その四
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「智之ぃー大丈夫かぁ?」
透は床に飛び散った血しぶきを掃除道具箱の横にかけてあった雑巾で拭きつつ智之の元へ向かう。這いつくばっているのでえらく時間がかかりそうだったが、このまま凄惨な暴行事件の跡を残しておくと間接的に自分達の怠慢が発覚する恐れがあるため、智之もそれを咎めずに待ち続けた。
ちなみに智之は部長としての怠慢、透はサッカー部をサボり続けているという怠慢の発覚を恐れての行為である。もうお忘れかもしれないが、藤崎透はこれでも一応サッカー部部員なのだ。
だというのに、なぜ彼がサボり続けているか。それは一緒に尾張高校の特色まで説明せねばならないので今は省くこととする。
「ふぅ、……まぁこんなとこだろ」
「いや待て。その辺り、まだ残ってる」
「あっ、ホントだ。あぶねぇあぶねぇ。……っくそ、全然消えねぇなぁ」
「待ってろ。俺も雑巾取って来る」
――――思いの外長くなりそうなので、やっぱり語ることにする。
宮城県私立、尾張高等学校は部活動に重きを置く進学校である。事実大抵の生徒は部活動推薦を経て名門大学へ進学する。そんな校風のせいか、必ず何らかの部活に入部しなければならないという暗黙のルールが存在し、入部するつもりの無い生徒達も周りのムードに気圧されて、最終的に何らかの部活動に入ることとなる。それでも五月以降も無所属で居るような輩はよほど社交性の低い社会不適合者であるか、未だ決め兼ねている優柔不断な者たちだけだ。
――――とこのように、どちらにしてもあまりいい目で見られない為、藤崎透もまた、特にやりたいわけでもないけどサッカー部に入部してしまったのである。そして見事について行けなくなり、またまともな人間関係も築けず、幽霊部員になってしまったのである。そういう生徒は少なくなく、同好会を含む部活動全体では約二割強を占めている。……ざまぁみろ。
こうした幽霊部員たちの転部先や部活動に加入していない者たちが入部するのが帰宅部であることは言うまでもないだろう。が、尾張高校の帰宅部は正式な部として途中から創設されたため、入部届けを出さなければ入部できない。部長や部費までもが公的に存在するのもそういうわけである。故に旭智之の肩書きは、〝自称〟でも〝冗談〟でも決してない。彼は正真正銘、尾張高校帰宅部部長の旭智之なのである。
「そっちはどうだ?」
「あぁ、今度こそ大丈夫だろう」
透は上体を起こし立ち上がると、少し立ち眩みがして、近くの壁によりかかった。
「大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫大丈夫」
「肩を貸そう」
「いや、俺が借りていい肩は彼女と利香ちゃんのだけだ」
「真顔で言うな」
藤崎透、十七歳独身。彼女歴――――皆無。




