7話 冬波さんからのお使い
「その…昨日はごめんなさい。久しぶりの新入部員で、はしゃいでしまって…」
翌日、恐る恐る生徒会室の扉を叩いてみると、冬波さんは昨日とは打って変わって、落ち着きを取り戻した様子だった。
その様子に安心した僕は、返事をする。
「いえ、全然大丈夫ですよ。」
「しかし、すごい興奮ぶりでしたよね。そんなに能力に興味があるんですか?」
素朴な疑問を投げかけると、冬波さんは深く頷いた。
「ええ。とっても興味があります。」
「能力には無限の可能性がある…今でもその考えが変わることはありません。」
「…能力とは、人智を超越した力です。」
「ご存知ですか。古典力学は当然として、現在のあらゆる学問体系を駆使してもなお、能力についてほんの一部しか明らかになっていません。」
「もっとも、”ほんの一部”といいましたが、それが全体の何パーセントにあたるのか……それすら見当がついていないんです。」
「私は、その謎を解き明かしたい。そう思っています。」
真剣な眼差しに、どこまでも透き通った蒼色の瞳。
思わず聞いてしまった。
「どうして、そこまで…」
「ふふっ、ただの好奇心ですよ。」
「好奇心、ですか。」
「和泉くんも気になりませんか?土壇場で出せたその力が、一体どんなものなのか。」
「いや、そんなには……」
そこまで口が滑ったところで、話の落としどころを探そうとする。
そうして考えあぐねていると、冬波さんが一言、付け加えた。
「…記憶、取り戻したいんじゃないの?」
「…っ!」
「どうして、そのことを……」
「知っていますよ、仮にも生徒会長ですからね。」
「あなただって、私とそう変わってはいないんですよ。興味を向ける対象が違うだけで、同じ好奇心を持っています。」
「これは和泉くんだけの話じゃない、他の生徒だって、先生だって…すべての人が、心のどこかで好奇心を抑えられずにいます。」
「私は人よりもちょっぴり、好奇心に正直なだけなんですよ。」
好奇心……
確かに。僕にも冬波さんほどではないけど、ある。現に今、記憶喪失の話をされたがために、食い入るように話を聞いていた。これこそが僕にも好奇心があることの証左に他ならない。
「先ほども言いましたが、能力は常識を超えた力です。能力を使いこなせるようになれば、きっと記憶を取り戻す手掛かりになりますよ。」
「どうですか?和泉くんも、自分の好奇心に素直になりませんか?」
「…はい。知りたいです。」
「能力を扱えるようになって、記憶を取り戻す手掛かりを探したい。それが僕の望みです。」
「その手がかりになるのなら、僕は喜んで異能力部に入ります。これが、今の率直な気持ちです。」
「……よく言ってくれました。」
「ようこそ異能力部へ。歓迎しますよ!」
「ありがとうございます!……ではあるんですけど。」
「あの、一ついいですか?」
「何でしょう?」
歯切れの悪いように話を切り出すと、すかさずロングの青髪を揺らして聞き返す冬波さん。
よく手入れされた髪だな……なんて些末な思考は押し込んで、ずっと気になっていたことを質問する。
「異能力部の部員、全然いなくないですか?」
「茂が部員なのは知ってるんですけど……もしかして、冬波さんと茂だけですか?」
部員らしき姿を全く見かけないことに加えて、呼び出される部屋も部室ではなく、生徒会室。
口にこそ出さなかったが、魚の骨のようにつっかえていた疑問だった。
「いいえ。部員は和泉くんを含めて6人いますよ。」
「えっ。それじゃあ、ここから離れた場所で活動してるってことですか。」
「…残念ながら、それも違います。異能力部は部員数も少ないため、生徒会室が活動場所になっています。」
「私としては皆さんに活動にきてほしいのですが…ご覧の通りですね。」
「茂以外の3人は幽霊部員ってわけですか……」
部活というから、何となく毎日練習に勤しんでいるイメージがあった。
だけど実態はその逆。まさか半分も幽霊部員だったとは…
「あまり褒められた活動状況ではありませんが、これで話が早くなりましたね。」
「早くなった、ですか……」
「はい。和泉くんが異能力部の部員になった記念、というわけではないのですが……少しお使いを頼んでもいいでしょうか?」
「お使い……」
いまいち話が見えてこない。
そう思った僕は、そのまま耳を傾ける。
「私の代わりに、皆さんが部活に参加するよう説得してほしいのです。」
「ええっ、僕が説得するんですか?」
「その…冬波さんからは話をしなかったんですか?そちらの方が顔も広いし良いと思うんですけど…」
「ええ。私としても、話をする時間を設けたいのですが……」
「実は、私も茂くんと同じNDFの隊員……もっと言うと、副隊長なんです。説得するには、どうしても時間が足りなくて…」
「…えっ。」
衝撃の事実に、想像の何倍も低い声が喉から出てきた。
茂が隊員であることにも相当驚いたというのに、ましてや副隊長…!
高校生にこんな役職を任せるなんて、それだけ冬波さんかすごいのか……
「副隊長なんですか。すごいですね……」
「いえいえ。肩書きが立派なだけで、私はまだまだ未熟者です。」
もう何百回としてきたやりとりなのか。完璧すぎるほどの謙遜をする冬波さん。
「それで、話の続きなんですが…」
「どうやら皆さん、私のことを好ましく思ってないようで、時間を作って会いに行っても門前払いされてしまうんです。」
「私はただ、皆さんのためを思って行動しているだけなんですけどね。」
なるほど、これで事情は分かった。
断る理由もなかったので、返事はすぐに決まった。
「……分かりました。そういうことなら、僕が説得してきます。」
「部員がいないと、能力を扱う練習どころではないですからね。」
「本当ですか!」
「ありがとうございます…どうお礼を言えばよいか……」
「いいえ。困ったときはお互い様ですよ。」
「それで、まずは誰と会えばいいですか?あんまり怖くない人だと良いんですけど…」
「そうですね。そういうことなら最初は……」
「氷室理奈さん、ですかね。」




