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勇者パーティを追い出された器用貧乏~パーティ事情で付与術士をやっていた剣士、万能へと至る~【Web版】  作者: 都神 樹
第十章

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337.検証実験

 今朝の時点では快晴だった空は、西に行くほど雲が多くなっていた。


 シオンの元へ向かったルーナを見送った俺は、思考を切り替える。


「ナギサ、ハルトさんの居場所は分かるか? 出来れば具体的に分かると助かる」


「はい。少々お待ちください」


 ナギサは静かに目を閉じ、胸の前で手を合わせる。

 彼女は自身の異能である【霊魂干渉】の拡大解釈によって、悪魔だけでなく、親しい人の位置も補足できる。

 距離に制限はあるようだが、国内に居るのであれば補足は可能だと聞いている。


 淡い光が彼女の掌から立ち上り、やがて北の方角へと伸びていく。


「……視えました。ハルトさんは、現在――北の農業都市ホナエ近くの森林に居ます」


「ホナエ、か」


 連邦が攻めてきたのであれば、西の交易都市ツラナミ近くに居ると思っていたが、どうして北に?


 疑問に思いながらも異能で【精神感応】を再現する。


 意識を北へと向けてパスを伸ばす。

 すると、すぐにハルトさんを見つけられた。


『ハルトさん、聞こえる?』


 念話を飛ばすと、返答はすぐだった。


『オルン! 戻ってきたか!』


『ああ。ナギサから連邦が攻めてきてる件は聞いた。状況を教えてくれ』


『敵は三方面に分かれて攻めてきてる。北は俺とテルシェ、南はフウカ、西はカティとヒューイが担当中だ』


『三方面同時か……厄介だな』


『ああ。ただ、こっち――北は押し返せてる。今は森の中で残党狩りだ。テルシェが防陣張ってくれてるから、被害も最小限に留められてる』


 ホナエ近郊の森林。

 防衛線としては悪くない場所だ。

 地形を活かせば、少数でも十分対処できるだろう。


『南と西の状況は?』


『南は敵の数が少ないうえにフウカが居るからな。もう終わっていても不思議じゃねぇな。問題は西だ。あそこが連中の主力だ』


『ツラナミか』


『ああ。連邦の艦隊が動いてる。規模はかなりでかい。あくまで敵の本命は西からの侵攻だろうな』


 ハルトの声が少しだけ低くなる。

 彼も戦況を肌で感じているのだろう。


『北は任せてもいいか?』


『ああ、心配すんな。テルシェも俺も健在だ。このまま制圧できる』


 ハルトさんと念話を終えた俺は、意識の向きを変える。

 南――フウカの方角へ。

 魔力を一点に収束させ、精神の糸を細く結ぶ。


 フウカにも同じように状況を確認したが、ハルトさんの予想通り既に制圧済みだった。

 本当に頼もしい限りだ。

 ハネミヤの防衛を引き続きフウカに任せることにした。


 ――南北は問題なし。

 となれば、残るは西だ。


 次第に風が強くなってきて、かすかに潮の匂いを運んできた。

 嵐の前触れにも似ている。


「オリヴァー、行くぞ」


「もう状況は掴めたのか?」


「ああ。敵の主力を押さえる。目的地はツラナミ沖だ」


「了解した」


 オリヴァーと話し終えた俺は、最後にナギサに声をかける。


「ナギサとのパスは繋げたままにしておく。フウカやハルトさん、他の場所で大きな動きがあったら念話で教えてくれ」


「わかりました! オルンさん、またこの国のごたごたに付き合わせてしまって申し訳ありませんが、よろしくお願いします!」


「今回の一件の原因は俺の可能性が高いからな。こっちこそ、キョクトウに迷惑を掛けてるかもしれない。だから、ナギサが申し訳なく思う必要はないよ。――それじゃあ、行ってくる」


 ナギサと話し終えたところで、オリヴァーと視線を交わし、ほぼ同時に地を蹴った。


 同時に【流翔(エルセリア)】を発動してツラナミへと向かった。

 

  ◇

 

 足元の景色が一気に遠ざかっていく。

 キョクトウの西部に入った辺りから、青空は鉛色に染まり始めた。

 風が荒れ、雲が低く垂れこめていく。


 まるで何かがこの国の西端を覆い隠そうとしているかのように――重苦しい気配が漂っていた。


「……嫌な空だな」


 オリヴァーが低く呟く。


「たぶん、自然現象じゃない。魔力の乱れが強すぎる」


「悪魔の仕業か?」


「いや、《焚灼》だけというよりは、シオンと《焚灼》の戦いの余波だろうな」


「冷気と熱気がぶつかり合った結果、か……」


 オリヴァーと会話をしながら進むと、雲の切れ間から海が見えた。


 黒い波が荒れ狂い、うねりの合間にいくつもの船影が見える。

 その半数以上が、既に炎を上げていた。


 風に乗った爆ぜる音や鉄の軋む音と共に、焦げた帆布の匂いが鼻を突いた。


「……ひどいな」


「これが魔導兵器による戦いなんだな」 


「…………」


 煙が風に流され、砲弾の軌跡がかすかに残る。

 けれど、戦況そのものはすでに沈静化しているように見えた。


 念のため、カティーナさんへと念話を飛ばす。


『カティーナさん、聞こえる? 戦況はどうなってる?』


『あ、オルン! ちょうど報告に向かおうと思ってたとこよ。こっちは勝ったわ! 連邦軍は撤退準備に入ってる!』


『……そうか、よかった』


『今、キョクトウ側の大使が連邦の指揮官と話し合いの場を設けてる。もうすぐ停戦になると思うわ』


 その言葉に、胸の奥の緊張がゆるむ。

 どうやら、この戦いはひとまず終わったようだ。


 なら――俺もシオンのもとへ向かうべきか。

 ルーナを信じてはいるが、やはりシオンのことが少し気になっていた。


 そう考えたとき、微かな視線を感じた。

 雲の影が流れる中、ふと海面に目を向けると、そこに小さな人影があった。


 木片に掴まり、波間に揺れながら、こちらを見上げている子どもが居た。


(……どうしてこんな場所に子どもが? 民間の避難船が巻き込まれたのか?)


 疑問がいくつも浮かぶが、今はそんなことよりも先に助けなければ。

 夏が過ぎたこの時期の海は冷たい。

 このままでは低体温症になりかねない。


 俺はゆっくりと降下し、子どものもとへ近づいた。


「おい、大丈夫か?」


 声をかけても、返事はない。

 ただ、無表情のまま、じっと俺を見ている。

 戦場を目の当たりにして、言葉を失っているのだろう。

 無理もない。


 できるだけ穏やかな声で、もう一度呼びかける。


「もう大丈夫だ。ここは危険だから離れよう」


 そう言いながら腕を伸ばし、子どもを抱き上げる。

 細い身体が震えている。

 冷え切った海水のせいだろうか。

 このまま岸まで運ぶか――そう考えた瞬間、


 小さな唇が動いた。


「……貴方が、オルン・ドゥーラですか?」


「…………」


 一瞬、思考が止まる。

 どうして名前を知っている?


 俺はこの一か月間、この国で生活をしているが、俺は表舞台に立っていない。

 俺の存在を知っているのは、仲間たちの他にはキョクトウ上層部だけ。

 国民の大半は、俺のことを《魔王》と呼ばれている犯罪者だと認識していても、その《魔王》がキョクトウに居ることを知らない。

 あくまで俺はフウカが連れてきた仲間の一人でしかないはずだ。


「……声は出せるようで安心したよ。とりあえず、安全な場所まで――」


 言葉を濁し、微笑みを浮かべたその瞬間だった。


 光が閃いた。


 頬に鋭い痛みが走る。


「――っ!?」


 反射的に身体を捻ると、眼前を銀の刃が掠めていった。


 ナイフの切っ先が風を裂き、頬を浅く切り裂く。


 海面に血が一滴、落ちた。


 気づけば、四つの影が俺の周囲を取り囲んでいた。


 どれも赤い外套を羽織った子どもたちだ。


 しかも、空を――飛んでいる。

 一般には、空を飛べる魔術は未だ開発されていないとされているはずなのに。


「どうして空を――」


 次の瞬間、光弾が放たれた。


 俺は咄嗟に身を翻し、魔力結界を展開して直撃を防ぐ。


 海面を滑るように後退しながら、敵の装備を観察する。

 赤い外套の下、袖口や背部に複雑な魔法陣が刻まれていた。

 魔力の流れが布を這い、淡く輝いている。


(なるほど……。あれが飛行を補助している魔導具になっているのか)


 子どもたちは無言のまま、陣形を変えて包囲を狭めてくる。


 その中央で、さきほど抱えていた少年が海の上に立っていた。


 表情は変わらない。

 だが、声だけは妙に整っていた。


「――第一検証実験、終了。第二検証実験に移る」


 少年の右手に、涅い魔石が現れる。

 その内部で濃密な闇が脈動していた。


「やめろ!」


 俺の声が届くより早く、少年はそれを海へと落とした。

 魔石が水面に触れた瞬間、重い音が海底から響いた。


 直後――海が盛り上がった。


 暗い水柱が天へ伸び、巨大な影がその中から姿を現す。


 それは山のように大きく、無数の触手を持つタコのような幻魔だった。


 その触手が、キョクトウも連邦も区別なく、周囲の船を――叩き壊した。


最後までお読みいただきありがとうございます。

次話もお読みいただけると嬉しいです。

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