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俺にラブコメを仕掛ける強襲型幼馴染  作者: 一葉司
第4章 それぞれの夏
43/111

期日と答え(1)

2月初めの更新です、今月もよろしくお願いします。


活動報告にも書きましたが、悠斗が生徒会に入った時期を中学2年と書いていましたが、1年の間違いでしたので、修正しました。

ストーリーに変化はありませんので、安心してもらえればと思います。

 7月最後の日曜日、雛ノ川祭り2日目。


 俺はまだ家にいた。―――正確には、俺と倖楓の2人で。


 時計を見ると、待ち合わせの時間から逆算したら家を出るのに丁度いい時間だったので、俺は倖楓に声をかける。


「そろそろ出ようか」

「うん」


 俺達は、玄関で靴を履いて外へ出た。


「お祭り、久しぶりだなぁ…」


 俺が玄関のドアのカギを閉めていると、倖楓が独り言のように呟いた。


 俺は反応していいのか迷ったが、倖楓に聞いてみることにする。


「どのくらいぶりなの?」

「んー、2年くらいかな」


 意外とすぐに返答が来たので、どうやら気にしなくても良かったらしい。


「そっか。じゃあ今日は楽しみだな」

「うん!」


 倖楓が心から楽しそうな笑顔を見せた。俺もつられて笑顔になってしまう。


 俺達は、2人並んで待ち合わせ場所に向かうのだった。




 待ち合わせ場所の駅前の時計台に着くと、人が引き寄せられているかのように時計台の周りに集まっていた。やはり夏祭りなどのイベントがある時は人の量が半端じゃない。現地で集合したのは今回が初めてだったので、失敗したかなと反省する。


 人混みの中から目当ての人物達を探すと、そこからこちらに近付いて来る3人の姿が目に入った。


 俺は、倖楓に見つけたことを伝える。


「サチ、いた」

「あ、ほんとだ!」


 俺がそう言うと、倖楓もすぐに目に入ったようで、3人に手を振った。


 お互いに歩み寄って5人が合流する。


 明希が苦笑いしながら、


「いやー、やっぱり人多いな」

「ごめん。多いとは思ってたけど、ここまでとは思わなかった」

「俺達も反対しなかったし、悠斗が気にすることないって」

「そうそう、水本は気にし過ぎ」

「そう言ってもらえると助かる」


 俺がそう言うのと同時に、茉梨奈さんが一歩前に出て手を広げた。


「そんなことよりも悠斗君?何か言うことがあるんじゃないかしら?」


 茉梨奈さんが、妖しく笑いながら尋ねてくる。


 気付いてはいたが、茉梨奈さんと槙野は浴衣を着ていた。茉梨奈さんは濃紺に花柄で、槙野は白と薄いピンクを基調とした花柄というチョイス。特に茉梨奈さんは黒髪と相まって、大和撫子感がものすごく出ている。正直、他に高校生でここまで和服が似合う人がいるのかと疑問を感じる。


「…えっと、流石は茉梨奈さんです。和服を着せたら右に出る女子高校生はいないと思います」

「まあ、悪くはないわ。75点」


 なんで感想を言った側が採点されるんだ…。


 納得いかずに茉梨奈さんを眺めていると、俺の腕が横からつつかれる。顔を向けると、倖楓が上目使いでこっちを見ていた。


「サチ、どうかした?」

「ゆーくん、私はどう?」


 なんか、すごい期待の眼差しを感じる。とは言っても倖楓は浴衣ではなく、Tシャツにロングスカートという至って普通の格好。べつに似合ってないというわけではないが、浴衣の後にコメントを求められても困ってしまう。


「あー、普通に似合ってると思うけど…」

「普通…」


 まずい、マイナスに捉えられたらしい。不機嫌そうになった。


 俺は話を変えて誤魔化す。


「そういえば、サチは浴衣にしなかったんだな」


 こういうのは誰か1人でも違うと浮くため、裏で合わせたりしてるのだと思っていた。


「うん。1人暮らしだから実家から持って来てなかったのと、着付けも大変だから。2人には、私のことは気にしないで着てって伝えたの」

「なるほど」


 倖楓の浴衣姿は小学生の時に見たことがあるが、今の倖楓の浴衣姿も見てみたい気がしたので、ちょっと残念に思う。


「さ、そろそろ行こう」


 明希が手を叩いて空気を切り変えた。たしかに、いつまでも立ち止まっているのも良くない。


「何かやりたいとかある?」


 とりあえず方針を決めないとだろうと思い、俺は4人に聞いてみた。


 すると、槙野が真っ先に反応してきた。


「あたし、まずは綿あめって決めてるの」


 いつになく真剣な顔。食に対して本気だ。


「じゃあ、綿あめ探して歩こうか」

「大丈夫よ、すぐ近くに綿あめの屋台があることはリサーチ済みなの」


 何でもない事のように槙野が言う。なんか怖い。


 中学の頃は、明希と槙野の2人に気を使って一緒に祭りに行くことは無かったので、初めてこんな槙野を見た。毎年こうなのだろうか。明希の顔を見ると、苦笑いされた。どうやら毎年らしい。


 とりあえず、俺としては反対することもないので、倖楓と茉梨奈さんにも聞いてみる。


「2人はどう?何かしたいとか食べたいとか」

「んー、私は行き当たりばったりでもいいよ!」

「私も特にはないわね。歩いて目についた屋台に寄ればいいんじゃない?」


 特に反対意見もなかったので、俺達はとりあえず綿あめを目指して歩き出すことにした。




「やっぱりこれよね!」


 槙野が嬉しそうに綿あめをちぎって食べている。とても満足そうな顔だ。


「久しぶりに綿あめ食べたけど、こんなにおいしかったっけ!」


 倖楓も同じように綿あめをちぎって食べている。


 俺達は3本の綿あめを5人で分けて食べていた。いや、正確には2本の綿あめを4人でだ。もちろん1本は槙野が独占している。だが、みんなわがままだとかそういうネガティブな想いは抱いていない。


 綿あめが無くなる頃、倖楓が俺の肩をトントンと叩いた。


「ねぇねぇ、あれやりたい!」

「ん?」


 倖楓の指す方向を見ると、そこはヨーヨー釣りの屋台だった。意外なチョイスに感じる。俺には倖楓がヨーヨー釣りを好きだったという記憶は無かった。


「水風船が欲しいの?」

「だって夏祭りっぽいでしょ?」

「んー、まあ?」


 そう言われれば夏祭り意外で見る機会は無い気がする。


「サチがヨーヨー釣りやりたいみたいなんだけど」

「いいんじゃないか?」

「あたしも異議なし」

「私もないわ」


 全会一致ということで屋台へ向かった。


 お金を払い、釣るための紐を貰う。挑戦するのは俺と倖楓のみ。残りの3人は見ているだけだ。取れても邪魔になるし、正しい選択だと思う。それなのに何故俺がやるのかと言うと、倖楓が「もちろんやるよね?」という目で見つめてきたからだ。


「なんか懐かしいな」


 思わず口に出たが、実際にヨーヨー釣りはとても久しぶりだった。夏祭り自体は久しぶりというわけでもないが、ヨーヨー釣りは毎回やるわけでもないし、小学生以来だと思う。


「見て見て!いっぱい取れた!」


 倖楓が隣で3つ同時に取れたことをアピールしてきた。相変わらず、子どもっぽいところがある。


 そう思った瞬間、3つ釣っている紐がちぎれた。


「「あ」」


 2人同時に声が出た。落下した水風船が空しく水しぶきを上げる。


「あー、お嬢ちゃん残念だったね!1個好きなの持って行っていいよ」

「…ありがとうございます」


 屋台のおじさんからの、よくある救済措置だ。倖楓は少し残念そうにピンクの水風船を選ぶ。


「ゆーくん!私の仇を討ってね!」


 ヨーヨー釣り如きにどんな期待をしているのやら。とはいえ、そう言われると気合が入ってしまうのだから俺も単純だ。


「よし」


 俺は釣り針に集中する。倖楓は3つだったので、俺は4つを目指す。


 水風船の輪ゴムの輪っかを1つずつ集めて4つの輪を確保する。そして、ゆっくり引き上げると、


 ―――持ち上がりもせずに紐が切れた。


「兄ちゃんも1個持って行っていいよ」


 屋台のおじさんがあっさり言う。


「…どうも」


 青の水風船を選んでから、隣の倖楓を見る。そこには必死で笑いを堪えている倖楓の顔があった。


「…何か言ってもらっていいですかね」

「ゆ、ゆーくん。…あははは!」


 何か言う前に、笑いが堪えられなくなったらしい。お腹を抱えて笑っている。


「そんなに笑わなくてもいいだろ…」

「だって、…ふふっ、『よし』って気合入れてたのに…。ふふふっ、あははは!」


 これはしばらく収まりそうにないな…。


 俺が諦めていると、後ろで見ていた茉梨奈さんが声をかけてきた。


「水風船1つでそこまで騒げるのは逆に羨ましいわね」

「騒いでるのはサチだけですけどね」

「あ!ゆーくんだって本気だったくせに!」

「俺はサチに付き合っただけだし」

「ほら、終わったなら次に行きましょ。槙野さん達も戻って来たし」


 そう言われれば明希と槙野がいなくなっていた。茉梨奈さんが見ている方を見ると、ベビーカステラの山を抱えて食べている槙野と付き合わされた明希が歩いてこっちに来ていた。相変わらずよく食べるなと感心してしまう。


「悠斗達も丁度、終わったみたいだな」

「うん、次行こう」


 戻ってきた明希達と、再び歩き出す。


 俺達は具体的な目的地を決めずにぶらぶら歩き回った。射的では、槙野の欲しいお菓子を、茉梨奈さんが百発百中の精度で次々と打ち落として、まるで仕事人のように見えたり、型抜きで誰が一番器用か競ったり、たくさん歩いた。ちなみに、槙野は途切れることなく屋台の食べ物を食べていた。


 屋台はそろそろいいかという話になり、俺達は祭り限定の特設ステージを見に行くことにした。


 特設ステージでは、地域団体や学生などがパフォーマンスをしている。たしか、うちの高校も吹奏楽部が出演していたはずだ。


 俺達がステージに着いた時は、丁度転換の時間だったらしく、観覧スペースに入ることが出来た。


 ダンスパフォーマンスやジャズバンドの演奏を聴き、今は和楽器の演奏が始まっていた。


 ふと横を見ると、茉梨奈さんが俯いている。どうしたのかと思うのと同時に、顔色が悪いことに気が付いた。


 とりあえず観覧の人混みから連れ出すべきだろうと考え、茉梨奈さんの肩を軽く叩いて、一緒に外側に出るように促す。すると、茉梨奈さんは俺の顔を見て小さく頷いた。


 茉梨奈さんの手を引いて人混みから抜け出し、すぐ近くの座れそうな段差を見つけて連れて行く。浴衣が汚れるだろうと思い、俺はハンカチを敷く。


「ここ座って下さい」

「…ええ」


 茉梨奈さんがゆっくり腰を下ろす。俺はすぐにペットボトルの水を買って来て手渡した。


「…ありがとう」

「いえ、気にしないでください」


 水をゆっくり飲んでから、茉梨奈さんが弱々しく笑う。


「やっぱり人混みは苦手ね…」

「俺も苦手ですから、大丈夫ですよ」


 一先ずちゃんと話せるようで安心した。すぐに倖楓達にメッセージで近くにはいることを伝えておいた。今やっているステージが終わったら、スマホを見て気が付いてくれるだろう。


 俺は、茉梨奈さんの横に座る。あまり話しかけない方が落ち着くだろうと思って黙っている。しかし、茉梨奈さんの方から俺に話しかけてきた。


「ねぇ、悠斗君」

「はい、何かいります?」

「そうじゃないの」


 俺はてっきり体調を戻すために必要な物があったのかと思ったが、違ったらしい。


「生徒会のことよ」


 茉梨奈さんの言葉に、俺は少し動揺する。


 ―――決して忘れていたわけではない、今日が期限だとわかっていた。だが、今その話をするとは考えてもいなかった。






 茉梨奈さんと初めて会ったのは、俺が中学1年の時だった。


 昼休みに廊下を歩いていたら、突然声をかけられた。


「あなた、1年3組の水本悠斗君よね」


 全然見たことない人から声をかけられて驚かないわけがない。


「…はい。そうですけど」

「あなた、生徒会に入らない?」


 声をかけられたのも突然だったのに、内容はもっと突拍子もなかった。


 初めて会った時から、本当に不思議な人だと思った。自分から勧誘をしているのに、どうでもよさそうな表情をしていた。


「えっと、すみません。お名前も聞いてもいいですか?」

「ああ、ごめんなさい。私は2年の橘茉梨奈です」

「橘先輩ですか、よろしくお願いします。でも、なぜ僕を勧誘してくれたんですか?」


 なるべく相手に不快感を与えないように意識をした返事だった。同級生を相手にするより、先輩なら敬語で話せるので意外と楽だ。―――しかし、そんな余裕はすぐに無くなる。


「私の前で愛想良くしなくていいわ。というか、やめてくれるかしら」

「―――っ」


 心臓を刺されたような感覚だった。その瞬間から、目の前の人の視線が恐ろしく感じる。


「そんなに警戒しないで。別にそのことはどうでもいいのよ」


 自分から指摘しておいて、そんな風に言うのかと、わけがわからなくなったのをよく覚えている。


「生徒会に誘った理由は単純よ。あなたが“面白そうだから”これに尽きるわ」

「…意味がわからないんですけど」


 俺の頭の中では、もう何もかも無茶苦茶なように感じていた。


 俺が頭を悩ませていると、通り過ぎる生徒や、近くにいる生徒から、やけに視線が集まっているのを感じた。一瞬、嫌な記憶が頭を過ったが、視線の先が俺ではなく目の前の人物であるとすぐにわかった。当時から茉梨奈さんは注目の的で、当時高校生だった姉ちゃんと比べても遜色ないくらい大人っぽく綺麗だった。


「それで、入ってくれるかしら?」


 当の本人は、それを全く気にしていないようだった。


「えっと、ありがたいとは思いますけど、遠慮しておきます。自分では足を引っ張ってしまうと思うので」


 俺の無難な断りを聞いた瞬間、茉梨奈さんの眉が少し動く。初めて表情が変わったところを見た。恐らくだが、俺の言い方とかじゃなく、断ったこと自体が気に障ったのだろうと後になって気付いた。


「…そう、残念だわ」

「ふぅ」


 俺は小さく息を吐いた。乗り切れたと思ったからだ。しかし、中1の俺も考えが甘かった。


「目撃者も多いと何をしていたのか聞いてくる()も多いでしょうね」


 当時から周りの人間を輩とか呼んでいるのが茉梨奈さんらしい。今はのんきにそう思えるが、この時の俺は内心不安でしかたなかった。この人の一言で最悪の状況になりかねないからだ。


 そして、その不安をさらに煽るのが茉梨奈さんだ。


「うっかり、後輩の男の子にフラれてしまったと口走ってしまうかもしれないわね」

「なっ!?」


 俺に対しての脅しとしては百点満点だった。とにかくこの場を乗り越えなければ、俺に未来はないと本気で思っていた。


「あ、あの!」

「なにかしら?」

「お話だけ聞かせてください…」

「そう?なら放課後、生徒会室に来てもらえるかしら?」

「…はい」


 ―――こうして俺と茉梨奈さんの関係は始まった。


 それからは、特別なことは何も起こらなかった。俺は生徒会に入ることになり、茉梨奈さんにこき使われる日々。その中で、呼び方を『茉梨奈さん』に強制されたり、俺に何があったのか話すことになったり、そんな事があった。


 ただ、生徒会に入って良かった点も多かった。同級生と接するのが面倒な時に生徒会を理由に出来たり、1人になりたいときに生徒会室を使わせてもらえたり、教師から信頼されやすかったり。―――ただ、何よりも一番大きかったのは、良き理解者を得られたこと。


 中学校生活で、明希や槙野という友人に恵まれたが、やっぱり心の内側全部を話せるわけじゃない。その点、茉梨奈さんは俺の内側を見抜くのが上手かった。俺が隠そうとしても、茉梨奈さんが言い当てて、結局喋らされるなんてことが多々あった。


 もしかしたら、茉梨奈さんがいなかったら、俺はどこかでパンクしていたかもしれない。俺は、知らない内に守られていたのだと思う。


 ―――でも、だからこそ、もう守られてばかりじゃダメだ。


 倖楓と再会して、俺の弱い部分をたくさん痛感した。俺が心のどこかで逃げていることも気付いている。


 だから、俺の答えは―――、






「すみません。やっぱり、生徒会には入れません。でも、ネガティブな理由じゃなくて、俺が先に進むために、今は1人で立たなきゃいけないと思うんです」


 俺がそう言うと、茉梨奈さんはゆっくり瞼を閉じる。


 少し長い沈黙。そして、茉梨奈さんが目を開く。


「…そう。それなら仕方ないわね」


 体調のせいもあるのか、いつもより残念そうに聞こえた。だから、ちゃんと思っていることを伝える。


「でも、茉梨奈さんにはお世話になりっぱなしです。1人の後輩…、いや、1人の友人として、手伝えることがあったらいつでも言ってください。力になります」


 しかし、茉梨奈さんは(うつむ)いてしまう。


「1人の友人、ね…」


 茉梨奈さんの口が動いたのは見えたが、何か言ったのか、口が動いただけなのか、わからなかった。


「茉梨奈さん?」


 俺は心配になって声をかける。




 ―――隣に座る俺の手に、茉梨奈さんが手を重ねた。




「ねぇ、もう1ついいかしら?」


 茉梨奈さんは顔を上げて、俺の目を真っ直ぐ見つめる。


 普段の興味がなさそうな表情ではなく、真剣な表情だった。


「…はい」


 その表情と目に射抜かれて、返事をするので精一杯だった。


「悠斗君」


 俺の名前を呼び、茉梨奈さんは優しく微笑む。


 そして―――――、




「好きよ」




ここまで来れました、という感想です。

こうして書きたかった所が1つ1つ形になると、ちゃんと終わりに向かって進んでいるんだなと実感します。

まだまだ大事なところは残っていますが…。


最近、1話書き終えても、これでいいのだろうかと思って書き直すことが多々あります。

そのせいか筆が遅くなりがちで、モチベーションの低下が悩みです。

でも、終わりまで書くことだけは絶対にやめたくないので頑張ります。


明日も同じ時間帯に更新予定ですので、よろしくお願いします。

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