる!



「遠近両方万能にこなせて、困惑も効かない、斬っても復活するって……どう戦えばいいんだ!?」



「ローツレス殿!聞こえるか!そいつの魔力はおそらく無尽蔵だ!

このまま戦っては埒が明かない!魔石を取り出すぞ!」



確かに。以前戦ったゴーレムもそうだが、魔力の容量が大きい相手は実質不死身だ。

ならば、根源となる魔石を取り出して、魔力を込めて封印するしかないのだが――。



「どうやって魔石を取り出す……?」



斬ってどうこうするにはあまりにも再生が早い。

体を破壊しようにもそれだけの強力な魔法はどうする?

しかも相手がその魔法を吸収できるとしたら……。



「俺が、すごく早く動いてがんばる……?」



そういう結論しかない。




「――ッ!『プレシディオ』!」




突然目の前に光の壁、そして爆発が起きる。



「んなっ!?」



「お兄様!聞こえてるです!?そいつは自分の尻尾を自爆させたですよ!」


「そんなのアリかよ!」



おそらくユユの魔力視にて尻尾の魔力の増大を読み取ったのだろう。

いくらなんでもアリすぎだなこいつ。



もちろん爆破した尻尾は一瞬で元通りになる。

まさかこいつ、無敵か?


ジリ貧だ。

ヴォルカニクスのように一撃で全体を同時に攻撃するような技があれば……。


そうか、ヒナかユユ、もしくはガングに聞けば……強力な全体攻撃魔法があるのではないか?


そう思い振り返った瞬間、



「『プレシディオ』!」



「――な!?」


爆発、そして逆方向からも槍が飛来する。



こいつ、この一瞬で学習しやがった!


この距離なら、なんとか剣で弾けるか……!?






が、飛来したはずの槍は、いつまで経っても俺に届くことはなく、


さらには、共食カニバリィの体は真っ二つに両断され、崩れ落ちていた。






「――――まったく。こんな雑魚相手に何時間かけてるんだ君達は」





その手に歪な魔石を握り、魔力によって封印を施す。


美しい金の瞳、いやみのない銀髪、透き通るような白い肌。



勇者と呼ばれた人物が、そこにはいた。





「君と話をしにきたよ、ウィード・ローツレス。いや、根無草太、異世界よりの来訪者よ」

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