第101話 選ばれた理由
流れは、揺れていた。
――リュシエル中央広場。
人は分かれている。
黒装束側。
連盟側。
どちらにも。
列はある。
だが。
差がある。
わずかに。
黒装束側が、多い。
速さ。
即効性。
それが、効いている。
「……やっぱりあっちか」
誰かが呟く。
「すぐもらえるしな」
現実。
それは強い。
その時。
「次の方」
レティシアの声が響く。
静かに。
だが。
確実に。
彼女は、列の中にいる。
机の向こうではない。
“こちら側”に。
一人ひとりに。
直接、手渡している。
言葉を交わしながら。
「体調は大丈夫ですか」
「……ああ」
「何かあれば、こちらで診ます」
短い会話。
だが。
確かに、向き合っている。
その光景に。
人々が、わずかに止まる。
「……あの人」
「さっきの」
「……直接?」
ざわめきが広がる。
黒装束側は変わらない。
「次」
それだけ。
効率的。
無駄がない。
だが。
違いが、見える。
その時。
一人の老人が動く。
黒装束の列から。
離れる。
ゆっくりと。
連盟側へ。
「……じいさん?」
誰かが呼ぶ。
だが。
老人は止まらない。
レティシアの前に立つ。
「……なんでこっちに」
隣の男が聞く。
老人は言う。
「顔が見える」
沈黙。
「それだけでいい」
その言葉。
それだけで。
空気が変わる。
誰かが呟く。
「……確かに」
「向こう、誰も見てない」
黒装束側。
速い。
だが。
見ない。
判断しない。
それは。
“楽”だ。
だが。
冷たい。
その違いが。
じわりと広がる。
――
エルミアが息を呑む。
「……変わった」
ルーカスが言う。
「まだだ」
だが。
その目は、確かに見ている。
流れを。
――
レティシアは止まらない。
一人。
また一人。
確実に。
渡す。
言葉を交わす。
見る。
それを繰り返す。
その積み重ねが。
流れになる。
その時。
一人の母親が言う。
「……こっちに並びます」
子どもを抱えながら。
「なんでだ」
誰かが聞く。
母親は答える。
「この人なら」
一瞬の間。
「見てくれるから」
沈黙。
その言葉。
それだけで。
決まる。
人が動く。
少しずつ。
だが確実に。
連盟側へ。
流れが変わる。
わずかに。
だが。
明確に。
――
カイゼルがそれを見る。
無言で。
その変化を。
その理由を。
理解する。
「……非効率だ」
小さく呟く。
だが。
否定ではない。
評価だった。
その時。
レティシアが顔を上げる。
カイゼルを見る。
「効率では」
一瞬の間。
「選ばれません」
静かに。
だが。
確実に。
カイゼルは言う。
「……一時的だ」
短く。
だが。
確信している。
レティシアは頷く。
「ええ」
一瞬の間。
「ですが」
その目が揺れない。
「それでも」
「選ばれます」
沈黙。
その瞬間。
列の長さが。
逆転する。
ほんのわずか。
だが。
確実に。
連盟側が。
多くなる。
エルミアが息を呑む。
「……勝ってる」
ルーカスが言う。
「まだだ」
だが。
その声には。
確かな手応えがあった。
カイゼルは動かない。
ただ。
見ている。
その結果を。
その選択を。
そして。
静かに言う。
「……いいだろう」
一瞬の間。
「今回は」
その言葉。
それが。
敗北の宣言だった。
ついに流れが逆転しました。
今回のポイントは、
「速さではなく、向き合うこと」です。
非効率でも、
“見てくれる”という価値。
これが選ばれる理由になります。
次話でいよいよ最終話です。
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最後までぜひ見届けてください。




