第四十八話 文化祭
「つくし。お前が好きだ。付き合ってくれ。」
体育館に俺の告白が響き渡る。
今は、舞台の上で風凪を抱えながらお互いに見つめ合っている。
風凪の顔は赤くなって、目には少しばかり涙が浮かんでいる。
「...はい!喜んで!」
涙を流しながら風凪は答えた。
暗い体育館で見つめ合う俺と風凪。
正直恥ずかしい、俺から告白することになるなんて俺自身思ってなかったからだ。
今すぐにでも逃げ出したい感情を抑えて風凪と見つめ合うと、
「カットーーー!」
そんな大声が体育館に響く。
「花形、暗い。もう少し感情を込めて言いなさいよ。」
「風凪さんはバッチリ!凄い演技力だよ!」
そう、今は文化祭で披露する劇の練習中。
そして、こうなったきっかけは少し時を遡る必要がある。
☆
「修学旅行から帰ってきたばかりだけど、文化祭があるからなにやるか決めるよ。」
クラス委員である優が壇上に立って指揮を執る。
修学旅行から帰って来てまだ1週間しか経ってないのに脅威の行動力だ。
文化祭なんて単なる子供騙しだ。楽しい奴は楽しいが詰まんない奴はとことん詰まんない。
今年も、空き教室で時間をつぶすことになると思う。
「じゃあ、なにがしたいか順番に言ってて。」
「はい!メイド喫茶!」
優は「カフェ」と黒板に書き込む。メイドの部分はスルーである
目の前の龍平が答えると女子からの大ブーイング。
「はあ?そんなにメイド姿が見たいの?」
「変態」
「鈴木、さいてー」
「なんで俺だけなんだよ!」
そりゃ、お前が発案者だからだ。
「他になにかあるかな?」
「演劇は?」
「部活動に貸し出し。」
「休憩所。」
と、さまざまな案が出ていって最終的に黒板の半分が埋まった。
「じゅあ、このなかから決めようか。」
「青君、なにか不満ある?」
「不満はないが疑問はある。」
「なに?」
「まず、カフェをやるにも料理が出来ないと話にならないぞ。冷凍食品をだすなら別だが。あと、演劇の脚本。書ける奴がいるかが問題だ。」
どれも、出来ることが前提で進めてるからもし誰も出来ないってなった時に面倒ごとになるのはわかり切っている。
優が聞いた結果、優含め料理出来る奴は5人。
少し、人数的には欲しいところだが妥協ってとこか。
演劇も小説家を目指している女子生徒、伊波春香がいたため脚本は問題ないという。
「なら、問題はない。あとはご自由にどうぞ。」
「じゃあ、カフェか演劇でいい?」
「だったらカフェだろ。演劇はメンドクサイし。」
「台詞とか覚えられる気がしない。」
「ちなみに聞くけど、伊波さん。大まかな脚本とか配役ってもう決まってたりする?」
「えっと、一つの案として出てるのが『冒険者と一人の街娘の恋物語』で配役が主人公を花形君にお願いしたいなって。」
「あ?なんで俺なんだよ。」
「えっと...あの...その...」
「青君、伊波さんが怖がってるからやめてあげて。」
「だって、俺が主人公とかふざけたこというから。」
「脚本家に配役とかまかせるって話になったでしょ。」
そうだけど...。
主人公って一番台詞が多くて出番も多いじゃん。
小学校の時だって学芸会で木の役しかやったことない俺に主人公の台詞量が覚えられるとは思わない。
「たしかに青君、ずっと黙って立ってただけだもんね。」
「アハハ!青砥が木の役!アハハ!ふべっ!」
前で笑いこげる龍平に一発いれ前に向きなおる。
「それで、ヒロインは風凪さんにやって貰いたいなって。」
「え?私?私でいいの?」
「ごめんなさい、ヒロインが地味目な感じだから。」
「あ、ううん。大丈夫。私でよければ。」
流石小説家志望。脚本を任されてからこの一瞬で物語の概要が出来つつある。
このままだと本当に主人公役をやるはめになる。
いあ、まだ演劇をやると決まったわけじゃない。
焦るのは早い。
「私、花形の演技とか見てみたい。」
「あ、それ私も思った。」
「普段、ぶっきら棒な花形の笑顔とかよさそうじゃない?」
「「「ありだな。」」」
いや、なしだろ!なんでこういう時だけ意見が揃うんだよ!
「じゃあ、多数決で決めるね。」
そして、決まったのが演劇。
カフェ1 演劇29という俺以外全員が演劇というクソ展開。
「お前ら、自分が出ないからって楽しようとしやがって。」
「普段から授業でないから。そのバチだな。」
あとで、龍平にはサンドバッグになってもらおう。
という経緯があって今に至る。
ホントクソ。俺に覚えられるわけはないんだ。
しかも、さっきのシーン。
「──。お前が好きだ。」(爆発した気持ちを抑え込んで。)
というように意味が分からない指示が書いてある。
爆発したらもう手遅れだろ。
「爆発した気持ちを抑え込んでってどういう意味だよ。意味不明すぎる。」
「それは...ほら。アレだよ。こうバン!て爆発しそうなものをぎゅーっている感じ。」
最近の高校生ってどいつもこいつもこうなのだろうか。
語彙力が優並すぎて余計に分からない。
監督は父親が映画監督の南城君華だ。
脚本家である伊波の支持を俺達に飛ばすのと個人的なものを伊波と相談して役者に伝えるポジション。
「なにが言いたいのか全くわからない。」
「あーもう!感受性がないわね!」
えー今の俺が悪いの?今の語彙力で書いてあった指示が分かるやつがいたら出てこい、通訳してくれ。
「だったら、花形、風凪さんに抱き着いて!」
「え、ちょ、南城さん?どうして急に。」
「そこの鈍感男に文句は言って。」
「花形君!」
「えー俺が悪いのかよ。」
「いいから抱き着く!」
風凪と一度目を合わせて目線でごめんと謝っておく。
俺は南城の指示通りにそっと風凪を抱きしめた。
「もっと強く抱きしめて。風凪さんは拘束を解こうとして。」
俺が強く抱きしめると風凪はそれを押し返そうとする。
「分かった?こんな感じの感覚。」
「まあ、だいたい。」
しかし、これを感情として出せと言われると難易度が変わってくるんだが...まあ、それを言ったところで「うるさい」って言われて一蹴されるだけだしな。
黙って従うか。
俺達がやる物語は最初に伊波が言った、「異世界冒険ファンタジー」だ。
ただ、その過程で恋愛を入れるという。
主人公は孤独な剣士。とある街に着くといきなり少女から助けてと言われる。
モンスターがこっちに向かってるから倒してほしいという。
そのモンスターが主人公の目的のものと被ったためこれを討伐。
主人公の優しさ、強さに惚れた少女が主人公に猛アタック。
それからは、なんだかんだで一緒にいて主人公も恋に気づき始めるという、少女漫画なんかによくある展開だそうだ。
少女漫画を読まない俺からすればさっぱりなんだが。
読んだことのある女子達はなんか納得した様子だった。
他にも、盗賊が出てきたりモンスターの役、主人公の過去を知る人物だったりと役者は結構多い。
そのため、クラスの半分は演劇に回ることになった。
あとの半分は教室で普通のカフェをするそうだ。そう、普通のカフェを。
演劇は今のところシーン分けして練習してるからそのシーンの台詞を覚えればいいだけだが今までの台詞を全部覚えるとなるとキツイ。
ま、風凪が相手ならそんなに緊張もしないし風凪さえよければいつでも練習できる。
それだけが唯一の救いだった。




