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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
終章 悠斗と倖楓
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当たり前の感情

お待たせしました。

 俺は海晴(みはる)さんに選挙が始まってからの心境などを一通り話した。口にしてみると、相談というよりもほとんど愚痴に近い内容だと気付いた。

 それを聞かされた海晴さんはさぞ退屈だっただろう、と申し訳なく思いつつ顔を見る。

 その顔には全く不快感が無い。かといって、何かを真剣に考えている様子でもない。

 キョトンとしているのだ。


「あ、あのー……」


 俺は恐る恐る声を掛ける。

 すると海晴さんは、「やれやれ」と言うような顔で小さく溜息を吐いた。


「それって、普通にその眼鏡の先輩に嫉妬してるってことじゃない?」

「え? 俺、別に何も妬んでないですけど……」

「んー、もっと具体的に言うと、倖楓(さちか)ちゃんへの独占欲ね。あの倖楓ちゃんが、悠斗(ゆうと)くん以外の男の子にあっさりついて行くなんて、私でもビックリだもん」

「独占、欲……」


 海晴さんに具体的な名前を出されて、自分の中のモヤモヤはそうだとしか思えなくなり始めた。それと同時に、このモヤモヤ自体もだが、そんなものを抱いている自分にも気分が悪くなってきた。

 しかし、そんな俺とは反対に、海晴さんはニッコリとしている。


「悠斗くんはどちらかと言うと庇護欲の方が強く見えたから、倖楓ちゃんに対して独占欲っていう執着も持てるようになって良かったー」

「……嫉妬心なんて、褒められたものじゃないでしょう?」


 これは本心だ。何よりも、これが俺と倖楓が離れることになった起因と言っても過言ではないはずだ。クラスの女子が倖楓に対して抱き、その女子達の嘘を利用した滝沢が俺に対して抱いていたであろうもの。

 本当に吐き気がする。


 それなのに、海晴さんはそんな俺を優しく撫でる。


「たしかに嫉妬は強すぎるとそれが原因で悪いことが起こったりするけれど、全く必要無いわけじゃないよ?」

「……?」

「たとえば、私が他の男の人と仲良く話したりすると、洋ちゃんは決まって私の好きな料理を作ってくれるの。それで私は洋ちゃんがやきもちを焼いてくれたんだってわかって、愛されてるんだなって感じられる。要はね、度合いの問題なんだと思うな」

「度合い、ですか」


 海晴さんの言いたいことは何となく伝わってきた。

 結局、感情を持つ本人が扱いを間違えなければいいということなのだろう。

 ……俺にうまく扱えるだろうか。


「それにね、誰かを好きでいたら当たり前の感情なんだから、大事にして」

「……頑張ってみます」

「うん」




 海晴さんと話をした後、俺は営業終了時間までしっかりと働いた。

 もうボケッとするようなことは無かったが、海晴さんと洋介(ようすけ)さんに気をつかわれて片付けもほどほどに帰っていいと言われてしまった。


「それじゃあ、お疲れ様でした」


 裏で帰り支度を終えた俺は、出入り口付近で挨拶をした。二人からの返事を貰ってから店の外に出る。

 すると――、


「お疲れ様っ!」


 声が聞こえると同時に、真横から飛びつかれた。

 私服姿の倖楓が、これでもかと力を込めて抱きついている。

 いつもだったら「危ない」と叱る言葉が出るところなのだが、不思議と出てこなかった。


「ずっと待ってたの?」

「ううん。本当に今さっき来たところだよ! でも、ゆーくんが思ったより早く出てきてビックリしちゃった」

「あー、なんか、今日は早く帰っていいって言われたから……」


 倖楓のことで仕事に身が入って無かったなんて口が裂けても言えない。


「そっか!」


 俺の誤魔化しに気付いているのか、それとも気付いてないのかもわからない笑顔を倖楓は見せる。


 あとは帰るだけなのだが、俺に抱きついたまま倖楓は一向に動こうとしない。


「どうした?」

「最近、ゆーくん成分が足りてなかったから充電してるの」

「べつにこんなところでしなくても……」

「家に帰ったらいいの?」

「……まあ」

「じゃあ、一旦おしまい!」


 倖楓は弾んだ声で俺を両腕から解放した。


「よし、帰ろっか!」


 そう言って進み出した倖楓の手を掴み、放課後の時と同じように引き止めた。

 一つ違うのは、今度は無意識ではないことだ。


「どうかしたの?」

「いや、帰ろう」


 首を傾げる倖楓にそう答え、その隣に並ぶ。そして繋いだ手を、指を絡ませるように繋ぎ直す。

 そのことに倖楓は何も言わず、俺に寄り添うように距離を詰めた。

 すると、倖楓の口から「ふふっ」と笑いが漏れ出た。


「なに?」


 本当は笑われる理由なんていくらでもあると自覚はあったのに、俺はわからないフリをした。


「寂しかった?」


 倖楓の口調はいつものようにからかっている言い方ではなく、嬉しそうに聞こえる。

 それにつられたのか、俺も取り繕ったりする気にはならなかった。


「……そうだな」

「うん。私も寂しかった」


 それからはお互いに何も言わず、ただ家路を歩く。

 繋がれたままの手は、俺の方が強く握っていた。

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