表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
尾張帰宅部部長旭智之  作者: 全州明
第四章 「尾張高校帰宅部部長」
29/30

その六

 ――――帰宅部は、生徒によってではなく、学校側の意向で創設された。

 それも当初は、入学する生徒の絶対数が増えたせいで帰宅部志望者が増え、人数によって練習内容が大きく左右される運動部の混乱を防ぐべく生徒たちに早い段階から意思表示をさせようと一時的に創設されたものだった。それを初代帰宅部部長長田桝彦(ながたますひこ)が帰宅部なんだから他のどの部よりも早く帰らなくてはと言いだして、〝放課後の終わりまでに帰る〟という謎の活動内容が生まれ、今に至る。――――ちなみに彼には尾張高校で初めて〝勘違い野郎〟と呼ばれたという謎の伝説がある。……詳細は不明だ。


「……いいんだ。俺はただ単に、囲碁以外にやる気が湧かなかったから、帰宅部に入っただけなんだ。何か特別な理由があるわけじゃない」

 智之は窓の外から視線を外し、自分に言い聞かせるように静かに言う。

「でも今は、ここがあんたの居場所なんじゃないの?」

「そうだな❘そうかもしれない。けど、直に皆いなくなる。龍ヶ崎は黒魔術同好会、剛玄はサバイバル同好会、剛田久美はダンス部。……そして君は、水泳部、だろ?」

「なんで知ってるのよ。まだ、誰にも言ってないのに……」

 田中利香は、慌てて転部届を隠す。

「分るさ。もともと君は、出会ったときからよく顔に出るタイプだった」

「な、何よ、悪い? あんたなんかよりましでしょ?」

 頬を赤らめ口を尖らせる。

「どういう意味だ?」

「……あんたいつも、何考えてるのか全然分かんない。今だって、急に廃部だとか言い出すし」

「――――しょうがないだろう? 帰宅部は、いつかなくなるべきだったんだ。この尾張高校に、いつまでもこんな部を残しておくわけにはいかない」

 珍しくむきになる智之を、田中利香は横目で睨みつける。

「そうやって、誰かに言われたんでしょ。違う?」

 目を見開き、はっとなる智之。田中利香にはそれだけで十分だった。

「やっぱり。……おかしいと思った。あんたが急にそんなこと言い出すなんて」

「悪いか? 俺だって、たまには人の意見ぐらい聞く」

「あんたは、あんた自身はどう思ってるのよ。部員が少なくなっちゃって、皆離れて行っちゃって――――」

「皆がそう望んだんだ、仕方がない。俺だけここに居座るわけにもいかない」

「引き留めればいいじゃない。今からでも、間に合うかもしれないわよ。勧誘も、もっと大々的にやれば、誰か一人くらいは絶対入ってくれるわよ」

「駄目だ。他人に迷惑はかけられない」

「いいじゃない、ちょっとくらい。ていうかあんた、結構好き放題やってる方だと思うけど」

「なんにしても、帰宅部は、もう――――」

 その時だった。

 一人の男子生徒が、スライディングで入口の戸をぶち破り凄まじい音を立てて教卓まで突っ込んで来たのは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ