2人の約束(1)
またパートが分かれてます。
今日中に更新するので楽しんでいただければと思います。
休日を挟んでゴールでウィーク前最後の登校日。今日は授業が無く、1日通して球技大会が行われることになっている。大会は学年ごとに枠が分かれていている。学年内で2つのリーグに分けられ、上位2チームを合わせた4チームで決勝トーナメントを行うという方式だ。
俺は今体育館にいて、自分の番が来るのを同じチームの明希と待っている。ちなみに種目はバスケを選択した。実は中学はバスケ部に所属していた。高校で続けていない時点で分かる通り、実力は大したことない。遊びじゃないバスケがプレー出来る程度だ。それでも学校の球技大会なら未経験者がどのチームにもいるし、足を引っ張ることはないだろうと考えて選んだ。
他のクラスの試合を見ていると、後ろから声がかかる。
「ちょっと水本」
槙野がいつもと違って心配そうな声をしていた。
「なに?」
「せっかく同じ体育館にいるんだから倖楓ちゃんと話して来なさいよ」
俺は結局、今日まで倖楓に何も言えずにいる。朝、倖楓とは別々に登校したことで槙野と明希にはすぐバレていた。幸いなことに倖楓と槙野の選んだ女子のバスケも同じ体育館だったので場所が離れて会えないということが無い。
「そうは言ってもさ、なかなかタイミングがつかめなくて…」
「あんた、普段ならそういうの得意でしょうが…。しっかりしなさいよ」
「たしかに悠斗らしくないけど、素で話せる相手だからこそなのかもな」
明希の言う通りだった。これがただのクラスメイトならすぐに辺り障りない言葉を用意して関係修復を図れるのだが、今回はそれが全く出来ずにいる。
「もう勢いでなんとかしなさい!流れを読めてなくてもごめんの一言から始めれば倖楓ちゃんも話してくれるわよ」
「俺もそれが良いと思うぞ、悠斗」
「…わかった」
「それじゃあ、チームの子と向かい側のギャラリーで見てるから行ってきなさい」
槙野に言われるまま上に上がってみる。クラスの女子が固まってるのが見えた。しかし、倖楓が見当たらなかったので女子に聞いてみる。
「ごめん、遊佐さんどこ行ったか知らない?」
「さっき飲み物買いに行ったんだけど、まだ戻ってないんだよね。そろそろ私達の試合始まりそうだから呼びに行くつもりだったんだ」
「そっか、それなら俺が呼んでくるよ」
「うん、それじゃあよろしく。あと、早く遊佐さんと元に戻ってね」
「あ、・・・うん」
同じクラスならわかるよなと当たり前のことを今更認識した。
会話を終えた俺は1番近い自動販売機の場所へ向かう。すると誰かの話し声が聞こえてきた。
「俺、遊佐さんと1回ちゃんと話してみたかったんだよねー」
「俺も!良かったら俺達と友達になろうよ!」
「いいね!あと連絡先も教えてよ!今スマホ持ってないの?」
「私もうすぐ試合あるんで」
「えー、いいじゃんちょっとだけさ!」
「ていうか応援してあげるから一緒に行こうよ」
「それいいね!」
自販機と男子3人に囲まれて動けなくなっている倖楓がそこにいた。
それが目に入った瞬間から、今まで頭でごちゃごちゃ考えてたことは全部飛んで、すぐに側へ駆け寄った。
「サチ、もう始まるから来てほしいってさ」
「ゆーくん!」
追いつめられて怖かったのだろう。泣きそうな顔をして倖楓が男子3人の壁の間を抜けて、俺の傍まで走ってきた。
「誰お前?今俺らが遊佐さんと話してたんだけど」
3人組の真ん中にいた男子がイラついたような声で話しかけてきた。ジャージに入ったラインが赤色だったので同じ1年生だとわかる。胸元には鈴木と書いてあった。
「同じクラスの人間だよ。もうすぐ試合始まるのに来ないって女子に言われたから呼びに来た」
感情を込めずに淡々と喋る。それがお気に召さなかったのか鈴木が睨みつけてきた。
「じゃあ俺たちが一緒に行ってあげるから、お前帰ってていいよ」
「誰かも知らないやつに任せるわけないだろ。ていうか見ず知らずの人間に上から目線で話しかけんなよ。教養無いの?」
「んだとぉ!」
今までの俺だったら絶対にしないような挑発をする。それくらい頭に血が上っていた。サチの顔を見た瞬間から脳がずっと脈を打っているみたいだ。
一触即発の空気の中、隣にいる倖楓が俺の手を握る。さっきまでの血の流れが嘘みたいに治まった。
「…ね、もう行こう?」
「そうだな、急いでるんだった。…それじゃあ」
俺がそう言って体育館に戻ろうとすると、倖楓が立ち止まって鈴木達の方へ体の向きを変える。
「私は、今後もあなた達と友達になる気も連絡先を交換する気もありません」
倖楓は自分の意思を伝えると改めて体育館に向けて歩き始めた。驚いて止まっていた俺が、逆に体育館に連れて行かれてる図になってしまっている。3人組の顔なんてもう頭から無くなっていた。
体育館の入り口が目の前に見えてきた。今は2人並んで歩いている。手はお互い握ったままだ。俺はなんだか離したらいけない気がして、握る手に力が入ってしまう。
「…ゆーくん」
「ん?」
「ありがとう」
「大したことしてないよ」
「…もうっ」
この会話で、俺は直感的にもう大丈夫だなと感じた。体育館に入ったと同時にどちらからともなく手を離す。
「…行くね」
「うん、頑張れ」
倖楓が走ってコートへ向かったのを見届けてから明希のいる場所へ戻った。
「おかえり、悠斗。なんとかなったみたいでよかったな」
「見てたのか」
「たぶん、ほとんどの奴が見てたんじゃないか?」
「…勘弁してくれ」
その後は俺も試合が始まったりして、改めて倖楓と話すタイミングがなかなか無かった。
俺たちのリーグはもう全試合が終わって、俺たちはリーグ2位で決勝トーナメントに進出した。俺の目の前では、もう1つのリーグの最後の試合が行われている。よく見るとさっきの3人組がコートに入っていて、試合表を見ると2組対7組の試合らしい。
「明希、あの茶髪の鈴木ってやつ知ってるか?」
「あー、7組の鈴木か。同じバスケ部だから知ってる」
「バスケ部なのか。上手いの?」
「上手いかな。1年の中でレギュラーを狙えるやつの1人だと思うぞ。ただ、プライドが高いところがあってな、部活内で敵も多い」
「なるほどね…」
少し会話をしただけでもプライドが高いのはよくわかった。面倒なのと揉めたなと俺はため息をつく。
「あいつと何かあったのか?」
俺がさすがにここまで聞けば察しがつくのも仕方ない。事情を説明することにした。
「なんだそれ、最悪だな」
「つい俺が挑発したから状況が最悪でさ」
「それはしょうがないだろ。悠斗が穏便に済ませられなかったんだから俺にも無理だよ」
そんな会話をしていると、観戦していた試合が終わった。勝ったのは7組でリーグは1位通過。俺たちの決勝トーナメントの初戦は7組が相手になった。
決勝トーナメントが始まるまで、少しのインターバルが出来たので倖楓と槙野の2人と合流していた。
「そっちは決勝トーナメントに上がったんでしょ?明希がいて経験者の水本がいるのも考えたら当然かもだけど」
「女子はダメだったらしいな。槙野がいるのに意外だ」
「私は真面目にやっても、本気ではやれないわよ。女子であんまり力を誇示するのはね…」
「なるほど、大変だな…」
「香菜ちゃんは悪くないよ。私が足を引っ張ったから」
「そんなことないよ、倖楓ちゃんも頑張ってたよ」
「遊佐さんはバスケ苦手なんだっけ」
「バスケっていうより、球技全般苦手なの」
「昔から運動神経悪いわけじゃないんだけどな」
「うん、ほんと自分でも不思議」
俺と倖楓は自然と話せるようになっていた。ずっと考え込んでた頭がすっきりして俺は晴れやかな気分だ。
『決勝トーナメント始めるぞー!1組と7組はAコート、4組と6組はBコートに集合』
球技大会のバスケを担当する教員の拡声器を使った呼びかけが体育館に響いた。
「悠斗、行くか」
「だな」
「明希、水本頑張ってね」
「2人とも頑張って」
俺と明希は他のクラスメイトと合流してAコートに向かう。
Aコートに着くと、7組がもう整列していた。列の真ん中に鈴木が立っていて、俺を見つけた途端に睨みつけてくる。
「おー、あれは相当キテるぞ悠斗」
「だな。すごくわかりやすい」
審判を務める教員の呼びかけで整列をする。鈴木の前には並ばずに最後尾にいると、わざわざ入れ替わって俺の前に鈴木が来た。
「さっきぶりだな?」
「誰でしたっけ?」
「ふざけていられるのも今の内だからな」
本当に現実にこんなやつがいるのかと一周回って感動しそうなくらいだ。
「これから1組対7組の試合を始めます。礼」
「「「「「お願いしまーす」」」」」
波乱が起きそうな試合が始まった。
次回、バスケします。
22時頃の更新になると思います。




