第四十七話 修学旅行ー終
俺が風呂から出ると優がベットの上で身悶えていた。
「なにしてんの?」
「えっと、これから青君と2人きりの部屋で寝るとなると興奮しちゃって。」
俺は無意識に半歩後ろに下がった。
「じょ、冗談だよ!そんなあからさまに引かないでよ。」
「いや、発言が変態そのものだったから。」
「でも、嬉しいのは事実だもん。」
「だったら、言い方ってもんがあるだろ。」
「現文2しか取ったことないもん。」
なるほど、語彙力がないのか。
だからって、興奮するわないだろ。
「文字に起こしたら俺が言う立場の言葉だな。」
「青君、そんなこと言わないもんねー。」
「変態は龍平だけで充分だ。」
俺は再び襲ってきた眠気を何とか抑え込んでソファーに寝っ転がる。
「明日、8時の船で出るから寝坊すんなよ。」
「うん。...分かった。」
「優?」
優の返事は少し揺らいで聞こえた。
その理由は優を見れば直ぐにわかった。
「あれ?おかしいな。悲しくなんかないのに。涙が...」
アレが出たか。
優は普段、マイナスな感情を表に出すことは少ない。
相手がどんなに不安だろうと優はそれを吹き飛ばす位の元気さがある。
だから、たまにこうして怖いとか不安とかのマイナスの感情が涙になって出てくる。
昔からの癖のようなもんだった。
本人は全くの無意識でマイナスな感情を溜め込んで溢れさせる。
周りも無理してるかどうかは、こうなってみないと分からない状況。
今回は未知の土地に俺と優の2人だけ残された。
優は俺の何倍も不安になったことだろう。
「まったく、昔から言ってるだろ。無理はするなって。」
「無理なんか...してないもん。」
「じゃあ、なんで泣いてる?」
「泣いてないもん。ただ、涙が出るだけだもん!」
と言いつつ優は俺の服を掴んで胸に顔を埋めて嗚咽を繰り返す。
優がこうして溢れさせた時には決まって俺はそばにいた。
そもそも、優は俺以外の人の前で泣いたりはしないという。
優の母親ですら見たことがないというのだからそうなんだろうな。
「青君...一緒に寝て。」
「強制かよ。」
「うん。強制。」
俺は優と並ぶようにしてベットに入った。
これも昔から。
いい加減、高校生になったんだから。1人で寝てほしいもんだが…それを断れない自分がいるのも確かだ。
「治まったか?」
「だいぶ...けど、まだ怖い。」
「怖い?なにが怖い?」
「1人は怖い。」
ここ数年、優の口からマイナスなことを聞くことはなかったが今日は一体どうしたと言うのだろうか。
「1人は気楽でいいぞ。なにをするんでも自分のタイミングでできるし人に迷惑さえかけなければ何しても怒られないんだから。」
「ううん。そうじゃないの。」
俺なりに一人のよさを語ってみたが優が言いたいのはそういうことじゃないらしい。
「私と青君は小さい時からずっと一緒だったでしょ?」
「まあ、そうだな。」
「私はなにか困ったら直ぐに青君に頼っちゃう。それくらい昔から青君はなんでも出来た。だから、青君がいなくなって私1人になったら。私はなにも出来なくなって消えちゃうんじゃないかってそんな感じがした。」
優はほんとに小さい声で己が心中を語った。
今まで溜め込んできたものを吐き出すように。
「その点、青君はほんとにすごいと思うよ。青君に助けられたのは私だけじゃない。つくしちゃんだってそう。」
「理事長先生はなんで青君に推薦状を描いたか知ってる?」
「いや、聞かされてないな。」
「私は聞いたんだ。『青は無意識な人助けが出来るんだ。学校というシステムがある以上、カーストがあるのも事実。それについてくるのがイジメだ。青はどこにも属さない、イジメを止める立場としては非常にいい立場だ。まあ、理由を上げればきりがないがどうか今ので理解をしてもらえると嬉しいかな。』って言って青君に推薦状を描いたんだって。」
初耳だ。
どうせ、都合イイ駒が欲しいんだとばかり思っていたが。
優の顔が目の前まで迫る。
どちらかが顔を少し前に出せばキス出来てしまうそれくらいの距離。
「このおでこの傷だって、私のせいでついたものでしょ?私がドジだから。」
「私からして青君はヒーローなんだよ。」
「普段はそんなことなさそうだけどいざとなったら誰かを助けたり、守ったりしてる。この傷は人助けの証なんだよ。」
「それは...」
「偶然とか、たまたまとかそういうのでは片付けられないよ?」
俺が言おうとした言葉を優は先回りして言う。
「小さい頃から一緒なら分かるよ。青君がなにをしてきてどんな成功をしてどんな失敗をしてるか。」
「青君が必死に動いて大変な思いをしてる時に私は応援しか出来ないんだよ?どれだけ自分が無力か分かっよ。」
「だからね。青君。なんも出来ない私だけどこれからも私のヒーローでいてね?」
目尻に涙を浮かべた女の子の笑顔ほど強力なものはないと思う。
「俺はヒーローになりたいわけじゃない。」
しばらく無言が続いて、俺はそうポツリと呟いた。
しかし、俺の胸辺りからは可愛いらしい寝息が聞こえるばかりだった。
まあ、優も眠いよな。
俺と寝てる時間はそうたいして分からないんだから。
しかし、優の心はやっぱりなにを考えてるのか分からい。
さっきも俺をいきなりヒーローとか言ってきたし俺の行いを褒めていた。
謙遜でも遠慮でもなく、俺がやってるのはお節介の延長だ。
親、教師が使えないとなった時に使う手入れのされていない刀。
1回使えば壊れて2度と使えなくなる。
優みたく、上手く扱えるようになれば何回も使えるが初見で使い方を知ってるやつはいない。
風凪の場合、壊れたあと自分で修理してまた使えるようにした。
1度は使い方を誤ったが2度目は間違わなった。
俺とはそんな存在だ。
だから、面倒臭い存在である。
ヒーロー?そんな大そうなもんじゃない。
例え過去に何人救ってようが関係ない。
俺は俺自身の言動が嫌いだ。
見切り発車で突っ込んむ。暴走車。
それが俺だ。今日の優といい勝負だ。
でもまあ、俺が最初に言ったヒーローの定義にのっとって優の好きにさせるとしよう。
『ヒーローとは自分からなるのではなく、人の評価によって決まる。』と。
優が寝てしまったため俺はソファで寝ようとした。
しかし、優に服をガッチリつかまれてベットから出ることすらできない。
「なんつう馬鹿力だ。」
しばらく戦ったが余計に拘束されるだけだったから諦めた。
大人しく優の隣で俺は眠りについた。
朝、体が重い感覚に襲われて目が覚めた。
体の疲れが取れてないだけだろうがこれはキツイ。
と、思ったが体が重いのは物理的な重さが加わっているからだった。
顔を動かそうとすると、むにゅという感覚が顔中に伝わる。
「?なんだこれ。」
「ひゃん!な、なに!」
俺がその柔らかいものを掴むと上に乗っかていた優が飛び起きた。
「青君!今、胸揉んだでしょ!」
「お前が朝っぱらから人の上に乗っかてるのが悪い。」
「だからって、揉まなくても。」
「噛めばよかったか?」
「ど、どどどこを噛むっていうのかな!」
「さあな。」
意味深な笑顔で答えてやる。
怒れる元気があるなら結構。充分元気になったみたいだしな。
朝からごたごたしたが8時の船に乗って皆がいる島に向かった。
「優奈ちゃん!もう、心配したんだからね!」
「ごめんねー!人の波に流されたって。」
風凪が泣きながら優に抱き着く。
百合好きにはうれしい光景だろうな。
「花形。すまないな、倉宮のことを任せっぱなしにしてしまった。」
「優の扱いなら慣れてるからそんなに負担にはならなかった。」
「そうか、そういってもらえると助かる。」
清水に報告して皆と合流。
島に着いて直ぐだがまた昼から船に乗って本島に戻ることになっている。
忙しいったらない。
こうして、二度と経験したくない修学旅行が終わった。
感想を言うなら、めっちゃ疲れたという感想になる。




