第102話 それでも、選ばせる
「……いいだろう」
一瞬の間。
「今回は」
その言葉が落ちた瞬間。
空気が変わった。
――リュシエル中央広場。
ざわめきが広がる。
「……終わったのか?」
「勝ったのか?」
誰かが呟く。
だが。
歓声はない。
誰も、はしゃがない。
ただ。
見ている。
目の前の二人を。
カイゼルと、レティシアを。
カイゼルは、動かない。
ただ。
結果を見ている。
そして。
静かに言う。
「選ばれたか」
短く。
それだけ。
レティシアは答える。
「はい」
一瞬の間。
「今回は」
その言葉に。
カイゼルは、わずかに目を細める。
否定しない。
認める。
だが。
終わってはいない。
「非効率だ」
カイゼルは言う。
「遅い」
「不安定だ」
一瞬の間。
「いずれ崩れる」
その言葉は、冷静だった。
事実でもある。
レティシアは頷く。
「ええ」
一瞬の間。
「その通りです」
沈黙。
だが。
彼女は続ける。
「ですが」
その目は揺れない。
「それでも」
「選ばせます」
その言葉。
それが。
この戦いの答えだった。
カイゼルは、彼女を見る。
しばらく。
何も言わずに。
そして。
「……理解はした」
一瞬の間。
「だが」
その目が、わずかに鋭くなる。
「受け入れはしない」
短く。
それだけ。
レティシアは頷く。
「ええ」
一瞬の間。
「それで構いません」
沈黙。
二人の間。
決着はついている。
だが。
終わりではない。
カイゼルは背を向ける。
そのまま。
歩き出す。
止める者はいない。
止められる者もいない。
ただ。
道が開く。
来た時と同じように。
自然に。
そして。
去っていく。
静かに。
確実に。
その背を。
誰も追わない。
――
しばらくして。
広場に、ざわめきが戻る。
だが。
先ほどまでとは違う。
混乱ではない。
不安でもない。
ただ。
少しだけ。
落ち着いた空気。
誰かが呟く。
「……自分で決めたな」
その一言。
それだけで。
全てが伝わる。
選ばされたのではない。
選んだ。
その違い。
それが。
残ったものだった。
――
王城。
「……終わりましたね」
エルミアが言う。
ルーカスが頷く。
「ああ」
短く。
だが。
確かに。
イザベラが言う。
「勝った……って言っていいのかしら」
沈黙。
レティシアは答える。
「いいえ」
一瞬の間。
「違います」
全員が彼女を見る。
「今回は」
「選ばれただけです」
その言葉。
それが本質だった。
アルベルトが笑う。
「十分だろ」
レティシアは小さく首を振る。
「いいえ」
一瞬の間。
「これが続かなければ」
「意味がありません」
沈黙。
その通りだった。
選ばれ続けなければ。
また崩れる。
その現実。
それもまた。
この戦いの結果だった。
エルミアが言う。
「……でも」
一瞬の間。
「今回は」
少しだけ、笑う。
「よかったです」
レティシアも、わずかに微笑む。
「ええ」
短く。
それだけ。
――
窓の外。
人が動いている。
列がある。
だが。
混乱はない。
完全ではない。
だが。
確かに。
自分で選んでいる。
その光景を見ながら。
レティシアは、静かに呟く。
「……それでも」
一瞬の間。
「選ばせます」
その言葉は。
誰にも聞こえない。
だが。
確かに。
この世界に残った。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この物語は、
「どちらが正しいか」ではなく
「どう生きるか」の話でした。
効率か、選択か。
支配か、自由か。
答えは一つではありません。
だからこそ、この結末にしています。
少しでも何かを感じていただけたなら嬉しいです。
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本当にありがとうございました。




