97諸悪の根源
一行は一路西に進路をとりソルジットのカノマトを目指していた。
ただコルテレットの地域を走行中どうやら魔獣と対決していたであろう信者と思われる一段に出くわしたら
、その一団が言葉の通じる者達なら良かったのだが、信仰に縛られ受けた命令に忠実に動いているだけだろうし、既に個人の意思は無いように思われた。
なぜならその者達は腕は無かったり腸を引き摺っていたりとおよそ命ある者とは懸け離れた姿になっていたからである。死してなおその体は神殿より発せられた神託に基づき指示された命令を忠実に行っているのである。しかも四方八方より集結して1つの方向を目指していた。
その方向とはどうやら俺たちと来た方向に進んでいるようで、コルテレットの首都に向かっているようである。
自分達はソルジットの中でも南部よりの都市カノマトを目指していたのだがゾンビ達はいろいろな方向からコルテレット北部に向かっているようであるから自分達とは目的地が違うので今は放っておいて構わないだろう。
死んだ後でも人の言葉に忠実に動くってある意味才能なんだろうけど結局は最後まで自我の無い人形で良かったってだけなんだね。
その人の人生は何を持って幸せと言えたんだろうか?
誰も弔ってすらくれないってのは悲しい事のような気がする。
自分が死んだ後でも何人の人が泣いてくれるかでその人の存在を図れるなんて言葉があった気がするけどゾンビになってまで生き続けて喜んでくれる人は居るのだろうか?
死に対する価値観は複雑だけど…ゾンビは無いな…いずれは殲滅するしか無いのかな?
でも魔物対ゾンビはどうなるのかは知っておきたい。
このまま様子見でいいだろう。
複雑な気分を胸に秘め一路南部のカノマトに向け歩みを進めていた。
その間確認した限りでは魔物もゾンビもお互いに避けて通り警戒し合っているだけだった。このままでは棲みわけしてゾンビも魔物の一部として認識するしか無いのかも知れない。
これはのちの課題として持ち帰るとしよう。
ゾンビの行動に合わせて観察をしていたので速度を調整していたが、いよいよカノマトにたどり着く前に夜になってしまった。そこでぼちぼち夜営でもしようかと検討していると、なんとゾンビの動きが活発になっていた。そして近くの魔物を襲い出し、襲われた魔物は動きの遅いゾンビを捌いていたが集団で囲まれて噛まれ引っ掻かれ小さいながらも傷をつけられていた。その小さい傷はたいしたことなかったように見えたのだが傷口が黒い靄のようなものが掛かっていた。
その靄のようなものが体に染み込むように動いたと思ったら魔物の動きが緩慢になってきて、一旦動きが止まったと思ったらゾンビ達は興味が無くなったのかまた別の魔物に向かって動き始めていた。
残された襲われた魔物はいつしかゾンビの後ろに付き同じような速度で一緒に動き始めていた。
そう魔物もゾンビ化してしまい仲間と認識して別の物を襲いに行ったのである。
このままではゾンビが量産されてしまう事になるが対処法が無いので下手に攻撃に行くことができない。
もし3人のうち誰かが怪我をしてゾンビになってしまったらと思うとやりきれない。
暫くは監視で止まるとしよう。
監視方法はメガネ君が暗視ゴーグル化してくれて暗闇でも日中の様にはっきり見えるので、ホバーバイクにリヤカーつけて交代で操縦して貰って自分はずっと監視で運転手以外には休んでもらい日が昇ってから任せる事にして夜間ずっと監視をする事になったが結局一晩経って対して変化もなく日を浴びてから急に動きが悪くなったのでこいつらは夜行性と判断しても良いのだろうけど昼間も休む事なく動くのでこいつらを相手にするには骨が折れそうだ。
ある意味自分達の蒔いた種なんだろうけど、蒔いた人は刈り取るなんて事はしないからまた正直者がバカを見るみたいになってしまいそうだ。
これは問題を先送りにしよう。
そうこうしているうちにボロボロになった城壁が見えて来た。
おそらくあれがカノマトの街なのだろうけど、人の住んだいた形跡はもう既に見当たらないマップ上にもそれは見て取れる。中にいたゾンビ達はこの街を出て北東に移動を開始しゾンビの追跡は終了してこの街の観察をする事にした。
街に近づき城壁の隙間から内部を観察するとそこには見た事も無い生物達がひしめいていた。
ゾンビたちは居なくなったのだがその分町の中は魔物がひしめいて破壊活動をしていた。
この魔物達は今まで見て来た魔物よりは形態が魔獣に近いのだろうけどなんというか複数の動物の特徴を持っている様な物ばかりだった。
そう…所謂キメラと呼ばれる様々な特徴を持った者達がバトルロワイアルを繰り広げていた。
魔物達の勝ち残ったのは敗者を喰らいさらに独自進化を遂げ、街の中心に近い所ほど大型個体で複数の異なる性質を備えており、街の一際大きい建物からは得体の知れない触手らしき物が窓より出て蠢いていた。
ドゴーーン!
盛大な音と共に触手蠢めく建物が崩壊した。
崩壊の時の粉塵で姿は見えないが途轍もなく大きい物が姿を現した様に思うが嫌な予感しかしない。
5m程の街壁の上に身を隠して偵察していたが20m位はありそうなそれは土埃の収まりと共にその異様な姿を現せ始めた。
まるで剣山の様に沢山の触手を纏いその巨体はまるで芋虫の様で、その上部には人型の上半身がくっついていた。それは触手を上手く使い辺りにいる生物を捕獲して芋虫の前に運び、バリバリと凄い音と共に咀嚼音らしき音も聞こえるので、口に運び食べているんだろう。
やっと土埃が晴れてきてその全貌が露わになってきたがそれは胸糞悪くなる代物だった。
芋虫の上部には頭らしき人型の上半身が一体と触手の山しか無かったが側面は様々な生物が液体の中に漬けられて小さい触手に繋がれて生かされている様だった。
そしてその生物の下にはでかい袋の様な者がパンパンに膨らんでおり、それが萎んだと思うと地面近くにある管から液体の中の物に近い形態の魔物が生み出されていた。
しかしその生み出された子は親の形態を主としながらも他の生物の形態を取り入れていた。ここの連中はこいつが生み出した様だ。
しかしこんなのがどうやって産まれたのやら…
しかも液体の中で生かされて…
ん?生かされて?生きてるって事は捕まえてきた?そんな事してまでなぜ?誰が?
もしや造られた?
じゃあここにいる魔物はもしかして人の手で作られたって事?
そして過ぎた力を制御出来ずに暴走した!?
それじゃあこの騒ぎは人災!?あの途中の街で聞いた噂は当たらずとも遠からずって事?
「あっでかいのが動き出したよぉ〜」
「近くの魔物もそれなりの力でしょうが相手になりませんね」
「私達でもあれは無理そうなの」
「これは俺達の手に余る一度帰ろう」
圧倒的な力を見せつけられ、良からぬ予想が心に渦巻き不安に駆られていたが最悪な方向で当たってしまったのを知り、最後に生存圏の確認のためにここより南部にあるコングリア城下町として栄えたナフラツへ進路を向けるのだった。




