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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 朝凪ことは


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第46話 継承の影

 王城・北翼。


 華やかな謁見の間とは違い、ここは静かだった。


 窓際に立つ青年は、書類に目を落としている。


 淡い銀髪が、午後の光を受けて揺れた。


「第二王子殿下」


 侍従が、静かに告げる。


「南部小領より、税制改定への感謝状が届いております」


「……そうですか」


 青年――ルーカス・アストレアは、穏やかに頷いた。


「実施は現地官僚の功績です。彼らの名で記録を」


 侍従が一瞬だけ驚く。


「殿下のお名前でよろしいのでは」


「不要です」


 視線は書類から離れない。


「制度が機能することが大切です」


 静かな声。


 押し付けない。


 誇らない。


 だが、芯がある。


 その時、扉が開く。


 宮廷宰相ヴォルフガングが入ってくる。


「殿下、中央広場の件はご存知でしょう」


 ルーカスは、ゆっくり顔を上げる。


「奇跡の暴走未遂ですね」


「ええ」


「兄上は」


「象徴の維持を優先なさっております」


 沈黙。


 ルーカスは、窓の外を見た。


 王都の屋根が広がる。


「兄上は、国を守ろうとしている」


 それは否定ではない。


 理解だ。


「ですが」


 静かに続ける。


「守るとは、締め付けることではありません」


 宰相が、じっと彼を見る。


「殿下は、どうなさいますか」


「急ぎません」


 即答。


「今は、揺れを観察します」


 揺れ。


 市場。

 信仰。

 民意。


 王権は、その中央に立つ。


「第二王子殿下を推す声が、宮廷内で増えております」


 宰相は、低く告げる。


「……推されることに意味はありません」


 ルーカスは微笑む。


「必要とされなければ、王位に意味はない」


 その言葉は、軽くない。


 王城・南翼。


 アルベルト王太子は、報告書を読み終えた。


「ルーカスは動いているか」


「目立った動きはありません」


「……静観か」


 アルベルトの目が細くなる。


 あの弟は、いつもそうだ。


 反論しない。

 争わない。

 だが、最後に違う選択をする。


 北翼。


 侍従が、別の報告を差し出す。


「ヴァルデンの経済安定報告です」


 ルーカスの視線が、わずかに止まる。


「レティシア・ヴァルモンド」


 その名を、静かに呟く。


 学院時代。


 遠目に見た少女。


 断罪の場で、黙らなかった令嬢。


「彼女は、急がない」


 兄と違う。


 自分とも違う。


 だが、方向は似ている。


「会う機会はあるでしょうか」


 独り言のように言う。


 宰相が、わずかに口元を緩めた。


「いずれ、必ず」


 夕暮れ。


 ルーカスは城の中庭を歩く。


 近衛騎士が敬礼する。


 だが、過剰な畏怖はない。


 彼は止まり、若い騎士に声をかける。


「訓練は順調ですか」


「は、はい!」


「怪我には気をつけて」


 ただ、それだけ。


 小さな積み重ね。


 信頼は、静かに生まれる。


 王城は、揺れている。


 兄は強く握ろうとする。


 だが。


 握りすぎれば、零れる。


 ルーカスは、空を見上げた。


「王とは」


 誰に聞かせるでもなく、呟く。


「支える者であれ」


 風が吹く。


 王権の影は、ゆっくりと動き始めていた。

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