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30歳童貞聖騎士おじさんVSドスケベロリサキュバス  作者: 御園蟹太郎
第二章 目指すは王都グランディア
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修道院を救え!②



例えばこの修道院、どうすれば問題を解決できるかと聞かれたら、当然、「現金の調達」がゴールだ。


一割あがっていくらになったか知らないが、その家賃を俺が肩代わりして、適当に地主をしばけば終わりだ。


しかしそれではいけないという事を、俺は何となく理解している。




前回の竜人族の問題に関しては、今後彼らは人間を攫って食料とする事はしないだろう、と言ってくれた。

その理由は「俺への義理」ではなく「単純に効率が悪いから」との事だ。


曰く、人間はすぐ腐る上、ゾンビ・モンスターになるという問題や、

一度襲った村は警戒されるとか、迎撃する人間が強ければ死者が出る、という事だ。


それでも人間を食べ続けていたのは「マナが豊富だったから」に過ぎない。

しかしながら、そのマナ量がはるかに効率的なものを見つけたのだから、まるで話が違う。


魔結晶自体は有名なもので、ヴォルカニクス達も全く知らないわけではなかったが、

あそこまで採掘に向いている場所、となると皆目検討も付かなかったらしい。里で暮らしていたら得られなかった知見だ。



これが火種を解決するための『仲介者』としての仕事なのだろう。

無論それは、魔族と人間族だけでなく、人間と人間の仲介としても同じ事だ。




今よりもっと、より良いやり方があり、

それを提案する事が何よりの近道。乾き飢えた相手に水を与えるのではなく、井戸の掘り方を教えるのだ。



あまねく人々に、女神の導きがあらんことを。




――――




「……何見てんだよ、気持ち悪いな」



この口が悪いのがシーナだ。昨日深夜に帰ってきて、

ユーリイにお祓いを受けていた。不機嫌な顔でお昼ご飯用のパンをかじっている。


「シーナ、僕達の言うとおりにしろ等という気はないが……あまりに自由がすぎるぞ」



キリッ、とした顔で注意するユーリイ。君本当に顔がいいな。



「うるさいな……どこで何しようがあたしの勝手だろ」



まるで親に歯向かう反抗期の娘だが、外見年齢は同じくらいだ。

それよりも……。



「シーナ、お前最近いつ風呂に入った……?」


「忘れた」



…………。



「いけ、ミルフィ」


「わかりましたーっ!」



シーナを羽交い絞めにし大衆浴場に連行するミルフィ。

良い子だ。後で褒美をやろう……。



「はな……力つよっ!?」


「伊達に毎日お掃除もお料理もやってないよ~」




そう。この世界では炊事、洗濯、掃除……どれをとっても重労働なのだ!

その結果、ミルフィには健康的な筋肉が付いていた……!そして早寝早起きを徹底しているミルフィに、

深夜まで遊び歩いているシーナが敵うはずがないのだ……。



はなせぇ~……というシーナの声が遠ざかっていく。

満足げに見送る俺を見ながら、ユーリイが呟く。



「全く……貴方は何を企んでいるんですか?」


「止めて欲しいか?」


「……いいえ、本当はお願いしようとしたくらいです。

ただ、外部の人間を巻き込む訳にはいかない、と思ったので」


「悪いな、勝手に巻き込まれてしまった」


「お人よしにも程があります」


「……お前本当に16歳か?」


「今年で17になります」


「なるほど」




「お兄ちゃん……指が疲れた……よしよしして!」


「よしよし……うわ手すべすべだな」


「えへへ~もっと~ふゆゆ~……」


撫でられどろどろ溶けながら、横でちくちくと裁縫をするのは我が相棒・ヒナだ。

とある事に使うための魔法装具を作ってもらっている。

元々古着を買ってきたものをリサイズし、魔術的な様式を組み込んでもらっているところだ。


しかしマジで何でもできるな……いくらなんでも万能すぎじゃないのかこの子?

逆にできない事って何なんだ?



ヒナをなでくりまわしながら、次の行動について考える。

どこまで計画通りに行くかはわからないが……まずは行動あるのみだ。




――――




「……はあ?君は何を言っているんだ。修道院を、学校に?」


「そうです!それがこの町をより豊かにするソリューションなのです!」


「そのそりゅーしょん?かなんだか知らないが……私は暇じゃないんだ。遊びに来たなら帰ってくれ」


「いえいえ、まずはお話をお聞きください、町長」



俺は上手くアポイントを取ることにより、なんとか町長と話をする事ができた。

それもこれも、修道院への支援金を確保するためだ。



「学校はご存知ですよね?あの王都にもある最高学府」


「当たり前だ。魔術や剣術、様々なものが学べる最高峰の場所だ。

あんなものが修道院に簡単に作れるわけがなかろう」


「ええ、ごもっともです。ですが私が提案したいのそういうものではなく、

『読み書き』『道徳』『基礎魔法』の学びの場です」


「む……?そんなもの、家でも学べるだろう」


「そう思われるのも当然かと思われます。しかしこちらをご覧ください」


「なんだこれは?」


「これは、町中の人々に取った意見でございます。ご覧を、日中は仕事が忙しく、

子供の相手ができていない家族が大半でございます」


「ほう、女も仕事に駆り出されているという事か」


「はい。この町の忙しさはもはや常に最高潮。男女問わず日々の仕事に追われております」


「なるほど……しかし子供はどうなる。放置か?」


「ええ、そこであの修道院が出てきます」


「修道院が?」


「はい。あちらは元々子供が多く、所謂孤児院のような側面があります。

そのため町の家族が、子供を一時的に預ける場として使っているようですね」


「なるほど……子供が決まった時間に集まっているのか」


「そうです。そこで教育を行うのです。読み書きができ、道徳を学んでいる、

魔法に精通した子供達はきっと将来この町に立ってくれますし、何より……」


「ふむ……」


「それ程までに管理、教育の行き届いた町。それを治める町長の手腕は、諸外国より注目されるでしょう!」


「…………!」



町長の目が開いた!

ちなみに、先ほどから時々、意図的に横にいるヒナに町長と目を合わせてもらっている。

これはヒナの魔特性、『困惑の眼差し(コンフューズアイズ)』を使っているためだ。


この特性はヒナの常識はずれの『困惑コンフューズ』を詠唱無しに使う荒業で、本当に微細な威力しかないが、

ヒナと目が合うたびに、少しずつ考えが分散していく。


今回のような強引な理論展開は、通常の町長なら通らなかっただろう……受付の人にも使ったし。



「そのためにはあの修道院に資金援助をなさるべきです。それで貴方様の功績となる」


「ふむ、ふむ、そうかそうか……資金援助をするだけでそのような効果が得られるなら、悪くない。

気に入ったぞ、名も知らぬ商人よ」


「ははっ、ありがたき幸せ」



そして町長に拇印を押させた……。



「……けいやくかんりょー♪」




俺は決して、決して騙してはいない。

この紙が強制的な呪いによって契約内容を履行してしまう『悪魔の契約書(デーモンズコレクト)』である事は、

聞かれていないので答えていない。ちなみに反故にしたときの呪い返しは凄まじく、その家が滅びてしまうほどらしい。

おお、こわいこわい。





――――




「というわけでシスター、今日から先生としてお願いしますね」


「せ、せ、先生!?私がですか!?何が!?何で!?」


「僕は先日から聞いていたのでわかっています。護身術や、魔法を教えればいいんですね?」


「そそ、シスターは道徳の授業を」


「じゅ、授業……!?そんなこと言われても何の経験もないですし、

私にそもそもそんなことが……!?」




――――




「…………そうして、この女の子は泡となって溶けてしまいました。

嘘やごまかし、でたらめは人の身を滅ぼす。そんな悲しいお話です」




シスターの読み聞かせは、やはりというか効果絶大であった。


先ほどまであれだけ騒がしかった子供達が、一心にシスターの方を見つめていた。


深く、鋭く、それでいて、子供にもわかりやすい優しい語り口調。

やはりシスターを選んで正解だった。



「本日はここまでです。また明日もお話しましょうね」



ノリノリである。



「では次、僕から護身術を教えます」



基本、依頼さえなければ暇なのがユーリイだ。

しかしながら彼も中々の万能性があり、あの年で剣術と魔術ができるのは中々珍しいはずだ。

人材として使わないのははっきり言って損だ。




そして、シスターが授業の準備で忙しくなると、必然的にシスターがやっていた仕事に抜けがおきるが……。



「あ、そうだ、懺悔室……」


「大丈夫ですよ、シスター」


「はい?」


「本日は助っ人を呼んでおります」


「すけっと?何のですか?」



ガララーッ!とハリボテを持ってくる。

題して、『シーナちゃんお悩み相談室』である!!



「ええーっ!?」


「わ、シーナちゃんかわいい!」



そしてそこには……キュートな修道服に身を包んだシーナの姿が!

おめかしはミルフィとヒナに手伝ってもらって、すっかり美少女になっている。

元の素材はいいので、ちゃんとお風呂に入って髪の毛を切って、

おしゃれしてお化粧すれば完璧なのである。



「何だよこれ……あたしに何させる気!?」


「お悩み相談室」


「だからそれが何だって言ってんの!」


「まあまあ、百聞は一見にしかず。いざ、町へレッツゴー」



「ま、まてっ……まって……!」




シーナちゃんは口は強いが行動には出せないタイプなので、

グイグイいかれると逆らえないのだ。俺は知っている。




――――




「出張懺悔室です!普段いえない悩みをここで!皆のアイドルシーナちゃんがお答えします!」




ざわつく町中。



当たり前である。はっきり言って意味がわからない。



しかし間違いなく注目は集めており、ひょこっと顔を出したシーナに「カワイイ!」の声が。


恥ずかしがって引っ込むところがまたカワイイ。



少しすると、くたびれた男性が声をかけてきた。



「……懺悔がしたい」



「どうぞ!」


はりぼての仕切られたスペースへ。

声は近くだと聞こえるが、外からはあまり見えないのがポイントだ。

黒布、まあまあ高かった。




「俺は……」


「…………」



「俺は、妻がいるにも関わらず、別の女性と関係を持ってしまった」


「……」


「こんな俺を、神は……神は許してくれるだろうか?」


「…………」


「…………」


「いや、ダメでしょ」


「おおう!?」




辛辣である。まあ、そこがシーナのいい所なのだが。

ダメージを受けるおっさんをよそに、続ける。



「神様は許さないと思うよ。だって不貞だもん。ダメでしょ。男としてやっちゃいけないよ」


「おおっ……おお……」



傷をえぐっていく!えぐっていく!



「でもおっさんがさ、本当に許して欲しいのは神様なの?」


「え?」


「ここに懺悔に来たってことはさ、誰かに聞いて欲しかったんじゃないの。

そしてこれが、悪いことだって、わかってるんじゃないの?」


「……ああ」


「じゃあさ、懺悔するのは神様じゃないよね。謝って、許してもらえばいいじゃん。

神様は許してくれないかもだけど、奥さんは許してくれるかもしれないし」



「……は、ははっ」


「ね」



「……そうだな。何を悩んでいたんだ。ありがとう。気持ちがすっきりしたよ。これ」



す、と貨幣を渡す男。



「え?いらないよ。懺悔は別にお金を取るものじゃ……」


「違う、寄付金だ。受け取ってくれ」


「……はい」



男はさわやかな顔で去っていく。

この後家庭崩壊するかもしれないが、それもまた、人生だ。



「稼いだな」



「……これ、あたしが?」


「そうだ。お前への、報酬だ」



「…………ッ」




シーナは静かに涙ぐんだ。

自分がずっとやりたくて、

でもできなかったことを達成できた、そんな顔をしていた。




――――




「すごかったね!シーナちゃんのお悩み相談!」




あの男性を皮切りに、次々と人々が相談室に吸い込まれていき、

寄付金入れの箱はずっしりと重くなっていた。



「へへ……そんな事ないし」



シーナの笑顔は作り物ではなく、本物の少女の笑顔だ。

これを見れただけでも、この催しを計画した甲斐がある。




「しかしローツレス殿……何故あえてシーナだったんですか?」


ぼそり、と耳打ち程度の声の大きさで聞くユーリイ。

その答えは決まってる。



「男遊びしてたからかな」


「……は?」


「ここのシスターは純潔(しょじょ)だし不貞に厳格。だから人間の本当の悩みになりやすい、

恋愛や性の事は相談し辛かったんだよ。シーナはそんな事ないし、なによりあの性格がいい。

だめな事はだめと、ずばっと言ってくれるのがいいんだ。でも人の事をちゃんと見ている。

ああいう純粋さとか、人間の悪いところに慣れてる人材が欲しかったって訳」



「……たった一日でそこまで?」


「うん、まあ……」



そしてもう一つの決め手は、シーナが無意識に出す『魅了チャーム』の魔法効果だ。

あれは本当の無意識らしく、男遊びから勝手に能力と化したものだろう。

ヒナに作ってもらった魔法装具はそれを増幅させる効力がある。人が集まってきたのはそういうのもある。

相談したい、と思った人がそれを隠さず、相談しに来るという感じに仕向けたのだ。




これで寄付金、支援金がそろった。後は最後の仕上げにかかる――。


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