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そういえば、「免許取れたよ。侑を後ろに乗せるの楽しみ」と電話で言っていたことがあったなと思い返す。そして、そうくんは京都大学の大学院生だ。紛れもなく亡くなった22歳男性はそうくんだったのだ。私は喪失感にさいなまれ、ひどいことを言ったのを改めて後悔した。
通夜も葬儀も彼の地元でしめやかに行われたので直接参列することはできなかったのだが、両方が終わってからそうくんが1人暮らしをしていたアパートに向かう。アパートの中にはそうくんのお母さんがいて、少し話をした。テーブルの上にあるノートを見て「これ何のノートですか?」と尋ねると、「日記帳よ。あの子、こんなにあなたのこと思っていたのね」と泣き笑いしながらそうくんのお母さんは答える。見ても良いか訊き、許可を得て中身を見た。中身はほぼ私についてだったのだ。クリスマス前後には、
「本当はティファニーとか4℃とかプレゼントしてあげたかったけど、お金なくて買えなかった。でもお金ないの知られたら嫌われるかもしれないから言えない。こんな安物でごめんね」
「もらったマフラー大活躍してる。冬にマフラーないと無理だわ」
「プレゼントのことで怒らせてしまった。お金ない俺がダメなんだ」
「価値観合わないし正直別れたいと思ったけど、目の保養になるくらいかわいくて俺のために無理してまで頑張ってくれる彼女は他にいないってわかった」
と綴られている。