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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第二章 目指すは王都グランディア
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小さなキモチ

サキュバス(わたしたち)にとって、一人旅はそう珍しいものではない。

他の冒険者や人間(えもの)達は、女性が一人でいると油断する傾向にあるらしい。


理由はよくわからないけど、実際そうなんだから仕方がない。



こんな私も、数千年程前はお嬢様をやっていた。

暖かく幸せな家庭で、執事や使用人達と過ごしていた。確か15歳くらいの記憶だろうか。これは。



しかしいつしか、私の周りの人間達は皆死に、母親もどこかへ消えていた。



一人になってしまった私は、当て所なくどこかへ向かった。それがこの旅の始まりだった。



最初はそれこそ、本当に死ぬか生きるか、そんな危険な冒険だった。

箱入り娘だった私にとって、お屋敷の外は未知の領域。あっさり野犬に殺されかけたり、

魔核が見えるギリギリまで鳥の餌になっていた事もあった。


特に人間は下種が多かった。

幼い少女が一人で歩いているからか、金品を強奪したり、いきなり攫って強姦しようとしたり、

奴隷として売り飛ばそうとする奴。そんな奴は飽きるほど見てきた。



その時ほど、この種族(サキュバス)であることに感謝した事はなかった。

人間の男は何故か知らないが、強姦しようとしたときあっさりと急所を差し出してくる。

それはサキュバスにとっては自殺行為、そのまま命ごと持っていって下さいと言わんばかりの愚かさだ。



そうして何人だろうか。100人、1000人、いや10000人は超しただろうか。

途中から数を数えなくなっていき、私はサキュバスの頂点に君臨していた。

――最も、君臨するほどサキュバスの数は残っていないのだが。



サキュバスは元々か弱い種族だ。武力も低く、魔術の能力もいまいち。

強みは随一の魅了(チャーム)と、男性型の人族や魔族からの吸収(ドレイン)ができる事。

男がいる限り私達はとにかく生き残るのだ。


ただし、サキュバスは人間と同じ胎生。子供を生めるのも一度に1~2人が限界で、

卵生の魔物や、他種族のメスに生ませるタイプの魔族たちと違って、非常に効率が悪い。



サキュバスは人間の男の子を孕み、その子供は必ずサキュバスとなるのだ。

そうしてサキュバスが増えるよりも、王都が誇る『神聖騎士団』とやらが近年力をつけてきて、

『破邪』への耐性がないサキュバス達は次々と姿を消していった。



『魔族狩り』――人間達は闘牛やコロッセウムと同じように、スポーツ感覚で魔族を殺す。

どの様な魔族を殺したかを喧伝し、酒の肴にする。



私達からすれば腹の煮えくり返る話で、全くもって理解ができない行為だが、

人間を殺し食べている私達も、人間からすれば同じようなものなのかもしれない。





1800年が過ぎた頃、私は魔人十傑と呼ばれる程、強くなっていた。



世界のあらゆる魔道書を読み漁り、禁忌と呼ばれる場所にいくつも訪れ、

伝説と呼ばれる道具をいくつもこの手にしてきた。



未だに近接戦闘は強くならなかったが、それを補って余りある『困惑(コンフューズ)』がある。


私には誰も逆らうことができないのだ。




唯一の例外は魔王様だった。

彼の魔人(ひと)は神からの加護を得ているらしく、流石に千年いくらのの鍛錬では神には勝てず、

自身の無力さを悟ったが、魔王様はそんな私を認めてくれ、十傑として誘ってくれたのだ。



うれしかった。

単純に誰かに認められる事が。

単純に誰かと共に戦えることが。



しかし魔王様はお忙しい方だった。


彼の魔人(ひと)はその理想のため、日夜勤勉に業務をこなし、魂を削っていた。


私という魔族(モノ)は一介の駒に過ぎず、特別な存在になれないという事は、

100年も経たぬうちに理解した。



結局私は一人なのだ。


誰かから搾取されるか、魔族狩り(あそび)の標的にされるか、

それでなければ畏怖か、恭順か。



魔王様はお忙しい身。

きっとこの私に目を向けてくださる事はないだろう。



そうなれば、私はそもそも何のために生きているのだろう?

サキュバス達の頭領を名乗ってはいるが、他の生き残り達とは殆ど接点もない。

この種族、滅んでもいいんじゃないかとさえ思い始めた。



生きるために必死だった2000年の後は、


なんのために生きてるかわからない数年が始まった。



サキュバスの寿命はおおよそ2000年と少し。もっともこれも、お父様から聞いたお話や、

本で読んだ事なので、正確な資料ではないと思うが、私にはわかる。もう私には後がないのだろう。



私の今までは何だったんだろうか。

そんな矢先である、『来訪者(あの人)』の話を聞いたのは。




魔王様が感じたらしい。魔王様は神のご加護によって、大きな魔力のうねりを感覚で理解できる。

何でも、異世界召喚と呼ばれる神代の術式を検知したらしい。



久々に興味が沸いた。

異世界人、それは今まで出会ったことのない「未知との遭遇(ふしぎ)」


さっそく魔王様に場所を聞き、討伐という体でその場所へ向かった。

魔王様曰く、敵になった時に非常に厄介な相手であるとの事だ。


私ですら敵わなかった魔王様を脅かす相手、それは一体どのようなものだろう。

ここ千年くらいの間で、一番興味のある事だった。





――そうして出会った『来訪者(かれ)』はお世辞にも強そうとは言えない、

どこにでもいそうな青年であった。


年齢は20後半か…東の方の出身なのだろうか、童顔ではあるががっしりとしており、

背が高い。顔がタイプかどうか聞かれたらまあタイプな方だけど、それでも私の期待からは外れていた。



ただ……。




「――大丈夫?」




童女のフリをしていたとは言え、こんなにかっこよく助けてもらったのは初めてだった。


あんな野犬程度、一ひねりで殺せる。魔術に頼らずとも、そのまま力を入れるだけで十分に殺せた。


彼は……迷わなかった。ほんの少しも。



単なるお人よしなのか、考え無しなのか、それは今となってはわからない。

ただ、このボロ布を被った小汚い少女を、一切の疑いもなく守ったのだ。



――不覚にも少し、数百年前に忘れてきた感情が舞い戻ってくる気がした。



いいや、これは気のせいだ。そう自分に言い聞かせ、彼に『困惑(とっておき)』をぶつけてやる。




しかし彼は意外にも、これを自我を持って受けきった。




……驚きだ。




この『惑わし』の二つ名を受けてから、私の『困惑(コンフューズ)』を耐え切った人間は……存在しない。

耐えられるはずがない。こいつはた(・)だ(・)の(・)人(・)間(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)。




あわてて《捕縛(バインド)》を、それでも解かれそうだったので《安息(リラックス)》を詰め込んで、

ようやく寝かせる事ができた。


心臓が早鐘を打つ。こんなキモチはいつ振りだろうか。私は今久しぶりに「戦っている」んだと理解できた。

自分よりもしかしたら格上となる相手とだ。



彼が眠った一瞬のスキに殺してもよかった。

しかしそれはできなかった。もっと楽しみたかった。きっと私の魔生(じんせい)で今が一番楽しいときなのだ。

この楽しみを、この胸のドキドキを、そんな簡単に手放してたまるか。




――私は想像以上に戦闘を楽しみすぎてしまったらしい。


睡眠から回復した彼は、拘束を破壊、困惑状態からも復帰した。


そして私に剣を向ける。そう、実質的な“詰み”だ。




楽しかった。こんなに心が躍ったのはいつ振りだろう。

戦いというよりも情熱的なダンスのようなそれの、余韻をゆっくりと味わっていた。

そして私は殺される。とてもすてきな幕引き(ハッピーエンド)だ。





「……殺せない、俺は、君を」




…………えっ?



この人間は何を言っているのだろう。

実質的な“詰み”である事は親切に説明してあげた。

もう私に手だてはない。ないと言い切ってしまうと嘘になるが、この綺麗な戦いを私の無粋な魔術(わざ)で汚したくない。


それでもなお、私に情けをかけるというのか。



私が舐められている?そんなはずがない、彼から感じる魔力の残滓はあの煉獄(へんくつ)のもの。

あいつの強さを知っておきながら、魔人十傑を舐めてかかるはずがない。

いくら加護のある人間といっても限界がある。


なんなら、私は相性としては最悪のはず。彼の職能はおそらく『聖騎士』。私のようなサキュバスとまぐわってしまえば、

その力はどん底まで落ちていき、村人より貧弱になってしまう。ここで殺すのが一番いい。次にいつ襲われるかわからないからだ。



異世界人というのは、皆こんなに非合理で、意味のわからない事をするのか?

私は彼の事がわからず、つい質問を繰り返す。



彼の口からついて出た言葉は……、




「君は……俺の希望なんだ」




希望……?全く、さっぱり、意味がわからない。

しかしその時、私の職能である『人格投影(トレース)』が働く。

これは相手の性的な欲求をより完璧に満たすため、相手の思考、記憶の一部を読み取る事ができる能力だ。




そこに写った光景は、金属や土、そして不思議な形をした建物がたくさんある世界。

小さな少女達が遊んでいる。


彼はそれをみて微笑んでいた。まるで国の行く末を見守る国王のように。



そうして、気づいた。今この瞬間、私が女として見られていることに。

一人の少女として、扱われている事に。


彼の世界の言葉で表すならば、彼は小児性愛(ロリコン)なのだろう。それ故、私の幼い体にも反応してしまっている。



私は何度も性的な目を向けられてきた。

何度も陵辱されそうになってきた。――しかし、これは違う。



私を魔人十傑と、恐ろしい魔族と理解して。


さらには性的に襲われかけて、なお、彼は自分を律したのだ。


この感情の混ざり方、もしかして、もしかすると、聖騎士の職能以外にも「私への遠慮」が混ざっているような気がする。



私はサキュバス。色香によって男を惑わす色欲の魔族。


それがなんだ、生娘のように、こんなに丁寧な扱いを受けたのは何百年振りだろうか。



もう、私のあらゆる興味は、この男に移っていた。


生も死もどうでもいい。ただこの男と遊びたい。からかいたい。

この男にえっちな悪戯をしたらどんな反応をするだろう。

自分の事を話したい、彼の話を聞きたい、一緒に過ごしたい。



願わくば、願わくば――




この男の子を孕み、彼との子に、看取られたい。




どうしたものか。



先日まであれ程意味のない魔生(じんせい)と言っていたものに、

突然価値が生まれてしまった。


やり遂げたい、なんとかして、頑張りたい。

そんなキモチが生まれてしまった。私はこの、非常に小さな、それでいて自分の全てをつき動かしてくれるこれに、

希望を見出せずにはいられなかった。



年甲斐もなく、駄々をこねよう。


初対面の相手に、わけのわからないわがままを言おう。


そうしてでも、手に入れたいものがそこにある。




「じゃ、連れてってよ」



その交渉に、あまり時間はかからなかった。






――それから。



彼との旅は平凡で、特に特別な出来事があったわけではない。


馬車に揺られ町へ行ったり、乗馬の練習をしたり、お買い物をしたり、その程度だ。


ただ、私は知らなかった。時間が経って固くなったパンや、保存食として味は二の次である干し肉が、

こんなにも、美味しいものだと。


なんでもない馬車での移動や、単純に疲れるだけの徒歩の移動が、こんなにも、楽しいものだと。




今私の世界には色がついた。

見るもの全てが美しく、聞く音全てが幻想的だ。

鳥のさえずりさえも、私達を祝福しているかのように感じる。



もう、私の心は決まった。


この男(おにいちゃん)の子を孕み、母親として子供に看取られ死ぬのだ。

名前は何がいいだろう?確かお兄ちゃんの本名はソータ、とかいう名前だったと思うので、

それをもじった名前がいいだろうか。





――そうだ、今度彼に相談しよう。

きっと照れながら、真面目に考えてくれるはずだ。


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