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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
終章 悠斗と倖楓
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親しき仲にも罠はあり。

 久しぶりに3人だけで学校を出て歩く。

 こうして歩いてみると、やっぱりこの3人ならではの独特な空気感がある。

 高校に入学してからそれぞれの関係性は変化していても、居心地が良いことに変わりはない。


 しかし、明希と槙野は付き合いだしてから、部活の有る無しに関わらず2人で帰っていたのに、今日は俺を誘ってきたというのが意外だった。


「なんで今日は誘ってくれたわけ?」

「ん?なんとなくだな。遊佐さんが悠斗と一緒に帰らないっていうのがわかったから」

「ふーん」


 特に理由は無かったらしい。まあ、友人同士ならではの感覚だと思う。


「ねぇ、私、お腹空いたんだけど、どっか寄ってかない?」


 突然、槙野が提案をしてきた。

 倖楓と夕飯の約束をしているのであまり食べない方が良いと俺は思ったが、自分が飲み物だけで済ませればいいだけか、と納得した。


「俺はいいぞ。悠斗は?」

「いいけど、どこ行くの?ハンバーガー?」

「んー、今日はドリアの気分」


 ハンバーガーなら定番のファストフードだが、ドリアとなるとファミレスだ。

 そっちならドリンクバーもあるし、飲み物だけでも気持ち的には満足出来るだろう。


 ドリアに誰も異議を唱えなかったので、俺たちは駅前のファミレスに向かった。




 リーズナブルな価格で学生定番のファミレスに入り、テーブル席へ案内された。

 俺達と同じように学校帰りの学生客が多い。待ち時間なく座れたのは運が良かった。

 とりあえず、明希と槙野が隣で座るのは確定事項だ。

 俺はソファでなく、椅子に座ろうと手をかける。

 しかし、それを槙野が声で制止させる。


「ちょっと待って」


 槙野は特に気を悪くしたような様子はなく、俺は何故止められたのか理解出来ない。


「え、なに?」

「水本はソファに座って」

「いや、ソファには槙野と明希で座ると思ってたんだけど」

「いいから。私と明希はこっちに座るから」


 有無を言わさない雰囲気の槙野に、俺は従うしかなかった。


 俺はわけもわからないままソファに1人で座り、向かいの椅子に明希と槙野が座る。

 何故こういう配置になったのかという疑問が解消されることはなく、何事も無かったかのように注文まで終えた。


 一先ず、その話はドリンクバーを取りに行ってからしようとすると、今度は明希に止められる。


「あー、俺が取ってくるから、悠斗は座ってていいぞ」

「え?…わかった」


 考えすぎなのかもしれないが、明らかに2人で何か企んでいるように思える。

 さすがに長年の付き合いなので、悪いことではないと信じているが、怪しいことに変わりはない。


 明希が3人分のグラスを持って戻ってきてから、俺は話を切り出した。


「…で?」

「なによ?」

「明らかにいつもと違うでしょ。何が狙いなの?」

「失礼ね、まるで私と明希が悪人みたいじゃない」

「そこまでは言ってないけど…」


 俺と槙野の会話を隣で聞いている明希は苦笑いをしている。


「まあ、簡単に言うと、悠斗と話がしたかったんだよ」

「話?」


 何か問題でもあったのだろうかと考えたが、2人の様子や口調は深刻なものではない。


「何個かあるんだけどな。まずは…」


 明希はそう口にしながら槙野の目を見る。

 そして、槙野も明希と目を合わせ、2人で頷いた。


「「花火大会ではお世話になりました」」


 声を揃えて、頭を下げられた。


「いや、そんな気にしなくていいって」


 付き合いの長い2人にこうして畏まられると、どうしていいのかわからなくなってしまう。

 そもそも、あれは自分で関わることに決めたのだから、貸しにするつもりもなかった。


「あの日だけじゃなくて、今までもだ。何かと俺と香奈のことフォローしてくれてただろ?」

「あんたにどんだけ気にするなって言われても、感謝しないのは違うでしょ」


 親しき仲にも礼儀あり、ということらしい。

 そういうことなら、ちゃんと感謝を受け取るのも礼儀だろう。


「わかった。…でも、本当に2人がやっと付き合えて良かったよ」

「これからも面倒かけることがあるかもしれないけど、許してくれな」

「いいよ。俺の数少ない友達だからね」


 俺の冗談めかした言い方に、2人も笑う。


「で、ここからが本題よ」

「ああ、何個かあるって言ってたもんな」


 というか、貸しにしないとは思っているが、感謝が前座ってどうなんだ…?

 槙野もさっきよりも真面目な表情をしているし、何を言われるのか恐ろしくなってきた。


 明希はどうやら槙野に任せるらしい。飲み物を飲んで口をつぐんでいる。


「倖楓ちゃんのことよ」

「…あー」


 言われてみれば、その話題かと納得出来てしまう。

 倖楓のことと言われれば、どういう内容なのかの選択肢は複数思い浮かぶ。

 例えば、変な男子が近づいているだとか、生徒会の手伝いをしていることとか。

 ただ、前者は恐らく今のところそういった兆候は見えていない。

 2学期が始まったばかりなこともあるし、倖楓とは学校でほとんど一緒に行動しているので、何かあればさすがに気付くはずだ。

 となると、やっぱり生徒会のことだろうか?


「サチがどうかした?」

「倖楓ちゃんがっていうより、水本よ」

「はい?」


 さっきと言っていることが変わっている。

 そもそも俺は今、問題を抱えていない。本人なのだからそれはよくわかっている。それなのに一体、何のことなのか。

 俺は考える頭に糖分を摂取させるために、コーラを口にする。


「だから、いつ倖楓ちゃんと付き合うのって話!」


 盛大にむせた。

 コーラを吹き出さなかっただけ褒めて欲しい。


 俺はこの手の話を誰かに話すのは苦手なのだ。

 出来れば、そっとしておいて欲しいと思ってしまう。


 よし、お茶を濁そう。


「あー、俺ちょっとトイレに…」

「話すまでダメよ」


 動いたら殺されると思わせるほどの視線が、俺に刺さる。

 逃走経路であるテーブル脇をよく見ると、槙野の足が俺を通さないように配置してあった。

 それなら明希側を通ればいいかと思うだろうが、そっちは仕切り板があって道はない。

 そして、素早く移動しようにも槙野の通路側には全員の荷物が置いてあって難しい。

 これは完全に…。


「まあ、年貢の納め時だな。今回の香奈は本気だから、諦めろ」


 初めからわかっていたが、明希は槙野の味方らしい。


「観念なさい」


 急に、俺が悪人のような立場になっている。


 どうやら、完全に包囲されてしまったようだ。


「…わかりました」


 俺はため息を吐きながら、両手を挙げて降参したのだった。

次回更新は金曜日の20時頃を予定しています。


この更新と同時に以前お知らせした新作の方も更新していますので、よろしければそちらもよろしくお願いします。

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