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フィルマルト王国ではいろいろあったが、俺はまたダルメル王国の首都ビンスタスに戻ってきた。
フィルマルトへの旅でお世話になったバローチェン男爵は、息子のテランと仲良くしてくれたお礼と言って、なんと貴族しか買えないという珍しいフルーツをひとつ分けてくれたのだ。
一体どんなフルーツかとワクワクしていた。説明を聞くと、どうやらそれはドラゴンフルーツのようなもので、実は貴重なサボテンから採れたという。キース教授の研究所で研究の末、栽培に成功したものだとのことだ。
うぐっ…
サボテン……
キース……
ダブルで嫌な思い出が……
バランさんとクラリスさんへのお土産に、ヤギルリア果樹園のフルーツをたくさん渡したらとても喜んでくれた。
何せ離れて暮らしている息子さんが作ったものだ。
クラリスさんなんて、涙流して喜んでくれた。
さっそく皆でオレンジを食べて、美味しいねと盛り上がった。
クラリスさんに幾つかフルーツパイを焼いて貰うようお願いした。ドワーフ国に行く時に、手土産にするのだ。
俺はアルトとリヴァリエル卿へと、お土産のフルーツを持参した。
「エイト。無事に戻ったんだな。どうだった、フィルマルト王国は?勇者と王女が婚約したと新聞に書いてあったが、帰ってきたということは、あれは君のことでは無かったらしいな。」
アルトは笑いを堪えているような顔をしている。そもそも彼が俺の自由の為に、『勇者は金髪碧眼』という誤情報を吟遊詩人にばら撒かせたのだ。
それにより予想外にというか、いや予想通りというか、見事に人違い勇者が爆誕した。
「アルト、知ってて言ってるだろ。婚約したのは勇者アルマスだよ。なんだか彼に申し訳ない気はするが……」
「申し訳ないものか。そのアルマス君は、皆から勇者と褒め称えられ、可愛い婚約者もできたんだ。今頃幸せいっぱいだろうさ。」
「そうでなくても、彼はいつも幸せいっぱいなんだよ……」
アルトは俺の言葉に不思議そうな顔をした。アルマスのあの妙な自信と異常なポジティブさは、実際に会ってみないと分からんよ。
アルトによると、収穫祭での出来事が耳に入ったダルメル王とバルマス王は、フィルマルト王へ『それは人違いだ』と連絡したそうだ。しかしもう完全に手遅れ。
エイトに会ったことがなく、顔を知らなかったとはいえ、フィルマルト王も今更引っ込みがつかない。
アルマスも一応勇者なのだからと、王たちは口裏合わせて知らないふりをしようと言うことになったらしい。
「という話さ。ダルメル王からエイトに伝えておいてくれと我が家に連絡があった。一応マイルたちにも話しておくよ。はい、勇者騒動はこれでおしまい。万事完了さ。ほんと丸く収まって良かったな。」
そう言ってアルトはまるで他人事のような顔をしていた。
丸く収まったというより、なんかそれってすっごい大人の事情って感じだ。
話をしながら、アルトはお土産のフルーツをメイドたちにカットさせていた。カットされたものは、目の前の皿に次々と山盛りにされてゆく。
「ふふっ、これはなかなか豪勢なフルーツパーティだな。」
カット作業が済んだメイドたちを退出させたアルトは、嬉しそうに新鮮なフルーツを一切れ口に入れた。
「じゃあ、俺も。」
俺もひとつフォークに差した。これはパイナップル系かな。うーん、甘さが実に濃くて美味い。
ふたりで黙々とフルーツをぱくつき、しばらくしてアルトが聞いてきた。
「またドワーフ国へ行くのか?」
「来週には行こうと思ってる。今回はとりあえず1週間くらいの滞在にしてみるよ。バランさんにもそう言っておく。」
「そうか。後で詳しい日程を教えてくれ。行きと迎えの馬車を手配するようにするから。」
「うん、ありがとう。」
アルトは何か考え込んでいるようだった。フルーツを刺すように持っていたフォークが空中で止まっていた。
「どうしたんだ、アルト?」
アルトはハッとしたように手を動かした。ブドウの一回り大きいようなものを突き刺し、それをなんとなく眺めながら言った。
「あ…いや。エイトが戻ってきてから言う。まだ確信できるものでは無いし。」
そう言いながら、デカいブドウを口に運ぶアルト。
「ところでエイト。男爵の娘のうち、どちらのほうが好みだった?リンカかそれともマリカか?まさか、ミルカなのか?彼女はまだ9歳だぞ!」
「なんでそんな話になるんだよ。彼女たちには挨拶程度しかしてないってば。」
「ほんとエイトはシャイだな〜。せっかく同世代の女の子たちと旅ができたというのに。何をしに行ったんだか。」
「だから〜〜〜!」
そんなアルトの軽口に閉口しながら、俺たちは皿に山盛りにあった、大量のフルーツを食べ尽くしてゆくのだった。




