異世界86日目 6月25日(火) ④イリアさんの早とちり
「寿さん、申し開きはありますか?」
やめてえ~! そのお仕事口調! 怖い、怖いから!
またまた園長室で正座をさせられており、目の前に腕を組みながら大変ご立腹なルーミィがそれはもう雄々しく立っておられる。
「あ、あの。あれは子供特有のスキンシップみたいなものだから。ほ、ほら、よく子供は『パパと結婚する~』みたいな事を言うじゃない!?」
あ、テンパって普通に喋ってしまった……。
「人の胸をジロジロ見る、あまつさえ幼児趣味もおありのようですが如何ですか?」
言い方変えただけですよね? 胸の件は何も言えませんが、俺はロリコンでは無いですから!
「一切そのような事は無いです! 大切な園児達にそんな邪な心を持って接するなど微塵も無いから! む、胸の件は……すみません……」
ため息を一つ漏らし、腕を組むのをやめてルーミィは膝を抱えしゃがみ込み、目線を合わせてきた。
「まったく……特別に許してあげるけども、ちゃんとアメリアちゃんとソフィちゃんには説明してよ。後、サラちゃんにも手を出さない事、分かった!?」
だから最初から出さないって言ってるでしょう……しかし、なんとか口調も戻ってくれたので許してくれたようだ。園児達にはしっかりと伝えないと。
「それと……」
ひいい! ま、まだ何かご不満がございますのでしょうか? ご飯、ご飯ですね!? 分かりました! 今日はフルコースを用意させていただきますので!
「自分の命は大切にする事! でも……守ってくれてありがとう。そして、頼ってくれて嬉しかった……」
――何ですか、その下げて上げる超高等テクは? おっさんドキっとしちゃうじゃないですか。
「い、いえ。あの時は私も必死でしたので」
「……言葉使い戻ってるよ? 最初は普通に喋っていたのに」
ちょっと残念な表情も交えながらくすくすと笑っている。なんだろう、とっても癒される。確かにあの時はなんとかしないといけないと思ったのだが、一番最初に脳裏に浮かんだのは牧場の人達でも無く、園児達でも無く、ルーミィだった……これは内緒にしておこう。こんなセリフを吐こうものなら恥ずかしくて死んでしまう。
「いろいろと申し訳ありません。お詫びに今日はご馳走を用意致します。さあ、買い物に出かけましょう」
「ご馳走!? 行く行く! っと!?」
急に立ち上がろうとしてバランスを崩したのだろう。ルーミィはそのまま床に座り込んでしまった。
「大丈夫で……」
あ、パンツ見えた。ルーミィも自分のめくれ上がったスカートに気付いて瞬時にスカートで隠し……。
「きゃああ!! 和也のえっちぃ!!」
ながら鉄拳が飛んで来た。さすが理不尽の神……。
「カ、カズヤ。そ、そんな……」
雑貨店の店先で力無くへたり込んでしまったのは超セクシーなお姉さん、イリアさんだ。一体どうしたのだろうか?
「ル、ルーミィから、なのか!?」
一体何が? 意味が良く分からないんですが。確かに先ほど世界を取れそうなぐらいの右ストレートはいただきましたが。その事?
「ま、まあ。ルーミィからいいものは貰いましたが」
渾身のやつをね、鼻血出たし……あ、服に付いてる。洗濯しなきゃ。
「い、いつだ……」
「え? えっと、今しがたですが」
イリアさんはその答えに更に力無く項垂れた。なんで? どうして? イリアさんも俺を叩きたかったの? やめて、イリアさんが叩くと俺、死ぬ。
「カズ……ヤ……あたしも……」
いや、だからイリアさんの拳だと死にますって! ドSですか? 俺はMじゃ無いし、ついでにロリコンでもないから! ってなんか話が食い違っているような気が。
ルーミィの方を見るが、同じく困惑している様子であり、かける言葉が見つからないようだ。
「イリアさん? 何か誤解してます?」
とりあえず声をかけてみたが生気を失った目をしている。一体彼女は何を考えているんだ?
「誤解も何も……その首に付いたキスマークと……血……そういう事だろ……」
キスマーク? あの愛し合う二人でのみ許される伝説の行為、それを達成した者が得られる証の事でしょうか?
そんなもの俺の中では都市伝説であり、実現なんて宝くじが当たる確率よりも低い……あ、アメリアとソフィが吸ったわ。あとこの血は鼻血なんです。
ルーミィも気付いたようだ。えっと……ちゃんと説明しておこう……。
「なんだ、そういう事か。あたしはてっきり……」
「わ、私はそ、そ、そんな事は、し、し、しませんし、してません!」
さあ、食材、食材っと。
「でもあの園児二人から番の約束とは……ちょっと厄介だな……」
俺はロリコンじゃないですよ。あ、調味料買っておこう。
「よし! じゃあ、あたしも付けてやろう! つ、番の約束として……」
「な、何言ってるんですか!? 絶対ダメです!」
付けないで下さい。おっ、この果実使えそうだな。
なんかまだ二人で言い合っているようだがそっとしておこう。直接詰め寄られたら身動きなど取れないが距離があれば問題無い。元の世界で培ったスルースキルがここで活きようとは。
「はぁ~、美味しかった!」
ルーミィから本日の夕食のご感想をいただいた。そうでしょう、そうでしょう。今夜は特別にステーキを用意しましたからね。しかもお肉のシューシーさを増すために果実の酵素を使用するなど手も込めましたからね。柔らかかったでしょう?
「さて、明日からサラちゃんが来ますので忙しくなりますよ。後、週末に向けて私はしばらくスライムアイスクリームを作っていきますので」
園の仕事ももちろんだが、スライムアイスクリームも売り出すにあたり、在庫を作っておかないといけない。まあ、料理は苦にはならないけどね。
「あのアイス……美味しかったなあ……」
明らかに狙っている目だ。週末の露店で売る分、残るだろうか……。




