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尾張帰宅部部長旭智之  作者: 全州明
第四章 「尾張高校帰宅部部長」
27/30

その四


           *


 ――――十数分後。田中利香が二年一組に訪れると、集まっていた帰宅部部員は数えるほどもいなかった。彼らのすぐ後ろでは大量に余った席が物哀しく鎮座している。

「――――よし、これで全員だな」

「え?」

 智之の台詞に耳を疑う田中利香。その声は教卓に立つ智之にまでは届かなかったようで、智之はいつもの事務的な口調で構わず続ける。

「えー今日皆に集まってもらったのは、帰宅部を含む多数の部の徴収費に大きな変動があったからだ。具体的に言うと一部を除いて安くなった」

 歓声は、上がらなかった。それは帰宅部だけ徴収費が値上げしたからではないということは、重苦しく冷たい空気が田中利香に知らせてくれた。

「隠しておくのも良くないだろう、今ここで、はっきり言うことにする。以前暴行事件を起こしたサッカー部一年が、また問題を起こし長期停学処分になった。その関係でサッカー部の今年度の試合出場が無しになり、活動費そのものがほとんど必要なくなった。合宿も、今年は行かないそうだ」

「もしかして、透が今日屋上に来なかったのは……」

 田中利香は辺りを一通り見回した。自分と同じ顔をしている人物はほとんどいなかった。

「……それから筝曲部が三年生の引退を待って廃部になることが決まったため、年間の活動費が大幅に減ることになった。主にこの二つから生徒会は余った分の予算を他の部に回して良いと判断し、最も高かった水泳部を中心に今月から徴収費を削減することにしたそうだ」

 そう言えば今日は一日だっけ、と田中利香は今更のように思い出す。

「水泳部は七千円から五千四百円、帰宅部は五千円から四千九百円、その他の部のほとんどが帰宅部より安くなった。……転部する良い機会かもしれないな。――――以上だ。解散」

 智之の掛け声の後、真っ先に出て行った一人を皮切りにほとんどの部員たちはぞろぞろと教室を出て行く。あとに残ったのは、どことなく誇らしげな陸粂酒剛玄と、物思いに(ふけ)る田中利香だった。

「五千四百円、か……」

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