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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
終章 悠斗と倖楓
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覚悟

 週が明け、生徒会選挙は滞りなく行われた。

 結果の方は俺――というか、ほとんどの人――の予想通り、茉梨奈(まりな)さんの圧勝だった。

 ここまで完璧だと、倖楓(さちか)の手伝いは果たして必要だったのだろうかと考えさせられるが、今更何を言っても仕方が無い。


 そんな新生徒会発足から二日が経った放課後。いつも通り帰ろうとする俺に、クラスメイトの女子が声を掛けてきた。


水本(みなもと)君」

「なに?」


 ほとんど話をしたことがない相手だったので、少しだけ緊張感がある。


「生徒会長さんに呼んで欲しいって言われたんだけど……」


 クラスメイトの後ろに目をやると、まさに就任したての生徒会長である茉梨奈さんが教室の出口で待っていた。

 俺は呼んでくれた女子にお礼を言い、茉梨奈さんへ向かう。


「直接来るなんて珍しいですね。どうかしました?」


 大体スマホのメッセージで呼び出されることが多かったこともあり、こうして直接呼ばれるのは珍しい。


「この後、少し時間をくれない?」

「相談事ですか? あの喫茶店に行くとかだったら問題ないですけど」

「相談っていうほど硬い話じゃないわ。あなたと生徒会室で少し話せればと思っているんだけど」

「俺だけですか? それならサチに聞いてみないと……」


 この後、俺は倖楓と夕飯の買い出しの約束をしていたので、何も言わずに生徒会室へ行くわけにはいかなかった。

 俺が倖楓のいるであろう方へ振り返ろうとすると、


「私はいいよ?」

「うぉ!?」


 いつの間にか、倖楓が俺の背後にいた。


「いつからいたんだよ……」

「ん? 最初からだけど」


 倖楓は首を傾げて「何言ってるの?」という顔をしている。


「で、ほんとにいいの?」

「うん。先に帰って夕飯の支度しとくね」

「そ、そっか」


 すんなり許可が出たので少し拍子抜けしてしまった。てっきり文句の一つでも出ると思っていた。


「ということなので、俺は問題ないです。今からでいいんですか?」

「ええ。お願い」

「それじゃあ、荷物持ってくるんで少し待ってて下さい」


 すぐに荷物を取って戻った俺は、茉梨奈さんと生徒会室へ向かった。




「入って」


 生徒会室の鍵を開けた茉梨奈さんに促されるまま、俺は生徒会室の中へ。

 以前入ったのは茉梨奈さんがまだ副会長の時だったが、代が変わったからといって内装の変化は特になかった。だが、やはり自分が部外者という認識は変わらないので、少し緊張する。


 茉梨奈さんとテーブルを挟んで向かい合って座ると、生徒会室の扉が再び開かれた。

 入ってきたのは、見覚えのある眼鏡の男子生徒だった。選挙期間中、手伝いをしていた倖楓を迎えに来ていた人だ。

 この人とは軽く会釈した程度で、こうして同じ部屋にいたことなんて一度も無い。それどころか、声をまともに聞いたことすらない。

 さっきまでとは違う緊張感が俺を襲う。


 すると、茉梨奈さんが眼鏡の先輩を手招きした。


「丁度良いタイミングね。座って」


 俺は「え!?」と叫びそうになったが、なんとか飲み込む。

 しかし、顔には出ていたのだろう。茉梨奈さんは俺を見るなりクスッと笑った。


 眼鏡の先輩も着席すると同時に、茉梨奈さんがそれぞれの紹介を始めた。


「彼は二年生で副会長の根岸君よ。それで、こっちが話に出ていた一年生の悠斗(ゆうと)君。私の大事な後輩よ」


 茉梨奈さんがそう言い終えると、根岸と紹介された先輩が俺に会釈した。


「はじめまして、二年の根岸幸太郎(ねぎし こうたろう)です」

「……あ、一年の水本悠斗です。こちらこそはじめまして」


 こっちはまだ状況を飲み込めていないのに、流れるように自己紹介をされて少し反応が遅れてしまった。

 というか、話に出ていたとはどういうことだろう。一体どんなことを話されていたのかと考えると不安でしょうがない。


「えっとー、茉梨奈さん? これはどういう……」


 またこの人の悪戯に付き合わされているのだろうとはわかりつつも、聞かずにはいられなかった。


「二人とも顔を合わせたことくらいあるんでしょう? だから紹介くらいしておこうと思ったのよ」

「いや、さっきの口ぶりだと俺のことはもう知られてるみたいですけど……」

「あの子に手伝って貰ったんだから、あなたのことが話題に出るのは自然なことでしょう?」

「……内容によります」


 言われてみれば納得出来なくはないが、問題はやはりその中身だ。


「大したことじゃないわ。明らかに好き合ってるのに一向に手を出さないヘタレとか、そのくらいよ」

「最悪も最悪じゃないですか……」


 最早声を張る気力すら無く、俺は手で顔を覆った。


「まあ、冗談はさておき」

「これを冗談で済まそうとするとか、選挙で茉梨奈さんに投票したこと後悔しますよ……」


 俺の言葉も意に介さず、茉梨奈さんは淡々と話を続ける。


「本題は誤解を解くことよ」

「……誤解?」


 本題と言われたが、全く意図が理解出来なかった。

 根岸先輩の方は、ずっと顔色一つ変えずに座っている。もしかしたら、これから話すことも全部知っているのかもしれない。


「ええ。まず、倖楓に根岸君を付けたのは私の指示よ」

「えっと、どういうことですか?」

「あの子を悠斗君から預かるのよ? 何かあったら申し訳が立たないでしょ。だからボディガードのようなものよ」


 だから毎回根岸先輩が迎えに来ていたのか、と納得は出来たのだが、俺の疑問はそこではない。


「あの、誤解ってなんのことですか?」

「あら? あなた、根岸君のことを倖楓に気のある男と勘違いしてたんじゃなかったの?」

「はい!?」


 今度は俺の口から大声が発せられた。

 一体どこからそんな話が出たのか。たしかに嫉妬のようなものは感じていたが、根岸先輩のことをそういう人だと思って見ていたわけではない。


「誰がそんなことを……?」

「だって、悠斗君が露骨に根岸君のことを聞いてこないって、倖楓が言ってたわよ?」

「それは、部外者があれこれ聞くのはよくないかと思ってですね……」

「それはさすがに苦しいんじゃない?」

「ぐっ……」


 本当に根岸先輩を悪く思っていたわけではないのだが、それを証明するには嫉妬のことを詳しく話さなければならない。こうして対面するのが初めての人もいる前で、というのは地獄にも程がある。

 すると、ここにきてようやく根岸先輩が口を開いた。


「大事な後輩なら、あまりいじめない方がいいんじゃないかな?」

「そうね。ちょっと遊びが過ぎたわ」

「人で遊ぶという発想をまず止めてください……」


 俺が呆れ口調で責めると、根岸先輩に苦笑いで謝られた。


「すまない。最初からちゃんと挨拶したかったんだけど、橘さんに止められて」

「なんでそんなことを?」


 止めた本人に直接尋ねると、肩を竦めた。


「だって、そうしないと焦らないでしょ?」

「はい……?」

「今回、倖楓に手伝いを頼んだのはね、少しの期間でも二人を離そうと思ったからよ」

「益々意味がわからないんですけど」

「簡単な話よ。悠斗君にあの子が近くにいることの重要さを再確認させるのが目的だったの」


 俺は何も言えなくなった。なにせ、まんまと茉梨奈さんの作戦に乗せられたのだから。

 そして茉梨奈さんは続けて、


「あと二週間もすれば中間テスト。その後すぐに文化祭で、それも終われば期末テスト。あっという間に今年が終わるわ。その勢いのまま、気が付いたときには卒業を迎えてるなんてこと、容易に想像出来たわ」

「そんなこと……」


 否定しようにも、少し前の自分ではあまりにも説得力が無かった。


「それで、あの子のいない時間はどうだった?」

「……サチの存在が大きいのは改めて自覚しました」

「そう。決めたの?」

「はい」


 ――でも、もう違う。


「文化祭で、倖楓に気持ちを伝えます」


 俺の覚悟は、もう決まっている。

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