地獄からの脱出
桃枝のハッキングは無事に完了した。
これでこの八咫烏の地下施設の“半分”は掌握できたらしい。
……ただ、完全ではない。
他の重要なシステムは、他のサーバーあるいはアナログな方法によって管理下にあるらしく、ハッキングでは制御できないようになっているらしい。
さすがの八咫烏も、完全な電子制御は避けているようだな。
「てっちゃん、プログラムを書き換えたから、あとはエレベーターで地上へ戻れそうだよ」
「マジか、桃枝。そこまでできるのか!?」
「楽勝だよっ」
可愛いドヤ顔を向ける桃枝。頼もしすぎんだろう。
「さすが、桃枝ちゃん!」
「ありがと、天音ちゃん」
北上さんの判断も「地上へ戻るべき」だった。千年世やリコ、艾――そして、織田兄妹たちも同じ意見。
そうだな、もうこれ以上の無理はできなさそうだ。
犠牲者を出したくないしな。
そう思案していると、雷が俺の肩に手を置いた。
「哲。脱出ルートは俺たちが確保してある。マレーシアへ行くんだ」
「マ、マレーシアだって?」
「ああ。ひとまずの潜伏先だ。実はすでに入院メンバーは移住してある。今回の八咫烏との対決も想定してな」
なんだって……驚いたな。雷がそこまで考えてくれていたとは。
「違います。馬鹿兄貴ではなく、私たちのプランです」
「月の言う通りです」
なんだよ。月と星が手を回してくれていたのかよ。
なんにせよ、八重樫たちは既にマレーシアに飛んでいるらしいな。なら、あとは合流するだけ――!
「俺たちも海外へ逃げるぞ。日本にいれば命を狙われるだけだから」
「それがいいでしょう、哲くん。どうやら、八咫烏の親玉は姿を消したようです」
「なんで分かるんだ?」
「桃枝に監視カメラもハッキングしてもらったのです。途中までヤツらしき影を終えたのですが……途中で見失ってしまいました」
なるほど、親玉は戦うこともせず逃げ出したってわけか。
ただ、巨大地下だから……まだ兵力は残存しているだろう。油断はできないな。
「わかった。そろそろ引き上げよう」
「それがいいでしょう。これ以上の深追いは危険です」
総合的な判断により、俺たちはエレベーターへ戻った。
ボタンを押し、地上を目指す。
静かに動き出すエレベーター。
どうやら、桃枝のハッキングは上手くいったようだな。
かなりの時間を要し、ようやく最上階へたどり着いた。……体感的には10分、それ以上か。
「扉を開けます。みなさん、警戒を」
北上さんがAK47を構える。この先がどうなっているか、俺たちは分からない。目隠しをして連れて来られたからだ。
扉が開き、光が差し込んでくる。
外だ。
地上が見える。
「……っ! まぶしい」
天音が顔を顰める。
みんなも、そして俺も。
「あ、青空ですよ!」
久しぶりに見る青い空に、感嘆を漏らす千年世。その通り、綺麗な空が広がっていた。……マジの地上だ。
「か、帰ってこれたんだ」
「そ、そうみたいだね……早坂くん」
天音が自然と俺の手を握ってくる。
周囲に敵の気配はなく、一安心だ。
このまま長野を脱出する。
一歩踏み出た瞬間だった。
「そこまでだ」
男の声が響き、物陰から30人以上の八咫烏たちが現れた。まだ兵が残っていたのか!
「お、おい! 哲!」
「落ち着け……雷」
「これが落ち着いていられるか! 殺されるぞ!」
それもそうだが、相手が多すぎる。絶体絶命の大ピンチだ。
こっちはエレベーターの中でほとんど遮蔽物がない。
……どうする。
勝ち目は薄いぞ。
だが、ここを突破しないと逃げられない。
「……まずいですね。戦力差がありすぎます」
さすがの北上さんも青ざめていた。……無理か。
ここは大人しく投降するしか……。
だが、向こうのリーダーらしき男が冷酷に指示を出していた。
「皆殺しだ。それがあのお方の命令だ」
クソッ! このままでは全滅だ。
絶望していると――突然、大爆発は起きた。
「うわっ!?」
30人近くいた八咫烏たち付近で何かが爆発し、吹っ飛んでいく。
い、いったい、誰が!?




