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カイル王との密談

――お、おい、サジィール。冗談だろ……っ」


デモール城内、第一王子の執務室。すべてを知っている少年、キィール(十五歳)は、机の上の書類を掴んだまま、背中に滝のような冷や汗を流して硬直していた。サジィールが朝一番に部屋に連れてきたのは、昨日のトーナメント決勝で戦ったあの獰猛な戦士ゾイル――だけではなかった。その隣で、上等な絹の法衣をまとい、ギラギラとした大人の野心とお茶目な瞳を輝かせているのは、この国を実質的に支配する大富豪であり、正統なる統治者、カイル王その人だった。


「カハハ! 若様(キィール)、急に押し掛けてすまぬな! いや、どうしてもお目にかかりたくてな!」


するとカイル王は急に膝を付き、騎士の礼をしてキィールに頭を下げて


「イオン帝国第一王子、イオン17世様、臣カイル=デモール、貴方様のお越しを心より嬉しく思います。 

つきましては、私が貴方の先鋒として戦いましよう」


キィールは顔を引きつらせながら、必死に本物の第一王子の演技を保とうとする。だが、内心のパニックは限界突破していた。自分はただの豪族の息子。サジィールの知略によって本物の第一王子として祭り上げられただけの、完全なる偽物の神の子孫なのだ。もし自分が偽物だとバレれば、この場でカイル王の怒りを買い、軍勢は一瞬で瓦解する。極限の恐怖とプレッシャーの中、キィールはサジィールから叩き込まれた大人の政治の知恵を総動員して、声を絞り出した。


「カイル王……。

貴方の忠義いたみいります。

ですがあなたが国を空けてまで、私の西への遠征に同行してくださるとは、本当に心強い。……ですが、一国の王が前線に出るなど、あまりにも危険ではありませんか?」


キィールが問い返すと、カイル王はギラギラとした大人の野心に満ちた瞳を細めた。 

すると急に元にもどった


「危険ですか? 神の血筋を引く百人の『神の子孫』どもが領地を奪い合うこの大戦乱の世です。安全な場所などどこにもない。何より、私の配下であるゾイルが目覚めさせたこの【アース】の力……。これを崇拝する黒幕【アース教】、イオン帝国の謀反人の連中が、裏で何を企んでいるか分かりません」


カイル王の言葉に、キィールは生唾をゴクリと飲み込んだ。アース教の連中は大きな勘違いをしている。アトンや初代イオンの血筋にわずかばかり残された神の奇跡の血液がなければ、いくら血を濃く交配させようと本物の【アース】が使えないということを、奴らは何も知らないのだ。だが、ゾイルは知らずしてその条件(奇跡の血液)を満たしていた。そして昨晩、奴隷の少女メシアとの打算なき無垢な純愛によって、五百年の封印を破り、本物の【アース】の大覚醒へと至った。現に今、ゾイルの肉体の奥底からは、大気すらも容易く捻じ曲げるほどの圧倒的な波動が立ち上っている。


「ゾイルは頑固な男でな。私への恩義から、若様の帝国奪還の遠征には付いていかぬと言い張りまして……だからな、若様。私も国を空けて、この遠征に直々に同行することにしました」


「え……? ええええーーーーっっっ!?」


キィールは思わず神輿の威厳を忘れて絶叫しそうになった。


「カ、カイル王、正気ですか!? あなたはこの国の王ですよ!? 遠征に付いてくるなんて、そんな……!」


カイル王は、普段より自分のデルモラードより西のモーラの国同士の戦いや内乱が続いているのを憂いでいた。

その内にデルモラードにも戦乱が…

王妃もメシアそんな戦乱の犠牲者だった。

カイル王は、ディラーを強国にしたのは、いつかはモーラを統一して平和な世の中との叶わぬ夢を持っていたのだ。

だが、デルモラードの盟主になっても、デルモラード諸国、部族をまとめるまでにはなっていない。

自分では旗印にもならない。

そこに現れた第一王子、旗印にはもっともふさわしいし、大義名分にもなる。

カイル王は、これは天命と思い。


「若様、私の財力と、本物の『アース』に目覚めたゾイルの武力。これがあれば、西の摂政どもなど恐るるに足りませぬ。……私を、あなたの陣営(東西南北の約束)に加えることをお願いします」


じっとキィールを試すように見つめる、カイル王の鋭い眼光。

部屋の隅で腕を組んでいた最強の騎士サジィールが、ここでニヤリと不敵に笑い、キィールに向けて不器用で、けれど最高に格好いい親指を立ててみせた。

『――若様。大人の汚い政治のやり方は、全部教えてあります。ここはハッタリでも何でもいい、本物の王としての器を見せてやりなさい』

サジィールの視線が、無言でそう告げていた。キィールは深く息を吸い込み、冷や汗を拭うと、黒い瞳に強い意志の光を宿してカイル王を正面から見据えた。 

キィールは手綱を強く握り締め、確固たる覇王の瞳でカイル王とゾイルを見据えた。


「――いいでしょう、カイル王。あなたの財力と、ゾイルの【アース】の力。イオン帝国を奪還し、このモーラに本当の秩序を取り戻すために、そのすべてを僕に預けてください」


キィールは、カイル王に手を差し出し、固く握手をした。

すべてを知っている偽物のイオン帝国第一王子キィールの部屋で、世界をひっくり返す最強の軍勢の密約が、生々しい緊張感とともに、今ここにがっちりと結ばれた。カイル王家との話し合いが、ひとまずの決着を見たその時だった。


「ところで、カイル王様」


部屋の隅で直立していた元・近衛隊長――サジィールが、貴族的の騎士にふさわしい洗練された仕草で一歩前に出た。その口調には、近衛のトップを張っていた男ならではの鋭い威厳が満ちている。


「カイル王様には、あの【謎の軍師】の話を耳にされたことはありますか?」


サジィールは冷徹な眼光をカイル王へと向け、静かにその伝説の存在について問いかけた。


「――歴史の至る所で、なぜか劣勢で滅びかけている勢力にばかり味方し、数々の大逆転劇を巻き起こしてきたと言われる、謎の軍師。五百年前、初代イオン様と一緒に降臨された神々に助けられたという、あの正体不明の軍師……。今あの軍師がこの国の何処かにいると聞いてるのですが、そもそも私がこの国に来た目的なんです。」


サジィールのその言葉を聞いた瞬間、カイル王の思慮深い瞳がわずかに揺れた。謎の軍師の存在は、一応の秘密である。おいそれと他人に話していい生臭い歴史の領域ではない。カイル王は少し躊躇するように言葉を呑むと、隣に控える戦士ゾイルの顔を静かに見つめた。王の重々しい視線の意味にいち早く気付いたゾイルは、深い覚悟を決めたように一歩前に出た。

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