そしてその頃パルマの上では(前)
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「今日の午前中の業務はこれで終わり。」
おおよその地上業務を終えたティナとロッソがダンジョンに潜ってしまい、帳簿も予想以上に早めにチェックが終わってしまったのでクリスタは結局ニベア本部にいる時と同じようにカウンターでの日常業務についている。
本来予定の業務が終われば休みでもいいのだけれど残念ながらここパルマは魔の森に囲まれているので勝手に出歩くことは禁止だし、給料が入るのでまぁ良しとする。
ニベアでの仕事内容と同じような事務内容ではあるのだけれど、パルマではこれからすぐにダンジョンに潜る冒険者が多いので、場合によっては魔石ランタンなどの備品を貸し出したりすることもある。
備品の倉庫の配置などが分からなくて少し手間取ってしまったりでなかなかに忙しく、少し遅くなってしまった時間にクリスタが『アリエス』でお昼を食べていると、入り口から急に声が聞こえてきた。
「デボラさーん、上がってきたばかりなんだけどなんか食べさせて寝かせてぇ。」
「スープとパンくらいならすぐにできるから、ベッドに入るのはせめて体を拭いてからにしてちょうだい!アンナ!ハンスお湯沸かして。この子らが寝ないうちにお願いよ。」
お湯を沸かすように従業員に指示を出すデボラの声も聞こえてきた。
聞きなれた声にクリスタは口にパンを突っ込んだままで声の方を振り向くと、見知った冒険者の姿が目に入る。
「ダフネ、キアラ、ベルタ、ファビオラ、ノエミ!」
急に呼ばれた名前に5人がいっせいにクリスタの方を見た。
パーティー名『オーロラ』という彼女たちはニベアだけでなくギルベルタ国でもまだ珍しい女性のみの冒険者パーティーだ。
リーダーのダフネはレイピア使い、妹のベルタは魔法使いだ。ノエミとファビオラも剣士だけど徒手格闘も強い。弓使いのキアラがいたはずだが姿が見えなかった。
「あ。クリスタ。ダンジョン出張に来たんだね。久しぶり。て、ダンジョン入らないの?」
クリスタの声にダフネとノエミ、ファビオラは手を振って応え、年が近いベルタが聞いてきた。
「私が入るわけないじゃん。表の作業に来たんだよ。昨日上がってきたの?」
「うん。厳密には朝。さっきギルドで清算すませてきたところだったの。ニコロとは会ったけどクリスタが来てたのね。」
「眠いんだけどご飯とお風呂済ませてからにしたくて。」
ダフネとベルタが答える間にもノエミとファビオラは眠いのか欠伸を噛み殺している。
「今回結構いい稼ぎになったの。クリスタ、よかったらご飯でも一緒しよ。」
「今は昼休みだから夜ならいいよぉ。ティナさんもダンジョンに入ったし嬉しいな。」
とりあえず休憩が終わるクリスタはギルドに戻り、オーロラの面々は一眠りしてからギルドに来ることにしてその場は別れたのだった。
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この出会いの少し前、クリスタがお昼を食べているちょうどその頃、ダンジョンから上がったばかりのオーロラの面々はダンジョンからギルドへ足を向けていた。
今回の狩りでは今までの中でも一番といえるくらいの成果があがっていた。
「アルド~。査定お願いしまーす。」
「こら。そんなに言わなくても今私たちだけしかいないでしょ。」
はしゃいだ声をあげるキアラをリーダーで姉のダフネがたしなめる。この2人とベルタは実の姉妹だ。ちなみに真ん中のベルタはそんな姉妹の様子をニコニコと見守っているだけだ。
「アルドじゃなくて悪いけど、こちらで見させていただきますよ。」
ニコロがそう言って手招きすると
「あ、ニコロだ。リナルドさんもいたし、出張要員だったんだね。」
ニコロが目を上げると素早く移動してきたノエミの顔が目の前にある。
「そういうこと。君たち最近ニベアにいないと思ってたらまだここにいたのか!」
ニベアでパルマの依頼を受けて旅立って行ったオーロラの面子と会うのはそろそろ1か月ぶりくらいになるだろうか。
「ダンジョンは狭いから私らみたいにスリムなのが活動しやすいんだよ。」
「スリム、ちっこいだけだろ。」
ニコロに言い返されてノエミがべーっと舌を出す。
「はいはい。とにかくお仕事の査定してもらおう。あ、これ成果だから査定して。」
ダフネが重そうに取り出した鞄からは岩トカゲが大小取り混ぜて5匹出てきた。
「お、なかなか大量だね。」
「後これもあるんだよ。」
ベルタとファビオラがそれぞれ出したものは黒く光る木の実と魔力草が数種類だ。こちらはポーションや魔力回復、状態異常回復薬の原料にもなる。
「魔眼使わないの?」
「まずは直接見てそれからにする。頼りすぎはよくない。」
ニコロが取り出したのが鑑定の魔眼ではなくて普通の拡大鏡なのを見てベルタが不思議そうに聞くが、真剣な顔で収穫物を見比べ始めたニコロにそれ以上声をかけることはなかった。
「じゃ。岩蜥蜴が5頭で銀貨45枚かな。この小さいのは銅貨80枚だから。マーリュの実は状態がいいから1つにつき銅貨80枚ってところ。こちらも併せて銀貨3枚。魔力草はちょっと萎びてるから銀貨3枚ってところ。」
難しい顔をしてニコロの話を聞いていたベルタとファビオラがお互いに顔を見合わせてしばらく見つめ合った後で頷いた。どうやらニコロの査定と金額に納得したらしい。
無事に獲物を引き取り、報酬はそれぞれのギルドカードに等分分けにして振込処理をする。
「依頼はこれで完了。完了報告も記入漏れなし。お疲れ様でした。」
これでオーロラが受けたパルマ・ダンジョンでの採集依頼は無事に完遂されたのだった。
「あ、ニコロ。私いくつか鱗と爪が欲しいんだ。鏃に作り替えたいの。」
パーティーの弓使いキアラがはいっと手を上げる。
「分かった。ここがいいとかあるなら選ぶか?あ、その分買取じゃなくなるから君のカード返金処理するよ。」
これはギルドの規約にも載っているのでキアラもコクリと頷いたがすぐに、
「え?でもどこがいいとか分からない!」
もう一度カウンターに載せられた岩蜥蜴にキアラが困った表情を浮かべる。
「キアラ、自分で使うんだろ?鏃のサイズとか矢のバランスとか自分なりの拘りとかあるでしょ。的に当てるのは下手でも俺も調べたんだよ。」
職員になって以来ニコロは仕事に役立つであろう鑑定の勉強も続けている。素材の見分け方もだけど使用する部位の勉強もその中に入っていた。
「じゃぁ。こう・・狙った時にしっくりとくる感じで軽いのがいい!!」
「抽象的にもほどがある!!」
「・・・・なんか妹がいろいろとごめんなさい。」
キアラが元気よく答えてくれたけどニコロはがっくりと肩を落とし、ベルタは頭を抱えた。
「ニコロありがとう。助かった。」
それでもどうにかこうにか、20個ほどの鱗や爪を無事に選び出し、オーロラの収穫物受け取り処理は今度こそ無事に終了した。ちなみにキアラとのやり取りの間に他の4名はさっさと『アリエス』に引き上げてしまった。
「・・・なんとか終わったな。キアラ、これ鏃とかの加工はどうすんの?」
なんだか普通のカウンター業務の倍も疲れた感じがするなと思いながら聞いてみる。
(こんなアバウトな感じで無事に矢ができるのだろうか?)
ニコロの脳裏に一抹の不安がよぎる。
「加工はここにいい工房があるし、武器も大丈夫だよ。あ、今日この後クリスタと会うけどニコロも来る?」
「遠慮するよ。君たち全員とクリスタにたかられるほど俺高給取りじゃないし。」
男の甲斐性見せて見ろとか言われたら今月の給料がすっかり飛んでいきかねない。
「えー!安定した職員がケチ。」
キアラが頬をぷーっと膨らませて不平を言う。
「単純に今は君たちの方が金持ってるじゃないか。俺もクリスタも給料日にならないと金なんてないよ。それにロッソさんたちも潜ったから。カウンターにいないとね。」
「そっか。じゃ、真面目にお仕事がんばってね。じゃぁね。」
「おう。ほどほどにしとけよ。ま、ここ『アリエス』しかないから大丈夫か。」
そこまで本気で誘っているのではなかったのかキアラもあっさりと手を振るとあくびを一つしてギルドを後にしたのだった。
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ダンジョンメンテナンスに降りない面子もキチンとお仕事頑張ります。




