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ぼっちなサレ芋は職場に住みたい ~社畜上司に憧れて、働いて働いて働いて、働き続けていたら脱芋した話~  作者: 万丸うさこ


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第24話 恐れながら、(グラント視点)

 グラントの目の前に立つ宮内長官と、彼の背後にあるソファに座って紅茶を飲みながらこちらを見てくる方面司令部の重鎮たち。


 迷宮伯の息子とはいえ三男という立場では、おいそれとお目にかかれない顔ぶれだ。

 彼らの前に棒立ちしているこの状況に、グラントは胃が痛い。


 隣に立つレインは顔色も表情も変わらない。

 一見平常心だが、しかしよくよく見れば頭から魂が抜けている。


 もしかしたら彼女はこの場にいる彼らが誰が誰だか見分けもついていないかもしれないが、平民にとっては雲上人が固まって自分を見ているというだけで、魂が抜ける理由としては十分だろう。

 レインの頭の上に浮かぶ魂の幻覚は、グラントには白目をむいているように見えた。


 そんな幻覚を見るグラントもまた、同じように頭から魂が抜けそうになっているに違いない。


「いやはや、実に素晴らしい働きだったよ、ウェストコット小隊長。いや、今は高脅威度魔物専門討伐隊隊長だったな」


 宮内長官が笑顔で手を広げ、グラントに労いの言葉をかける。


 ここは王城内にある宮内長官執務室だ。

 グラントとレインは、先日行われた高脅威度魔物専門討伐隊の初仕事について確認したいことがあると言われて呼び出されていた。


「陛下もたいそうお喜びで、個別に何か褒賞を授けたいと仰せだ。望むものがあれば言ってみなさい」


 またもカーグラント侯爵が何か手を回したのかと警戒しながら来たら、重鎮たちは祝賀モードでニコニコしている。

 さらには王からの褒賞という長官の言葉に、グラントは「はあ……」と呆然とした声を漏らして隣に立つレインを見た。


 グラントたちが国の頂点におわすお方からお褒めの言葉をいただくことになったのは、魂だけでなく実際に白目をむいて立ったまま気絶しそうになっているこの部下の働きのせいだとわかったからだ。


 グラントの脳裏には、数日前のマインズ伯爵領での光景がまるで一秒前のことのように蘇っていた。





〝高脅威度討伐隊〟という通称で呼ばれ始めた隊の執務室でグラントがレインから受けた提案は、確かに初仕事としてふさわしいものだった。

 

 だから方面司令部やマインズ伯爵家との調整を経て、提案から三日後には現地へ飛んだ。

 方面司令部から転移門の使用許可が出たおかげで、驚くほどスムーズな現地入りだった。


 マインズ領軍の案内でさっそく新鉱山に陣を張り、是非にとレインから先陣を乞われて許可を出した。

 この仕事を提案してきたのはレインだったが、彼女の班には当事者であるクラーラ・マインズがいる。力み過ぎてミスをしないように、まずひと当てさせてから後方に回そうと考えたからだ。


 グラントだけでなくほとんどの隊員が、この時はまだ長期戦になると予想していた。


 しかしこちらを向いて威嚇体勢に入ったジャイアントゴーレムを、まずレインとクラーラが氷魔法と土魔法で攻撃した瞬間に、その予想は覆されることになる。


 レインの鋭く尖った氷の粒と、クラーラのダイヤモンドのように固い砂粒を、風魔法が使える隊員がジャイアントゴーレムのいる坑道内で攪拌し、ゴーレムの岩肌を見る見るうちに削っていく。


 それは戦いというには淡々としていて、ヤスリで錆を落とす研磨作業のようだった。


 ゴーレムも頑張ってこちらへ突撃しようとするのだが、それは身体強化持ちの隊員が防ぎ、魔法で作られた研磨機へと押し戻す。

 瞬く間に手足がなくなり、小さく丸く磨かれていくジャイアントゴーレム。


 文字通り手も足も出なくなったゴーレムは最後はただの石ころと化し、コロンと転がる。

 それを見たグラントを含め、レイン班以外の隊員たちは思わずゴーレムを憐れに思ってしまった。


 被害が全くなかったからこその感情だろう。

 もし誰かが少しでも傷ついていたら、その丸い姿に叫びながら留めの一撃を放って真っ二つに割っていたと思う。


 ともあれ初仕事のため万が一に備えて持っていった装備や、多めに連れて行った隊員たちが出る幕もないまま、数時間で討伐完了。

 その仕事ぶりを気にかけて視察に訪れていた軍務評議会のとある議員の秘書官もあっけにとられ、驚きのまま帰還した。





「マインズの新鉱山から産出された魔導石は、近年稀に見る高品位のものだった」


 宮内長官の言葉が、魂が過去へ飛んでいたグラントの意識を呼び戻した。


「それをマインズ伯が王家と君の討伐隊……王立魔導討伐隊へ、優先的に卸すと約束したのだ。陛下はマインズ伯爵の王家への忠誠心に大変お喜びだ」


 自分のことのように笑顔で言う宮内長官の背後から、方面司令重鎮の一人が同じような笑顔で口を挟んだ。


「陛下のご温情により、もうすでに決定している褒賞もある。まずはそれを聞いてからでも良いのではないかな」


「そうだな。ではまずレイン・ハンター班長には、貸与型魔導勉学金の全額免除を認める。加えて、班員全員へ褒賞金を与えると陛下は仰せだ」


 宮内長官の言葉に、黒目と意識を彼方に飛ばしていたレインの目に少しだけ力が戻る。

 グラントの隣で「じゅみっ」と謎の鳴き声を上げたのち、彼女は「身に余る光栄でございます」とゆっくりと頭を下げて礼を述べた。


 続いてグラントへ……というより、高脅威度討伐隊への褒賞として、専用の訓練施設の建設と、魔導石を用いた装備のアップグレードが約束された。

 これにレインと一緒に頭を下げたグラントへ、長官が静かに片頬を上げて言った。


「さて……それとは別に、個人的な(・・・・)望みはあるか?」


 宮内長官の言葉に、方面型司令部の重鎮たちがティーカップをソーサーに戻してこちらを見つめてくる。

 その無言の圧に、グラントとレインは知らず顔を見合わせた。


「なんでもいい。遠慮することはない。君たちには困っていることがあるだろう?」


 パチンとグラントを見て片目をつぶったのは、方面型司令部で転移門の管理監督をする魔導通信部部長だ。今回のマインズ領への移動ではかなり世話になった。


 宮内長官の後ろにある背景を〝偉いおじさんの一塊〟としてしか把握できていなかったグラントは、そこで初めて塊になったおじさんたちの顔をほぐすように一人一人見直した。


 皆作戦や情報を司る部門の重鎮ばかりだ。中には宮内長官の懐刀と言われ、王家の使者として飛び回っている人物もいる。

 そしてここには、軍の人事を担う者がいない。


 第四小隊の再編を推し進め、隊員の人数に口を出し、無理な人員で新部隊を発足させようとした人事と事務方の人間がいないのだ。

 ということは、つまりはそういうことなのだろう。


「……恐れながら、高脅威度魔物専門討伐隊の発足を後押しし、我々の活動を見守ってくださる御方へ言付けを願いたく思います。贔屓による成果と後ろ指を指されぬよう、公平な扱いを徹底していただければ幸いでございます、と」


 違っていたらまたペナルティとして馬車馬のように働くことになるのだろう。

 もしくは逆に無職になるかもしれない。


 それはそれでいいかもしれないな。と、グラントは思った。


 ねこちゃん型もこもこアイマスクで三百時間くらい寝たら気も晴れるし、やる気も出るだろう。

 むしろそうしたい。

 それがいい。


 気持ちはすでに解雇されたあとのグラントが、さて茶トラねこちゃんと黒ねこちゃんのどちらのもこもこねこちゃんにしようかと迷っていると、二十四時間働いても屁でもなさそうな部下が隣でスッと短く息を吸った。


「お! お、恐れながら、私もへ、陛下にお願いがございまじゅ!」


 声量と語尾を盛大に間違えたレインがその後に続けた言葉は小さく、硬かった。

 けれど確かな決意に満ちていた。


 そしてそれを聞いた一塊のおじさんたちは軽やかに笑い、グラントは息が止まるほど驚いた。


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