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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第32話 楽しみだじゅ

 残されたグラントに話を聞けば、宮内長官室で打ち合わせを終えた彼は、そのあと待ち伏せしていたリーリアに半ば無理やりここへ連れてこられたのだという。


 とはいえ、グラントに迷惑をかけたことをきちんと頭を下げて謝ったというから、リーリアの謝罪の気持ちは本物だったのだろう。


 そして馬車の中から盗み聞きしていたレインとダリオの会話を聞いて、なぜかリーリアの中でレインとグラントの道ならぬ恋が咲いていたことを知る。

 レインはイノシシが柵を突き倒して走り去っていくのを呆然と見送る村人のような顔になった。


 思い込んだら一直線というリーリアの性格も本物である。


「娘に甘いだけで、カーグラント侯爵は仕事はできる人だ。彼女があきらめたのなら、侯爵もこれ以上は本当に何もしてこないだろう」


「その〝だけ〟が……」


(致命的じゅ。娘かわいさに隊長の過労死を狙うなんてとんでもないじゅ)


 ブスッとした表情で返してしまったレインへ、グラントは「しかしここで君に会えるとは思わなかった」と微笑んだ。

 なぜここに? と問うグラントへ、クラーラに誘われてきたと答える。


 そして店員に怒鳴るダリオを諫めるために、クラーラを待たせていたことを思い出した。


「そうか。君も大変だったな……」


 苦笑しつつ、「どうせならカフェでケーキを食べたいな」とぼやくグラントとともに、馬車置き場から店の入り口まで一緒に歩く。

 相変わらずカフェは人気で、入店待ちの列も途切れていなかった。


「では私は外の列で待つことにしよう。君は彼女と楽しんで……」


 そう言ってグラントが店の外の列に並ぼうとすると、店内から勇ましい顔をしたクラーラが出てきた。その横には、装備を整えたリチャード・ブーンの姿もある。


「班長! ……と、隊長!」


「クラーラ!」


「どうした」


 驚くレインの横で、すぐさま眉間に皺を寄せたグラントが問う。

 二人は表情や装備の割に緊迫感なく肩をすくめ、リチャードが口を開いた。

 

「隊長にご報告が。王城へ一度伺ったのですが、カーグラント侯爵令嬢と一緒にこちらへ向かったと伺いまして……。実はアルダー子爵が領境にゴーレムを複数体放ち、暴れているそうです」


 グラントの表情が瞬時に軍人のそれに変わった。


「アルダーか。懲りないな。すぐに隊員を集めて……」


「いえ、隊長。今回のゴーレムは通常脅威度のB級です。我々が出るまでもありませんが、アルダー子爵と我が部隊は多少縁がありますから、一応の情報共有としてお伝えしたまでです。王城におわす御方から隊長へ〝休み〟も認められたと伺いました。隊長が現場入りなどあり得ません」


「班長も同じ理由でお休みですよ!」


 リチャードの言葉の後、クラーラが微笑みながら続けた。


「とはいえジャイアントゴーレムが出るかもしれないと、念のため応援要請が出ています。あくまで万が一のための要請ですので、派遣は数名程度で良いかと」


「アルダーと私は大きな因縁がありますので、それは私が受けようかと思います!」


 クラーラの背後で、砂でできた剛腕がうずうずと拳を震わせているのが見えた。


「代わりに、お二人でカフェを楽しんでください。席は確保してありますから、どうぞ!」


 いくら予約をしていて、クラーラが伯爵家の人間だからといってそんなことをしてもいいのだろうかとレインは思ったが、事前に話を通してあったのか、店員が穏やかにうなずいてレインとグラントを席へと案内し始めた。


 グラントもレインも〝休め〟の命令は従わなければならないし、せっかくならカフェをじっくりと楽しみたい。

 二人ともお言葉に甘えてと席に着いて、メニュー表を開く。


 ケーキのページを開いたグラントが、視線をふっと上げてレインを見る。


「よし。私はこの〝茶トラねこちゃんのキャラメルムースケーキ〟と〝黒ねこちゃんのホットココア〟を頼もう」


「では、自分は王都の味(コーヒー)と、〝白ねこちゃんのホワイトチョコムースケーキ〟を頼みます」


 メニューから顔を上げ、ふわりと薫るコーヒーの匂いにレインはわくわくと胸を躍らせた。

 ここは〝この店のコーヒーを味わったことがない者は、王都の味わいも知らない〟とまで言われる、王都でも指折りの人気店。

 いつかは誰かと一緒に来たいと思っていた憧れの店だ。


 王都にきた当初は、きっとその誰かはダリオのことだと思っていた。

 それがまさか、グラント(職場の上官)と来ることになろうとは。


「コーヒー、楽しみだじゅ」


 ぽつりとこぼれ出た呟きに、グラントが少しだけ目を見開いてから微笑んだ。


「――君が〝休み〟を楽しみだと感じてくれていることが、私も嬉しいよ」


 たぶん、今のレインはグラントと同じような表情をしているに違いない。

 自分が〝休み〟を全く怖いと思っていないことに少しだけ目を見開き驚いて、それから、それをグラントが気づいていてくれて、一緒に喜んでくれたことに微笑んだ。


「わ!」


 まもなく運ばれてきたのは、グラントが頼んだ〝茶トラねこちゃんのキャラメルムースケーキ〟だった。

 キャラメルで茶トラ柄が描かれた猫がすごくかわいい。


 続いてレインの頼んだ〝白ねこちゃんのホワイトチョコムースケーキ〟がテーブルに置かれた。

 デフォルメされた白猫の目は、フランボワーズのソースで釣り目型に描かれていて――真っ赤な瞳に花嫁衣裳のような白い装いだった今日のリーリアを思い出してしまった。


 ちょっと吹き出しそうになり……レインはとあることに気がついて表情を強張らせた。


(リーリア様、私のことを男だと思って隊長との〝道ならぬ恋〟のために隊長をあきらめてくれたじゅ? なら私が女だってバレた時にどうなるじゅ……?)


 けれど目の前でねこちゃんのムースケーキに目を輝かせているグラントを見て、その相談はもうちょっと後にしようと思った。


 せっかくの楽しい休みが、台無しにならないように。



End


ムースケーキ美味しそう!と思った方は☆を入れてくださると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
完結済!○年後の番外編に期待。
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