013 エールルと再会。でも少しだけ
本日二話目の投稿です。
翌日の教室。
朝のホームルームが始まる前、翼翔は、学園祭実行委員の西河由香里を呼んで、昨日の結果を報告した。
「異界管理センターで聞いたけど、ルーターの派遣業務はやっていないらしい。というか、管轄外みたい」
「それはそうよね。うん、予想できた話だわ」
「ルーターが知り合いだったら個別に頼んでもいいみたい。西河さん、そんな人知ってる?」
由香里は首を横に振った。最近七人目が出てきてにわかに活気づいているが、基本的にルーターなどレア中のレアだ。
「そんな人がいたら苦労しないわね。けど、講演会をするなら、別にルーターじゃなくていいわよね」
「そう思って、職員に講演してくれないか頼んできた」
すでに江藤徹が体育館を抑えると動いてしまったあとである。
だれでもいいから来てもらわないと、講演会自体が成立しなくなってしまう。
「代役がちゃんと用意できていれば、クラスの多くは納得してくれると思う。というか、琴姫さんが来てくれるわけがないんだし」
クラスメイトのほとんは理解してくれるだおる。
問題は声が大きい一部の連中である。
だれとは言わないが、突出した一人とその友人たち、多くても三人か四人くらいだ。
「たしか、出し物の企画書って、早い段階で提出するんじゃなかった?」
翼翔は昨年のことを思い出した。
テーマを設定する関係上、出し物が被りまくってしまう年があり、一か月前までなら変更も受け付けてくれたはずだ。
「企画書ね。それは私が書いておくわ。初回のはざっくりとしたものでいいらしいし」
企画書の本提出は一か月後で、それをもとにpdfのパンフレットが作成される。
できあがったものは生徒会のウェブページに掲載されるため、意外にも認知度が高い。
翼翔も昨年は、そのページを見ながらどこを見て回るか、計画を立てたものだ。
そんなこんなで出し物の大筋が決まり、学園祭に向けた準備が緩やかに進んでいく……と思われたが、翼翔も由香里もあのはた迷惑なクラスメイトのことを過小評価していたことに気づかされた。
「ねえ、由香里、大変! ウチのクラスが琴姫を呼んで講演会をすることになってる!」
クラスメイトの時中遥から、そんな爆弾発言が飛び出したのである。
〇
クラスの出し物を決めるあの会議で、江藤徹は国内で知名度No.1のルーター琴姫を呼ぶという案を出した。
これは実に大変素晴らしい案だった。さすが俺、目の付け所が違うと自画自賛していた。
琴姫を呼べば、人は大勢来る。
それを提案した自分の株は上がり、尊敬する奴らも大勢出る。
ならば、このことを多くの人に伝えなければならない。
そんな使命感にかられた徹は、『勝手に』告知をはじめた。いわく……
――みんな喜べ、学園祭に琴姫が来ることになったぞ!
友人のグループやSNSで告知すると、どんどんと反応があった。
「おおう、やっぱスゲーな。どんどん広めてくれよ」
問い合わせには自身の活躍を鼻高々に伝え、広く拡散してくれるように頼んだのである。
人づてに知った者たちが話題にし、さらに拡散され、巡り巡って翼翔や由香里のところまで届いたのである。
「……マジかよ」
すぐにそのSNSを確認してみれば、琴姫が来ることが確定事項として書かれていた。
「さすがにこれほど愚かとは、予想できなかったわ」
由香里も頭を抱えている。
当初の予定では、放課後にまたクラス会議を開き、事情を説明するつもりだった。
だがまさか、これほど早く、しかも勝手に『あんな妄想』を拡散するとは思わなかったのだ。
「アイツ、どういうつもりかしら」
話を持ってきた当の遥がいぶかしんでいる。さすがにおかしいと思っているようだ。
「江藤くんはそういう(可哀想な)人なのよ」
由香里が心底呆れた口調で説明した。
甘やかされて育った人特有の症状、自分の意見が通らないとすぐに喧嘩腰になる。
自分の意見で失敗すると、人のせいにする。
正体を知っている人は面倒だから関わらない。
ゆえに性格を矯正される機会を失ったまま高校三年生になり、常に自分は正しい側にいると思い込んでいる。いまも本気でそう思っているのだろう。
「無能な働き者か……」
悪気はないのかもしれない。彼の心の中ではの話だが。
「どうするの? 琴姫さんとか、呼べるわけないじゃん」
「事情を説明すればみんな理解してくれるわ……たぶんだけど」
すでに拡散されてしまったあとだ。全員に訂正して回ることはできない。
「まぁったく、あの構ってちゃんにも困ったものだわ。あいつら抜きでクラスグループ作り直そうか」
遥の意見に翼翔も賛成しかけたが、そうするとあとで何を言われるか分からない。
「もし今回のことを聞かれたら、琴姫さんのことは一部の暴走だから、実際に呼べるわけがないと説明しておいて」
「それしかないわね……」
「すぐにクラス会議を開かないとな……」
翼翔は天を仰いだ。
〇
塔の上階を目指すには、運が必要である。
ガチャから出た武具はかならずバインドされるため、装備を整えるためにひたすらガチャを引くことになる。
しかし武具の排出率はかなり低く設定されていて、ガチャのたびに運頼みすることとなる。
有用なアイテムやシャードを見つけるのも、また運が必要である。
そして意外にも軽視されがちなのが、『町の運』である。
塔0Fには全部で121の町があるが、すべてが発展しているわけではない。
多くのルーターが利用し、大きな街並みができている所もあれば、ゴーストタウンのようになってしまった町もある。
どの町の広場へ渦ができるか、それもまた運なのである。
「レプセの町って、微妙に発展していないんだよな」
これまで翼翔は、写真や動画で塔0Fの町をいくつか見ている。その感覚からすると、レプセの町は小さい方に分類される。
ならば大きな町へ行けばいいと思うかもしれないが、翼翔が行けるのはこの町だけである。
どこで渦を出そうとも、翼翔の場合、必ずレプセの町の広場に出口が作られる。
そこから他の町へ行くことはできるが、何もない荒野を15、6kmは歩かねばならない。一番近い町でも、そのくらい離れているのだ。
つまり別の町へ行くには、毎回レプセの町から歩く必要がある。
「おそらく、同族同士で集まれないようにしているんだろうな。それさえなければ、日本人ルーター同士、助け合っていけるのに……」
同じ日本人のルーターと一緒に行動しようにも、塔の中では普通に数十キロや数百キロ離れて出現してしまう。
結果、ルーターはボッチで活動するか、もしくは……。
「お久しぶりです、翼翔さん」
「やあ、久しぶり。エールル」
同じ町で知り合いを作るしかないのである。
〇
エールルと会うのは、これで三回目となる。
前回、探索を終えて家に帰ろうとした翼翔は、これから探索に出かけるエールルと会った。
そのとき軽く話し、では今度は時間を合わせて一緒に探索してみようという流れになったのである。
「翼翔さん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。……そういえば借金はどうなったんだ?」
探索中に連続して死んだエールルは、国から借金して装備を整えていた。
「はい。大方返し終わりました。ですのでいまは、1Fのシャードを探しているところです」
各階に落ちているシャードを手に入れない限り、5Fへ赴くことができない。
「シャードかぁ、俺もまだなんだよな。あれ、なかなか見つからないんだろ?」
「構造物と一緒に湧くことが確認されていますから、まだだれも探索していない場所を探すしかないと思います」
シャードは構造物の中なら、意外と見つかりやすい場所にあるらしい。
エールルの言う通り未探索の構造物、つまりそこへ道ができていない建物を見つけるしかないのだ。
「いくら未探索の建物でも、毎回見つかるわけじゃないんだろ?」
「そうですね。見つかる確率は、十数回に一度程度と言われています」
「……世知辛いな」
簡単に見つかるならば、多くのルーターが足止めされているはずがないだろう。
「それじゃ行こうか。今日も高く売れるゴミが落ちてる場所があるといいな」
「うふふ……翼翔さんに期待です」
鑑定を使える翼翔は、毎回塔1Fとは思えない額を叩き出している。
そのおかげで、CPはかなり溜まってきていた。
「運が上がるアイテムとかないかな」
「ちょっと聞いたことがないですね」
塔の上階を目指すには、運が必要である。
そのことをルーターは、嫌になるほど理解している。
自らの運を信じ、翼翔とエールルは黒い壁――1Fへの入口を潜った。
◯
文部科学省異界対策局で、局長の鳥之瀬吉影がパソコンに向かって書類を作成していると、端末に着信があった。
送信者は、国内のルーター知名度No.1の『琴姫』こと、試楽院琴音。
彼女は17歳のときにルーターとなり、今年で七年目の24歳。
吉影との付き合いも長い。
『はーい、元気してるぅ?』
ビデオ通話だったため、吉影もそれに倣ったが、画面越しの琴音は、高級そうなホテルで、豪華な食事を前にした状態だった。
イラッとして、反射的に通話を切ろうかと考えた吉影だったが、年長者の忍耐を発揮して、深く深呼吸することで心を鎮めた。
「こちらはまだ、仕事中だが?」
『そんなの知ってるわよ』
またイラッとした。
「これでも忙しい身なのだが、要件はなんだね」
『あれ? 怒っちゃった? せっかく耳寄りな情報を持ってきてあげたのに』
「ついに10Fへ到達できたのか?」
『それは無理。6Fから上のシャードを集めるには、よほどの幸運が連続するか、戦闘で連中を撃退する力が必要ね。強化武器が手に入らない限り、望み薄だわ』
10Fへ行くには、6Fから9Fまでのシャードを一片ずつ集める必要がある。
シャードは構造物と一緒に湧くため、どうしても一緒に湧く敵性生物を駆除する力が必要になってくる。
強力な武器を手に入れられないがゆえに、日本のルーターは停滞を余儀なくされているのが現状だ。
「10F到達の話ではないなら、何なんだ?」
『これもまあ10Fの話に関わってくるのかな? わたしがいるネータムの町にね、バインドされていない強力な武器を売ってる人がいたのよ』
「バインドされていないということは、設計図から造られた武器か」
『はい、その通り。けど5Fの町で停滞している人って多いでしょ? それなりに高額なのよね。それと買っただけならたぶん通用しない。それなりに強化しないと駄目だと思う』
「それでもバインドされていないなら、他のルーターにも貸し出せる。何としてでも確保してくれ」
『了解。でもホラ、先立つものが……ね』
琴音が提示したCPの額は、もちろん出せはするものの、かなりの負担になるものだった。
「……分かった。取りに来てくれ」
『ありがとう。大事に使うわね』
「ただし、全額譲渡は無理だぞ。一部はあとで返金してくれ」
『あら、そこはどーんと釣りはいらねえって言うところじゃなくて?』
「無い袖は振れないんだよ。また買い取り価格を上げなくちゃならないんだぞ」
ただでさえルーターは、1000CPコインを卸してくれない。現金をもらうより、塔で使う方が価値があるからだ。
「買い取り価格を10万から15万円に値上げするか」
上階を目指さないローダーなら、それである程度は持ってきてくれるだろう。
税金の無駄遣いと言われるだろうが。
吉影は、大きなため息をついた。




