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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第二章 目指すは王都グランディア
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修道院を救え!③

「いいなあ、いいなあ、可愛いなあ~……」



シーナが修道服を手に入れた翌日から、もはや彼女の私服と化したそれだが、

洋服というものがそもそも高級なここでは、単純に新しいお洋服というだけで羨望の対象となるようだ。


くるくるとシーナの周りを回るミルフィは見ていてすごく可愛らしくて飽きないのだが、

それはそうとして別の顔も見たくなってくる。



「そういえばミルフィ、今日からバイトだったよな」


「はい!今から楽しみです!」



元気一杯である。

一応本日昼ごろに面接に行き、彼女の一通りの技能を披露し、接客対応も花丸をもらってきたので、

取り急ぎ問題はなさそうだ。



くるくる回るミルフィ。この子は本当常に回っているような気がする。

とかく元気がいいのだ。



「シスター、あれを」


「はーいっ♪」



元気よくシスターが奥の部屋引っ込み、服を携えて戻ってくる。



「ミルフィ」


「はあい?」



ぽん、と手渡されたその服の意味を、よく理解していないようだったので、

続けて説明してやる。



「ミルフィは今日からウェイトレスさんになるんだから、それ相応の制服って奴だ……!

俺達からのプレゼントだ」


「……」



ぽかーん、と言った表情だ。

あまりうれしくなかったのかな?少しドヤ顔が過ぎたかな――、と反省したその瞬間。



ぶわっ


とミルフィの目から涙が。



「ほ、ほんどに、ほんどにいいの……!?」



ぐしぐししながら服を抱え込むミルフィ。



「あ、ああ……お前のために作ったものだからな!」



「いやったーーーーーーーーー!!!!うわーーーーい!!!

やった、やった、やーった!!!!」



その喜びようときたら、プレゼントしたこちらがうれしくなるほどの大げさなものだった。

普段から明るい子ではあったが、ここまでとは。


そしてユーリイと目が合い、ふふと笑う。やはりあの子は、誰かのために頑張る事は得意だが、

自分のために頑張ってもらった経験は少なかったのだろう。


元々女の子らしい事に憧れていた節があるので、このプレゼントは予想以上にうれしかったようだ。



「さっそく着てみてもいい!?」



ぷるんっ。と上着をぬぐミルフィ。


…………まてまてまてまて!



「まてミルフィ!ここで脱ぐな!?」


「これ着かたわからない……」


「まず上を着ろ!!そして別の部屋で着替えろ!」



膨らみかけのそれがぷるんぷるんと主張するのは大変目に毒だ。

しかし本当に発育いいなこの子は。シスターの血でも継いでいるのか。



「シスター、あっちの部屋で着替えさせてあげてください」


「はーいっ」


元気良く奥へ引っ込む二人。ユーリイはずっと横を向いていたが、首の角度がおかしくなっている。

こいつ無理して目をそらして首痛めたな……。



――――



そうして、地上げ屋との約束である二週間が明日に迫った頃。


俺達は収入金の計算をしていた。



「わ、すごい……」


「支援金に寄付金に給与、あとは随時依頼もこなしてますからね。

今までの4倍以上は稼げてるんじゃないですかね?」


シスターは開いた金貨袋の量に驚きを隠せないようだ。

これなら今月分は利子と合わせて二回払ってもおつりが来る。



「ただいまーっ!」



その中で修道院一番の元気娘が帰ってくる。

おとものユーリイも一緒だ。



「んっふふ~、今日も頑張ったよー!」



先日渡したウェイトレス服がすっかりデフォルトになってしまったので、

替えをもう一着用意しようか検討している。


シーナもそうだが、寝る時以外この服を脱ごうとしないため、

汚れや痛みが目に見えてくる。気に入ってくれるのはありがたいが、服はもうちょっと色々着てくれたほうが……。


特にミルフィは顕著で、貰ったその日は「んっふふ~♪」と言いながら二時間くらいくるくる回っていた。

そこまで嬉しかったのか。



そしてがしっ、と座って資料をまとめていた俺にのしかかってくる。

あたる、あたるから。背中に当たってるから……。



「なにやってるんですかー?」


「ああ、お金の計算だよ。お前の頑張りもあって、この修道院、これからも続けられそうだよ」


「本当ですか!」



飛び跳ねるミルフィ。本当に、感情の触れ幅がすごい。



「嬉しいです……」



そして近くに戻ってきて、再度俺にもたれかかり、頬をすりすりしてくるミルフィ。今日なんかアレだな、お前、唐突に距離が近くなったな……?


「ウィードさん」


「ん?」


「ずっとここで暮らしません?楽しいですよ?」


「えっ?いや……確かに俺も楽しそうとは思うけど、それはちょっと」


「そうですか……残念です」


「ああ、でもこの町はきっと何度か来ることになると思――」



そこまで発言したところで、肩に水?のようなものがかかる。

飲み物でもこぼしたか?もしくは――



「ぶぇえ……」



ボロ泣きするミルフィだった。

この子は涙腺が弱すぎる……!?


いきなりの展開に俺があせっていると、講堂のドアが勢い良く開き、

聖書を読んでいたのであろうシーナが登場する。



「ミルフィッ……!どうしたの!?誰にやられたの!?」


「ぶぇ……」



――そう。お悩み相談室以降、彼女らは一気に仲良くなった。

元々同年代の女の子同士、思うところがあったのだろう。シーナが非行に走っていた時は時間が合わなかったんだろうなあ。



「ウィード……!!ミルフィに何したの!?答えによってはタダじゃおかないから……!

このスケベ!ロリコン!ごーかんま!」


「待て待て待てすっごい誤解をしているすっごい誤解を!」


「そんなにえっちな事がしたいならあたしとすれば!?」


「えっいいの!?じゃなくて!まず落ち着いてくれ!あとその言葉誰から教えてもらった!!ヒナは後で説教!」


「ええ~っ!?お兄ちゃん!そんな……!」



今回の裁縫や魔法付与、さらに俺が別の事をしているときに武器や防具の手入れをしてくれている事は、

大変嬉しい。しかしそれはそれ!これはこれだ!!



「だってこの子が教えて欲しいっていうから!」


「お前は15歳に何を教えてるんだ何を……!!」


「15歳って成人だよ?お兄ちゃんの世界ではロリに入るかもしれないけど……」



そうなの!?じゃあさっきのロリコンは適切ではなくない!?

いや実際ロリコンかもしれないけど!



「えっ……ウィード、ここを出るの?」


「いや待って、何その反応」



シーナの表情はそれはそれは複雑なもので、

長年連れ添った親との別れをも示唆するようだった。



「う、嘘だよね……?ウィードはこの町で騎士団として働くんだよね?」



なんだよその展開は。

いや、それはそれで楽しそうだけど。確かに修道院で過ごすの相当楽しそうだけど。

番外編とかあったらそこでやりたいくらいだ。


「ウィードさん、そういえば、最初にお話してくれた時、シーナがいなかったと思います」


「あ、そういえば……」



確かに。シーナは最初非行のため、俺達が来たタイミングではいなかった。

そのため、泊まるまでのやり取りや、旅の目的は話してなかった気がする。

隠すことでもないので、さっくり話していく。



「俺は……魔族と人族の戦争を止めるために旅をしてるんだ」


「せ、戦争……!?」



思ったより大きいスケールの話に驚くシーナ。



「ああ、シスターから聞いたかもしれないけど、実際に女神の加護を貰っててな……。

この力を持ってして、戦争を止めなきゃいけないんだよ」


「……」



これだけの大きな話をするのは始めてなのだろう。

シーナはおろおろするばかりで、上手く言葉が出てこないようだ。



「悪いな。俺もずっと一緒にいてやりたいのはやまやまなんだよ。

でもこれは、俺がやらなきゃいけない事でさ」



ノブレスオブリージュ。フランスの言葉で、「高貴さは義務を強制する」

財産や権力、社会的地位のあるものは、それ相応の責任を果たさねばならないといった感じの言葉だ。

これと同じように、俺の「能力」にも責任が伴ってくる。


俺はともすれば、前の世界で何も成し遂げず息絶えていた。

むしろ今の俺はゾンビのようなもので、本当の俺はもうとっくに死んでいるのだ。


許されたこの異世界での二度目の人生に、妥協や甘えは許されない。

俺がこの手で人々を救うのだ。



「そ、それは……」


「それは?」



おずおずと、口を開くシーナ。

彼女にとっては珍しい。きっとかなりのショックだったのだろう。



「それは、ウィードじゃなきゃダメ?他の誰かじゃ……」


「……」



確かに、他の誰かでも良いだろう。

しかし誰がやるというのだ?


探せばきっと、俺以外の異世界転移者もいるかもしれない。

確かに、俺がやらなくても誰かがやってくれるかもしれない。


それは、確かだが……。



「いや、俺じゃなくてもいいかもしれない」


「だ、だったら――」


「ごめんな、それでもこれは俺の仕事なんだ。きっとこうして俺が召喚されたのは、何かの運命だったと思うんだよ。

おそらくここには、俺にしかできない事も多くある」



今回の件だってそうだ。色々な解決方法はあるが、流石にシーナちゃんの出張懺悔室を始めるバカは中々いない。

魔結晶を売ってその金を寄付すればいいだけの話だ。そちらのほうがずっとスマートだっただろう。



しかし、そのスマートな解決では、彼女らの友情は育まれなかった。

俺がいなくなった後の修道院がどうなるかもあまり考えたくはなかった。


だからこそ、ここに俺がいるのだろう。

今考えられる最善の手を打つことで、一人でも多くの人を、魔族を救えるのならば、

俺は喜んで旅を続けよう。



「そっ……かあ……」



――それは、あまり見たくない顔だった。

あの時の顔と似ていた。初めてシーナと会った時。

まるで社会を経験した、くたびれたサラリーマンのような、諦めの表情。


懺悔室のあとは、自分がやればできるという自信に溢れていたし、

ミルフィと女子会をしていた時の彼女の表情は年相応のそれだった。


元気で、可愛く、ちょっと生意気な彼女は今、

正社員を諦め、フリーターとして過ごしていた頃の俺に似ていた。



と、そこまで話したところで、

後ろから声をかけられた。



「ウィードさん、お話があります」



いつになく、神妙な面持ちをしたユーリイだった。




――――




「剣を」




中庭にて渡されたのは木剣。


辺りは暗くなっているが、この近辺には街路灯として「光石」がある。

これは光ゴケの一種が混ぜ込まれた魔石のひとつで、魔力をこめると光る便利なものだ。




「俺と、戦ってください。今、ここで」



「……わかった」



ユーリイはどこで鍛えたのかしらないが、

ふつうの16歳と比べて段違いに強い気がする。

体は確かにがっしりしているが、それ以上に動きが俊敏、戦いのセンスがいいのだ。

普通に戦ってしまうと負けるかもしれない。



彼も彼なりに、きっと思うところがあるのだろう。

これは所謂、けじめ、という奴か。




「宣言しておきます」


「ん?」


「今から俺は、ウィードさんの足を折ろうと思います」


「は!?」



お前は何を言っているんだ!?



「もうご存知だと思いますので今更隠しませんが、僕はシスターが好きです。一人の女性として。

聖騎士の身でありながらこのようなよこしまな思いで修道院にいる事が悪だと自覚はしています」



えっ、お前聖騎士だったの。



「しかし僕は修道士であり、聖騎士である前に一人の男です。

好きな女性が悲しむ事は、なんとしてでも食い止めたいのです」



「お前……」




シスターは恐らく、俺の事が好きなのだろう。

そしてユーリイはそれを理解している。自分が弟や、子供のように見られている事も理解している。

それでもなお、俺に残ってもらうため、自ら悪役を演じようというのだ。


どれだけの自己犠牲精神なのか。

彼がここまで来るにいたった考えを思うと、胸が痛くなる。



「僕はシスターも大切ですが、やはり修道院の仲間達も大切です。

彼女らがあのように泣く姿をみるのは、正直辛いです」


「俺もそこは一緒なんだけどな」


「なら恥を捨てて言います。負けてください、素直に足を折られて、ずっとここで療養してください。

彼女らは足を折った僕に相当な罵詈雑言を浴びせるとは思いますが、それでもいいです」



お前は一体、どれだけの経験をしたら()()なれるんだ。



――瞬間、ユーリイの姿が消えた。



「――もらった!」



左斜め下、死角からの木剣のフルスイング、

あわててジャンプし、すんでのところで木剣を躱す。


しかし、その勢いを殺さぬまま、一回転したユーリイの蹴りがモロに腹に入る!



「ごはっ!?」



勢い良く床にたたきつけられた俺は、思わず体勢を立て直そうとするが、

そこにもう一度、木剣を大きく振りかぶるユーリイの姿。


こいつ、どんだけ早いんだ!?


おもわず自分の木剣でユーリイの剣を受け止めるが、受け止めきれず頭にぶつかってしまう。

まずい、これ以上頭にダメージが入ると、立てなくなる、


追撃といわんばかりに足を踏み、その踏んだ足めがけて木剣を振りかぶるユーリイ。


一発一発に力が篭っており、俺の加護がうまく発動しなければ、

そのまま骨を砕かれる勢いだ。


あわてて踏まれてないほうの足でユーリイの足を蹴り、

そこから離れる。

しかしユーリイは体勢を崩さず、バックステップした俺の懐に入り込み、

木剣での一撃をお見舞いする!



「ぐっ……!?」


骨はイってないようだがそれでも何回も食らうとまずいのはわかる。

しかしながら加護がさっきから弱いのは何故だ!?いつもの半分くらいの出力しか出ていない。




「……一緒に、ここで暮らしましょう。ウィードさん」



ニタリ、と笑う彼の顔は、


先日戦った竜人族よりも、人間離れしたそれであった。

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