92偵察行
クレセントは発展の度合いを強め、食糧事情はかなり裕福になっていた。
その為避難民をある程度の受け入れはやもなしだが出来れば後方支援基地としての方向に動く事になった。
現在のレホ街も開発が進み人口も増え村から町になり、貴族の統治下となった事で街まで発展していたので、収容力は段違いに上だった。その為レホ街の収容力を超えて南部に来る者は少ないだろうとの判断でレホ街を最終避難地として、扱う事に取り決めた。
腐敗貴族共はどうやらお仲間のいるホルドア街に入っている様だが魔獣の襲撃間近で最終防衛ラインに仕立てていて、くだらないメンツの為に南部に増援要請すら送れない様だが、そんな事情をわかっている左遷側も緊急対応の為にネルドの町に入りモト村(集落より格上げされて農村地として拡張されている)後方支援基地にして体制だけは整えていた。
これはそれぞれの派閥の伝令が情報を交換して伝えてくれたことで、尾ひれが付いているとはいえ情報が伝わり始めていたが住民避難に関してはさほど伝わってこないので、安否が心配されているので、カイル様は南部辺境伯の肩書きを活かしてレホ街での陣頭指揮を行うことになり、RG工房製武器やマーサ製回復薬の買取輸送の手続きをとって、食糧も含めネルド町に輸送することとなった。
スルピーノさんもギルド職員を引き連れて、薬草などの回復薬素材の優先買取体制とクレセントに送って製品の輸送の指揮をとって、冒険者の集約を図り、戦力として止める事になった様だ。
この輸送には水陸両用装甲車とホバーバイク接続リアカー、竜車輸送をファーストメンバーがフル稼働で、魔力がある者も臨時で雇いバイクを走らせてもらい、装甲車は海からレホ街まで竜車も陸路でレホ街までそこから先はバイクでとレホ街を物資集約配送拠点として機能させ始めていた。
そんな拠点に集まる物はレホ街近郊にある虫ダンジョン産昆虫甲殻や大森林産各種薬草をクレセントに送られ、武器防具、下級回復薬を中心に欠損再生剤改め特級回復薬まで幅広く集積され前線になりそうな各地域に運び込まれていった。
支援体制が確立して、避難者の受け入れ体制も整い始め、生活の糧として冒険者への依頼と言う形で採取や偵察任務が多発していて、冒険者に限らず難民にも採取を出来高で買い取る事で日々の糧に当てる事が出来ていた。
ホルドア街近辺まではその様に安全性が確保されつつあり生活基盤の再構築が始まっていたがそこから先の都市では音信不通で消息が危ぶまれていた。
そしてそんな危険地帯と認定されている所に強行偵察と言う名の実力者による特攻が企画されていたがランクゴールド以上のチームと指定が付いたとても危険な依頼が冒険者ギルドより出された。
何度か騎士団により行われていたが魔獣の数により近付けず、よほど実力のある者以外は無理だろうとの事でゴールドランク以上の実力者向けの依頼として出されたのだが…
偶々レホ街に出向いていた公式ランクシルバーのケント達は強制的にカイル様やスルピーノ包囲網により依頼受諾させられたのだった。
しかも目的地が無茶すぎた。
レホ街より西に山を超えて神樹北部にあるソウワルガの街。
ホルドア街北西ネガキア街
ホルドア街北ガトチヤ街
ガトチヤ街北コルテレット南部大聖堂のあるサウリカ街
サウリカ街西ネガキア北にあるソルジット南部研究都市カノマト街
カノマト街南西コングリア首都城下街ナフラツ
サウリカ街とカノマト街は確定で帰りがけにナフラツ街も見てくるのはほぼ強制されて、ソウワルガ街、ネガキア街、ガトチヤ街は粘っていれば最前線として維持されているかもしれない都市として挙げられていた。
ちょっと無茶が過ぎませんかね?
普通に馬車旅したら三ヶ月は確実に掛かるらしいがホバーバイクの機動力ならすぐでしょうって言ってくれちゃいましたよ。
今回は装甲車は海路輸送に使われちゃって、四輪バギーも山越えがあるから不向きで、バイクを当てにされ、それなら機動力も落ちないだろうって1都市1日で行けるって…お前ら現場見てもの言ってんのかー‼︎
突然どっから出てきたのかわからん貴族が仕切りやがって何様だよ。侯爵だ〜?クレスト家?なんだそれ?偉いのか?尻尾巻いて逃げてきた癖に…自分の領地奪い返してから物言えってんだ。
こんなとこいてこんな奴に使われるのも癪に触る。もちろん回ってきてやるが覚えてろよこのやろう。
ケントは心の中で怒りを露わにしていた様だが時間と共に顔に現れ、付き合いの長い人達はその顔色を伺い、マズイ展開になったのを冷や汗かきながら、しかし発言も許されずただただ見守るしかない状況に陥って胃に穴空く思いで耐えるのだった。
そんな気も知らないケントは身についていた営業トークで嫌味を織り交ぜながら、抑えきれない殺気を放ち会議室を後にして準備もそこそこさっさと出発してしまうのだった。
この後会議がどうなったのかは誰の口からも語られることはなかったが、暫くの間回復薬の出荷数が増えたのは、危機が無いのに買う奴が増えるなどと七不思議扱いされたのは当事者にしかわからない事情があったのだろう。
後に激痩せしたスルピーノに驚くケントであった。
クレセント ゼロチームことケント達4人は偶々輸送隊として付いてきていたクロワさんを捕まえて、偵察に行くことになり留守にすることになったので、クレセントの村の事を頼んで別れることになったが、泥だらけになり鞭を打たれ荷馬車を引かされるグロードは見なかったことにしておこう。
さてさっさと行くとしようか?
帰りを早くしたいから山越えで西を先に行っちゃうか?そうすればソウワルガ、ネガキア、ガトチヤと回って、サウリカまで順番に行ける。その後はカノマトが遠いけどそっちに先行けば、帰りがけにナフラツよってネガキアの近く抜けて一直線に戻ってこれるだろうし、その辺りは平坦で移動速度上げられて都合がいいかな?一筆書きみたいにコースが組めたから気分も楽に行けるだろう。
ケント達4人はそれぞれがホバーバイクに乗り込み西に向かって山越え密林ルートながらも軽快に飛ばして行った。山と言っても標高は400mも無いくらいで50~100mくらいの高低差を繰り返していくのである気では大変であるが機動力のある乗り物なら然程苦もなく走り抜けていけた。
樹々の間を縫う様に抜けてたまに襲ってくるやんちゃな魔獣を撃退しつつ出発しておよそ5時間日も傾いて空が赤く染まる頃、最初の目的地ソウワルガ街が見えてくるのだった。




