282.【sideソフィア】数値化された差
◇ ◇ ◇
私たちがヒティア公国にやってきてから数日が経過した。
今は学園に入学するためのいくつかの手続きを行いながら、ダウニング商会で魔道具の基礎を学んでいる。
毎日が新しいことの発見の連続で、私は今の時点でここに来て良かったと心から思っていた。
私がここに来た理由は、もっと強くなるために、自分専用の魔道具を作り上げるため。
ここに来るまでは漠然としていたけど、私の異能である【念動力】と魔道具を掛け合わせた新しい戦闘スタイルの形が、朧気ながら少しずつ見えてきているような気がしている。
一歩ずつではあるけれど、確かに前に進んでいると思っている。
「ふっふふ~ん♪」
そんなことを考えていると、私の隣を歩くキャロルが、今にもスキップしそうなほど軽やかな足取りで鼻歌を口ずさんでいた。
「キャロル、楽しそうだね」
「え~、そう見える~?」
いつも笑顔を絶やさないで楽しそうに過ごしているキャロルだけど、ここにきてからはそれに輪をかけて幸せそうに見える。
まぁ、それも当然か。ここにはキャロルのお姉さんとお兄さんがいるんだから。
「うん。お姉さん、お兄さんと一緒に居られて幸せそう」
「えへへ~。二人と色んなお話ができて、今すごく楽しい! あ、それとね! 実はね、シオンさんがあたしたちのプロフィールと一緒にルエラお姉ちゃんとフレッドお兄ちゃんのものも作ってくれたみたいで、あたしたちこの国で名実ともにきょうだいに戻れたんだ~♪」
「そうだったんだ! 良かったね!」
「うん!」
私はキャロルとずっと一緒にいたから、彼女が苦しんでいたことも知っている。
そんな彼女の幸せそうな笑顔が見れてすごく嬉しい。
だけど……。
「……ねぇキャロル。キャロルはこのままヒティア公国で過ごすの?」
「んー? なんでそんなこと聞くの?」
「なんとなく……。今のキャロルを見てたら、そんな気がして……」
「んー、そうだね。このままヒティア公国民になってもいいかな~とは思ってるよ」
「そっか。やっぱりそうなんだ」
キャロルの答えを聞いて私の心は沈んでしまった。キャロルにとってはここに居ることが幸せだと解かってる。
それもでも、やっぱり寂しい。
親友の幸せを心から祝福できないなんて、私は心が狭いのかな……。
「――でも、あたしは《夜天の銀兎》のキャロライン・イングロットだから!」
「……え?」
「ヒティア公国民になったとしても、それは変わらないよ!」
キャロルがケロッとした顔で言い切る。
「ノヒタント王国民じゃないと《夜天の銀兎》にいられないってわけじゃないでしょ? レインお姉さんだってヒティア公国民なわけだし、それと同じになるだけだよ! ――あ、もしかしてソフィー、あたしが《夜天の銀兎》を抜けるって思ってた?」
「うん、実は……」
「そんなわけないじゃ~ん! ヒティア公国があたしたちをきょうだいって認定してくれたのは嬉しいけど、それがなくたって、あたしたちはきょうだいだもん!」
「そ、そうだったんだ……良かった……」
私は胸を撫で下ろした。
キャロルが《夜天の銀兎》を辞めるつもりなんてないと分かって、心の中のモヤモヤが一気に晴れていく。
「ソフィーってば、ほんと心配性なんだから~」
キャロルはくすくす笑いながら、私の肩を軽く叩いた。
「だって、キャロルがすごく幸せそうだったから……。今までのことを考えたら、その方がいいのかなって……」
「そっか。でもね、あたしは、大好きな仲間と一緒にいられるのも、すっごく幸せなことだから!」
キャロルの満面の笑みを見て、私はふっと息をつく。
やっぱりキャロルはキャロルなんだ。
そして、そんな彼女と一緒にいられることが、私にとっても幸せなことなんだと改めて感じた。
「じゃあ、これからもよろしくね、キャロル」
「うん! よろしくね、ソフィー! ――それにしても身体測定か~。なんだかんだ言ってあたし、身体測定受けるの初めてかも!」
安堵したのも束の間、キャロルが楽しそうに話題を変える。
そうだった。
私たちは今、身体測定を受けに行くところだった。
「《夜天の銀兎》にいたら身体測定とは無縁だもんね」
私たちが普段身に着けている団服はもちろんそれ以外の衣服も、基本的には《夜天の銀兎》で作られたものを着用している。
《夜天の銀兎》には門外不出の技術がいくつかあって、その一つに衣服が自動的にその者のサイズに合ったものに変わるというものがある。
では、何でこのタイミングで身体測定かというと、制服を注文しないといけないから。
学園では制服の着用が義務付けられている。
そして、この制服には当然《夜天の銀兎》の技術が使われていないから、サイズを測らないと注文ができないためだ。
◇
それからもキャロルとアレコレと話をしているうちに、学園の制服を作るため仕立て屋に着いた。
「じゃあ、まずはあなたから測るわね。はい、腕を広げて」
裁縫師が手際よくメジャーを当てていく。そして肩幅、腕の長さ、ウエスト、ヒップと、次々サイズが測られ、記録されていった。
「ふむふむ、なるほど。次はあなたね」
「はーい!」
キャロルの番になると、私は隣で見守る。
メジャーがキャロルの体を測るたび、裁縫師の声が少し感心したようなトーンになるのを聞いて、胸の中にモヤモヤとした感情が芽生え始めた。
「へぇ、成長期にしてはなかなか……」
裁縫師が呟き、キャロルは「えへへ」と誇らしげに笑う。
それを横目に、私は測定結果のメモをちらりと見た。
そして、目を見開く。
「えっ……こんなに違うの……?」
自分の数値とキャロルの数値を見比べた私は、思わずショックを受けた顔をした。
「そ、ソフィー?」
キャロルが慌てて私の顔を覗き込む。
「分かってはいたけど、こうして数字にされると……」
私は少し肩を落とす。
(数字って残酷だよぉ……)
その様子を見たキャロルは、どうにかフォローしようと必死に口を開いた。
「あ、あのね! でも、ほら! ソフィーのほうが軽やかで動きやすいし! 探索者としてはサイズが良いからって、必ずしも良いってわけじゃないよ!」
「でも、キャロルの方が身軽に動けるじゃん……」
「あ、えぇっと……、それに! ソフィーは可愛いんだから、それでいいのっ! 数字なんて関係ないよ!」
キャロルはなんとか励まそうとするが、焦れば焦るほど空回りしているように見える。
「キャロル……無理にフォローしなくても……」
「そ、そんなことないってば!」
キャロルは真剣な顔で私の手を握る。
「ソフィーはソフィーのままで十分素敵なんだから!」
その必死さに思わず吹き出しそうになりながらも、私は少し頬を染めて微笑んだ。
「……ありがとう、キャロル。ちょっと気にしすぎてたかも」
「うんうん、こんなの気にしなくていいの!」
そう言ってキャロルがにっこり笑うと、私の心のモヤモヤも少しだけ晴れていった。
……まぁ、こんなことで嘆いていても何も変わらないしね。
その後も仕立て屋での作業が終わり、私たちは制服を試着させてもらった。
ストロメリア魔術学園の制服は、清楚で上品なデザインとなっている。
白を基調としたブレザーは、すっきりとしたシルエットながらも、袖口や襟元にさりげない装飾が施されていて、上品な印象を受ける。
スカートとベストは明るい青を基調としていて、爽やかで軽やかな雰囲気を演出している。
さらに、首元には濃い青のリボンが結ばれて、清潔感のある色合いと、程よく可愛らしさを取り入れてられた、素敵なデザインになっている。
「ソフィー、その制服、すごく似合ってるよ!」
「……ありがとう。でも、やっぱりキャロルの方が華やかで……」
「そんなことないってば! うんうん! すごく可愛い!」
キャロルの言葉に少し照れくさくなりながらも、私は鏡に映る自分を見つめた。
彼女との数字の差にばっかり囚われていたけど、改めて鏡で自分の姿を見ると、確かに以前よりも成長しているように感じる。
背も少し伸びて、少しは大人になったかな?
最後までお読みいただきありがとうございます。
次話もお読みいただけると嬉しいです。
なお、諸事情により更新を2週間ほどお休みさせていただきます。
楽しみにしていただいていた読者様には大変申し訳ありませんが、ご了承のほどよろしくお願いいたします。







