吸血鬼と化す女子大生 黒井さん
しばらく走り自宅のあるアパートの前に着く。
アリスは俺の後ろに隠れてもらっている。
見つからないように隣家の塀を伝ってアパートの廊下を覗く。
廊下には既にあの謎の女性の姿は無いように見えた。
罠という可能性もあるので一歩、一歩ゆっくりと近づいていく。
階段を上っていると廊下に横たわっている黒井さんが目に入った。
「黒井さん!
大丈夫ですか?」
俺は感情に身を任せて一気に助けに寄った。
アリスが後ろから呼びかける。
「ちょっと待って下さい!
罠の可能性が有ります。そう安易に近寄ってはダメです!」
俺はその声を無視して駆け寄る。
幸いにも何事も無く黒井さんの傍までは寄れた。
耳を顔に近づけると呼吸音が聞こえたため良かったことに息はしていた。
安心しながら脈を測ろうと手首を掴むとあまりの冷たさで驚きのあまり手を放してしまう。
黒井さんの肩を持ち揺さぶりながら叫んだ。
「おい!大丈夫か!?おい!
今救急車呼ぶからな!」
急いで携帯をズボンから取り出し119番に電話をかけようとボタンを押す。
慌てているため上手く押せず手こずっているとアリスが後ろから引っ張ってきた。
よたつきながら後ろに下がるとアリスがこちらを見てくる。
アリスは少しイラついているようで荒々しい甲走った声で怒鳴られた。
「人の話はちゃんと聞いてください。
罠の可能性もあるんですよ!
もう少し用心して行動してください」
「でも……、死んでたら取り返しのつかないし……」
「でもも何でもありません!
全くあなたが死んだらどうするんですか……」
そんな会話をしていると急に黒井さんが起き上がった。
「大丈夫ですか?
いや~、死んじゃったかと思って心配しましたよ」
思わず安堵し抜けた声でそう言う。
すると急に彼女が襲いかかかって来た。
首筋目掛けて飛びかかってきたため反射的に避ける。
彼女は俺の左肩にぶつかり方向を変えながら廊下に滑り込む。
「佐藤さん、離れて下さい!
彼女はあなたが知っている彼女ではありません」
アリスは俺の前に出て両腕を前に構えながら言う。
俺も消火器を構えながらじわじわと近づいていく。
彼女はゆっくり起き上がったと思うと視界から消えた。
嘘だろ!と思いながら周りを見まわし上を見ると牙をチラつかせ微笑みながら襲い掛かってくる彼女の姿があった。
俺はとっさに右手の消火器で思いっ切り殴りかかる。
彼女はそのままの勢いで壁に衝突していった。
「やべ、殺しちゃったかな……」
血が付いた消火器を見ながら呟く。
ズボンの後ろポケットから包丁を取り出し構えながら安否を確かめるため近づいていく。
「危ない!」
アリスが横から思いっきり俺を突き飛ばした。
すると俺が今まで立っていた場所に向かって彼女が飛びかかって行くのが倒れながらも目に入る。
「くそっ!
ちょこまかと動きやがって、小賢しい。
主のご命令通り、我が牙で天に召されるがよい」
顔に流れる血を手で拭いそれを長い舌で淫らに舐めながら言う彼女の顔は不気味に歪んでいた。
それは元の彼女では絶対に出ることは無いであろう顔だった。
「嘘だろ……、黒井さん……
君までそうなるとは……」
驚きと悲しみでその場に立ちすくむ。
「早くその場から離れて!佐藤さん!」
後ろからアリスがそう叫ぶのが聞こえた。
俺はちくしょう!と声を荒げながら包丁で刺しにかかる。
そんな俺を彼女は軽々しく吹き飛ばしていった。
廊下を反対側まで吹き飛ぶ。
しかしすぐさま体制を建て直し今度は消火器で殴りかかった。
俺は彼女が防ごうと構えた手ごとはじく。
彼女は姿勢をすぐさま立て直すがその隙に今度はアリスが腹に蹴りを入れた。
彼女は再び壁に叩きつけられる。
「今のうちに叩きかけますよ、佐藤さん」
「あ、あぁ」
適当な返事を返しながらアリスと共に襲い掛かる。
彼女まであと数センチまでいったところで謎の爆風が俺らを飛ばした。
相当な距離を飛ばされ廊下から一階に落ちる。
そのまま一階に叩きつけられるも何とか立ち上がる俺ら。
「一体、何なんだ?
今の爆風は……」
アリスの方を見ると深刻そうな重々しい表情をしていた。
「まさかもう来るとわ、早すぎる……」
アリスがそう呟くのと同時に上から謎の女性が飛びかかって来る。
何か振りかぶってきたように見えたのでとっさに消火器で防ぐ。
しかし消火器は真っ二つに切られた。
断面は鋭い刃物で切られたように綺麗になっていた。
すぐさま包丁に持ち構える。
謎の女性は両手の爪が鋭く伸びていて赤黒く染まっていた。
一瞬、恐怖で足がすくんだが包丁を強く握りしめ果敢にも襲い掛かる。
アリスも低い姿勢のまま突っ込んで行った。
しかしそんな俺らを赤子の手を捻るように謎の女性は殴り飛ばした。
俺はその爪で包丁を粉砕されたと思うと回し蹴りを顔にくらい地面に倒れ込む。
アリスは回し蹴りの勢いのまま右手で思いっきり殴られそのまま地面に叩きつけられた。
そして謎の女性は爪を俺らの首元に突きつけ高らかに笑い出した。