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勇者パーティを追い出された器用貧乏~パーティ事情で付与術士をやっていた剣士、万能へと至る~【Web版】  作者: 都神 樹
第九章

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283.【sideナギサ】無力感

 

  ◇ ◇ ◇

 

 霊舞祭の期間は三日。

 この三日間をみんなで楽しく過ごして、最終日の夜にナギサ(わたし)が霊山にある社で舞を奉納して締めるというのが霊舞祭の大まかな流れになる。


 ……本来であれば、その後に妖刀で邪を斬るという儀式もあるのだけど、妖刀もそれを扱える者もいない今は、それができていない。


 そんな霊舞祭を明日に控え、私は屋台が軒を連ねている通りへとやってきた。


「これはナギサ様! わざわざこのような場所まで足をお運びくださりありがとうございます」


 みんなに指示を飛ばしていた男性が私に気づくと、手を止めて私のもとにやってきた。

 ほかの人たちも軽く頭を下げてくる。


 その様子を見て、私の心の中に申し訳なさが積もる。


 こんな私にへりくだる必要なんて全然ないと思うけど、これも国の秩序を維持するためだと家臣に言われているから、申し訳ない気持ちを押し殺して指示をしていた男性の方を向く。


「手を止めてしまってごめんなさい。どうしても気になってしまったもので……。この様子ですと、問題はなさそうですね」


 私の言葉を聞いて男性はニカッと笑った。


「えぇ。ナギサ様に恥をかかせるわけにはいきませんから。明日から全力で盛り上げますんで、最終日は最高の舞を見せてください」


「ありがとうございます。私も最高の舞で皆さんの働きに応えられるよう全力を尽くすと約束します」


 それからも各所に顔を出しては挨拶をする。


 みんなと言葉を交わして確信する。

 この国は活気を取り戻していると。


 内戦――ううん、謀反が起こった直後は国が荒れてしまって、それは酷いものだった。

 だけど、数年かけてようやく国民も今の状況に適応し始めている。


 これがこの国の正しい形だとは思えないけど、それでも負の感情に支配されている状況が良いとも言えない。

 結局はフィリー様や教団の人間に下るしかないとしても、この国を興した一族の一人として、その矜持だけは絶対に捨てない。


 時間がかかってでも、フィリー様の支配から脱却して見せる。


「ナギサ様、準備を終えたのであれば、念のためフィリー殿に報告しておいた方が良いのでは?」


 私が心の中で決意の炎を灯していると、私の護衛として側に控えていたキリュウ先生から助言を受ける。

 キリュウ先生は謀反によって、私がこの国の姫になった時からずっと、私の側で私を護ってくれている。

 そのおかげで教団の人間も私に乱暴をすることは無かった。私が自由に過ごせているのはキリュウ先生のおかげだ。


 フウカ姉さまのお師匠様でもあるし、今の私が唯一全幅の信頼を寄せている人物となる。


「そう、ですね」


 フィリー様は約束通り帰ってきてから大きな動きを見せていない。お陰で霊舞祭の準備に集中できたけど、油断はできない。

 だって、祭りが終わった後のことまでは保証されていないんだから。


 祭りが終わってすぐにフィリー様が動き出すことは十分に考えられる。

 決して気を抜いて良い相手ではない。

 そんな私の心中を察してか、キリュウ先生が私に優しく微笑んだ。


「大丈夫ですよ。儂が側にいますから。ナギサ様に危害を加えようとするものは儂が斬り伏せます」


「ふふっ。心強いですけど、物騒ですよ。武力行使は最終手段として取っておいてください」


「……承知しました」


 キリュウ先生との心温まるやり取りをして、フィリー様の居る東雲家の屋敷へと向かった。

 

  ◇

 

 東雲家の屋敷へとやってきた頃には、既に暗い空に月が顔を出していた。


 私はそのまま真っすぐとフィリー様の居る部屋へと向かった。


「フィリー様、少しよろしいでしょうか」


「あらナギサ、どうしたのかしら?」


 部屋の中で巻物を読んでいたフィリー様が顔を上げる。


 ここはフウカ姉さまの家だ。

 そこを我が物顔で占領して、あまつさえ東雲家が代々管理していた書物を当たり前のように読んでいる。


 そんな彼女に怒りを覚える。


(悔しい……! なんで私にはこの人をこの国から追い出すだけの力がないの……? どうして私はこんなに……)


 フィリー様だけでなく自分に対しても怒りが沸いてくる。


(でも、ここで感情的に行動しては民に被害が及ぶ。今は堪えないと……!)


 怒りをグッと抑えながら口を開く。


「霊舞祭の準備が滞りなく完了したので、その報告に来ました」


「そう、終わったの。それは舞を行う霊山の社もかしら?」


「……? はい。すぐにでも舞が行えるよう清めています」


「わざわざ報告しに来てくれてありがとう。それじゃあ、貴女は『そこでジッとしていなさい』」


「…………え?」


 フィリー様が立ち上がりながら私に命令をしてくる。


 そのまま私の脇を抜けて、部屋を出ていこうとするフィリー様。


 それを私は、ただ眺めているだけだった。


(あれ? なんで私、フィリー様が出ていくのをただジッと見ているだけなんだろう?)


 自分の行動に違和感を持ったころにはふすまが閉じられ、部屋の中には私一人だけが残っていた。


「っ!? ど、どこに行くつもりですか、フィリー様!? ――開かない……?」


 すぐに彼女を追いかけようとふすまに手をかけるけど、ふすまはどれだけ力を込めても開かなかった。


「どうしてわざわざ貴女にそんなことを言わないといけないのかしら?」


 すぐに私はふすまを吹き飛ばすべく攻撃魔術を放つ。


「姉さま、お屋敷を壊すことになってしまってごめんなさい――きゃあっ!?」


 しかし、ふすまに接触した攻撃がそのまま跳ね返って、私に襲い掛かってきた。


「ふふふっ。無駄よ。その部屋は《英雄》すら抜け出すのに苦労した空間になっているんだから。まぁ、そこを灼熱に包むのはわたくしがここでやるべきことを終えてからだから、すぐには死ぬことは無いわ。今はそこで大人しくしていなさい」


 あの《英雄》でも……? そんなもの私の力じゃ……。


「わ、私を閉じ込めて、何をするつもりですか……!?」


「そんなの貴女が妨害をしたくなることに決まっているじゃない」


 私の問いに、フィリー様――いや、フィリーは小馬鹿にしたような口調で答える。

 ふすま越しにも彼女が昏い笑みを浮かべていることが分かる。


「まさか、民に何かひどいことを……」


「わたくしが直接手を下すことは無いけど、結果的にこの国の人間は全員死ぬでしょうね」


「っ! そんなことはさせません! 私を今すぐ出してください! そうしなければ、私はもう貴女に協力しませんよ! いいんですか!? 悪魔をこの世界に留めるには私の力が必要なのでしょう!?」


 自力での脱出が難しいと分かった私は、必死に自分の価値をフィリーに説く。


 教団の最大戦力ともいえる悪魔の《焚灼》《雷帝》《羅刹》は私の異能によって人の身体に定着している。


 そのうちの一人である《羅刹》は《魔王》によって討たれた。


 更にこの世界に迎え入れるにも、悪魔をこの世界に留め続けるにも、私の異能が必要だ。

 これ以上協力をしたくは無いけど、そんなことを言っている場合ではない。

 今はここから出ることが最優先。


 私の異能が必要なフィリーなら受け入れてくれる可能性も――。


「――あぁ、それね。もう必要ないわ」


「……どう、して? 《魔王》に、オルン・ドゥーラに対抗するためにはもっと戦力が必要なはずじゃ」


「そんなの、こうやって交渉材料にされたら面倒だからよ。既に貴女の異能は《博士》が生前のうちに再現済みなの」


「《博士》……? 再現……?」


「あの男は、【自己治癒】を始めとした、頼んでもいない異能もいくつか再現もしていたみたいだけれど、本命は貴女の異能である【霊魂操作】の解析と再現よ。つまり貴女も既に用済みってこと」


(そん、な……。フィリーは既に私に利用価値を見出していなかったの……? だったら、何で私は……)


 悔しさやら無力感やらで、私は崩れ落ちそうになった。


 でも――まだ手はある!


「だったら……。キリュウ先生! 今すぐに彼女を拘束してください!」


(私はここにキリュウ先生と二人できた。フィリーの近くには彼が、この国で最強の剣士がいる! 彼ならフィリー様にも対抗できるはず!)


「はて、何故でしょうか?」


 そんな私の希望を打ち砕くように、キリュウ先生から疑問が投げかけられる。


「何故って……、そんなの……、その人が、何か悪いことを、しようと……、しているから」


 認めたくない事実を前に、私は身体を震わせながらも、一縷の望みに賭けて言葉を紡ぐ。


「妙なことを言いますね、ナギサ様。確かに今の貴女は表向きにはこの国のトップなのかもしれません。ですが、貴女は姫ではありません(・・・・・・・・)。実質的な指導者(・・・)はフィリー殿ではありませんか。『姫に(・・)刃を向けろ』なんて、儂に切腹をしろと言っているようなものですよ?」


「そん、な……」


「ふふふっ、残念だったわね、ナギサ。キリュウもこちら側(・・・・)よ。今の貴女を助けてくれる人は誰一人としていないわ。ご愁傷様」


「…………どう……して…………」


 私を支えていたものが無くなり、私はついに崩れ去ってしまった。


 部屋から二つの足音が遠ざかっていく。


 視界がぼやけて、次々と目の端から雫が落ちる。


「なんで……なんで私は、今回も(・・・)何もできないの……っ!」


 力なく地面を叩く。


 悔しさが喉を締めつけ、言葉にならない嗚咽が漏れる。


「私がもっと……もっと強かったら……っ!」


 握りしめた拳が震える。


 涙が止まらない。


 胸の奥が抉られるように痛い。


「ごめん……ごめんなさい……っ!」


 今の私には、ただただ泣き続けることしか、できなかった――。


最後までお読みいただきありがとうございます。

次話もお読みいただけると嬉しいです。

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