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第十九話 独占欲?

風凪のことが気になるが、涼姉に呼ばれたため、俺は体育祭の本部に向かっていた。


本部に着くと、数人の生徒が野次馬をつくっていた。

それをかき分けて中に入ると一人の生徒が担架に横たわっていた。


「青砥、来たね。」

「何事。」

「熱中症よ。彼女は軽いものだけど他にも2名ほど倒れたって連絡が入ってる。」

「なにすれば?」


「担架が足りないから、青砥は生徒を保健室まで運んで。」

「担架がないのにどうすれば...なるほど」

「そういうこと。」


担架がない。

ということは、病人を運ぶことができない。

しかし、別に人を運ぶのであれば担架はいらない。


普通に抱きかかえればいい。

実行委員には男子生徒が少ない。

だから、俺が招集されたわけだ。


本部で寝ている生徒の首後ろと膝の後ろに腕を回して持ち上げる。

女子生徒だけあって軽い。


女子生徒の頬は上気して赤い、体全身に力が入らないのかぐったりとしている。


3名の生徒を保健室に運ぶ。

保健室には臨時でベットが用意されていた。


「おーお疲れさん。」

「あんたも手伝えよ。」

「男手があるんだそれを使えばいいだろ。」

「動かされるこっちの身にもなれ。」

「若いうちに働け。」


この保険医の鳴川はどうしてここの面接に受かったのだろうかというほどに適当な人だ。

まさか、理事長は自分の好みで選んでるわけじゃないよな?


「で、その後の頭はどうだね。」

「特に問題はない。」


涼姉と階段から落ちた時に頭を打ったらしい俺はしばらくは頭痛に悩まされたが今はもう問題なく生活している。


「一応は精密検査を受けた方がいいとは思うけどね。」

「めんどい」

「そういうと思って言わなかったよ。」

「俺、実行委員の仕事あるから。」


俺が保健室から出ようとすると、一つ注意事項を言われた。


「生徒会長をよく見ていてくれ。あの子は無理していても周りには見せないタイプだから。また、倒れるかもしれないぞ。」

「分かった。」


んなこと言われてもな、涼姉は頻繁に動いてるからまずどこにいるかを探さなきゃいけない。

基本は本部で待機してるけどなにか不備だったり小さなトラブルがあると行ってしまう。


見つけるのが大変なんだ。


と思っていたら加奈先輩といる会長を発見。

探す手間が省けた。


「お。青。お疲れ。」

「最近の女子生徒は軽いんでそんなに負担にはならなかったですよ。」

「そうか?それでも50キロはあると思うが?あいた!」

「加奈はもう少しデリカシーというのを持ちなさい!」


まあ、女子生徒の体重をペラペラと喋るもんじゃないよな。

涼姉と話した結果、まだ大丈夫だそうだった。


加奈先輩にアイコンタクトしても少し首を横に振った。


空き教室に戻ろうと思ったがすぐに障害物競争が始まるから観客席に戻ることにした。


「お、ちゃんとさぼらず来たな。」

「さぼったら優に怒られるのは目に見えてる。」


目に見えてるものに引っかかるほど馬鹿じゃない。

優の怒りには俺はかなわないからな。


「障害物競争のに出る生徒は招集場所に来て下さい。」


招集のアナウンスが流れたので招集場所に向かう。


障害物競走は跳び箱だとか、縄だとか置いてあるからそれを潜ったり飛び越えたりするというシンプルだが一番疲れる競技。

運動にそこまで、自信がない俺からすれば割と苦行。


そして、例によって俺は最終組。

この学校強豪校でもないのに運動神経いい奴が集まりすぎてるから嫌になる。

50mを走ったせいでまだ足は動かしにくい。


憂鬱だ。


「お前、花形だよな?」

「ああ、そうだが?」


招集場所で待ちぼうけしていると隣のレーンの奴が話しかけてきた。


「50m走速かったな。」

「そりゃ、どうも。」

「陸上部と勝負するなんて無謀もいいとこなのに。」


あいつらが勝手に勝負してただけだぞ?

俺が言ったわけでもないし、杏奈の焚き付けが効きすぎた結果だ。


「俺とも勝負しようぜ。」

「めんどい。」

「頼むって。運動神経いいお前に勝手好きな子にいいとこ見せたいんだよ。」

「勝手にやってろ。俺は勝ち負けなんかに興味ない。」


ホントはサボりたいとこなんだから。


「よし、勝手に勝負させてもらうわ。あーけど、話を合わせるぐらいはしてくれよ?」

「はいはい。」


勝負はしないが話を合わせることくらいは出来る。


いよいよ、障害物競争が始まってグラウンド全体が騒がしくなる。

その理由が、高校生が飛び越えるにしては高い跳び箱にどこから用意したのか分からないローション床。


「あんなの聞いてないぞ。」

雑務全般の仕事をしていた俺すら知らないものばかりだ。


跳び箱は最低でも8段っていってたし、ローションの床なんてものはリストになかった。

あのババア(叔母)面白いからって追加しやがったな。


去年までは普通の障害物だったのに今年になってしかも、競技開始まで知らされなかった生徒はローションの床で滑ってローションまみれになり、跳び箱で閊える。


競技としてなりたっているのか心配である。


「おー面白い事になってんな。」

「ただの地獄絵図だろ。」


男のローションまみれとか需要がない。

後の女子達がかわいそうだ。


「ちょっと花形。こんなの聞いてないわよ。」

「跳び箱はいいけどローションはダメでしょ。」


「俺に言うな。俺だって今知った。リストにローションなんかあったらさすがに気づくわ。」


後ろからの抗議が凄い。

まあ。ローションのとこで転ばなきゃいい話なんだよな。


『それでは、男子最終組がスタートします。この組には50m走で陸上部を破った花形君が出場します。どんな活躍をするのか楽しみです。』


「放送にまで読まれるとか結構なご身分だな。」

「俺に食いつくな。」


「位置について、よーいドン!」


ピストルの音と共に飛び出した俺はまず最初の障害、平均台のとこまできた。


平均台はどこにでもあるオーソドックスなものだから説明はいらないか。


次は2mくらいの壁が立ちはだかる。


さっきの組までは壁にロープが垂らしてあったが今はない。

最終組だから盛り上げようってか。


仕方ないからよじ登る。

助走をつければもっと楽なんだろうな。


そして、問題の跳び箱。

ほんと、SASUKEに出てきそうなほど高い。

どこにあったんだこんなもん。


普通に飛び越すのじゃ多分引っかかる。

出来るかどうかわからないけどアレをやるしかないのか?


中学生の時に見たアニメに崖を飛び越えるのに飛んでその崖の上で前転して向こうがわに行くというものを見たことがある。


アニメの中のものだしまず、人間に出来るかどうかすら怪しい。

俺以外にもどうやって超すか悩んでいるようだった。


「これ、無理じゃね?」

「いや、イケるだろ。」


さっきの奴に適当に返して、俺は助走をつけ踏切板を思いっきり踏んだ。


『おーっと、花形選手が跳び箱を飛び越そうとしている!12段ある跳び箱を越そうとしています!』


踏切り板を踏んで一気に上がって跳び箱の上で前転、そのままきれいに着地...は出来なくて少しこけたが飛び越すことはできた。


『花形選手、な、なんと12段を飛び越したー!』

実況に歓声が上がる。


『見事!お見事です!ほかの選手も頑張ってください!』


「負けてられるか!」


アイツも勢いをつけてジャンプするが...。


「あぎゃぁぁぁぁああああああ!」

上の方でものすごい叫び声が聞こえた。


大方、飛び越そうとしたけど勢いが足りなくて失速。

男の大事なとこを強打したんだろう。


『凄い声が聞こえましたが清水選手大丈夫でしょうか?』


ありゃ、痛いわ。

今も動けなくて蹲ってるだろ。


俺はゴールするとしよう。


アイツが馬鹿やってる間にもローションの対処法が分かった。


汚れてもいい奴はそのままスライディングでもすればいい。

嫌な奴は上の金属を使えばいい。


まあ、その金属にもローションがたっぷり塗ってあるからめちゃ滑るけど。


『花形選手、最後の障害です!理事長先生がこの日のために用意した障害、『ローション池』ひとたび落ちればネバネバのヌルヌルです!』


意気揚々と実況するのはいいけどこっちは割とキツイって。

ローションてのは思ってる以上に滑る。

さっきも言ったが男のローションまみれに需要はない。


がしかし、現実は俺には味方しなかった。

次の場所を掴もうとしたらそこだけ多く垂らしてあって、つかみ損ねた。


俺の体はそのままローションにダイブ。

見事、ローションまみれになった。


『花形選手、ローション池にダイブしたー!ローション池には花形選手の運動神経を以てしても突破は不可能のようです!』


「クソが。」

ローションの中から抜け出してよろよろとゴールに向かう。

俺のレーンの他の連中はローションで苦しんでいる。


『花形選手、飛び箱は見事でしたが最後惜しかったですね。』

「この競技を考案した奴は滅びればいいと思うぞ。」


障害物競争の女子の部が始まったがこれは見る価値はあったらしい。

後で、龍平が滅茶苦茶興奮して話してたから多分そう。


替えの着替えをもらって観客席に戻る。


「青君、カッコよかったよ!あの跳び箱を飛び越したやつとか特に!」

「最後ローションで落ちたけどな。」


「それでもカッコイイよ。」


優にこうして褒められたりするんだったら次も出てもいいかもしれないと思ってしまう。

可愛い幼馴染に褒めてもらえる。

大抵の男子は羨ましがる。

今日ばかりは頑張ったから許してほしい。


午前の部が全て終わって昼。

昼はいつもどおり、空き教室で食べた。


俺と優と風凪と杏奈と龍平で。

賑やかになった教室はほんとにお祭り状態だった。

特に、龍平が騒いでうるさかったから一発腹に入れた。


昼が終わって午後の部が始まった。


綱引きから始まり風凪が出る借り物競争が始まった。


出されるお題は簡単なものばかり。

お題を考えるのが生徒会の女子達だから女子が持ってるようなのが多かった。


制汗剤、ヘアゴム、リストバンドとこんなふうに。

ただ、中には難問も入れてあると言っていた。


涼姉は少し渋った様子だったが説得されてるうちに了承したらしい。

涼姉が渋る内容のものは限られる。


・学校の風紀を乱すようなもの。

・生徒がやるには危険なもの。

・イジメに繋がるもの。

・この学校にあってはならないもの。


大体この当たりだ。

最後の学校にあってはならないもの。ってのは、大麻とか違法性があったりエロ本とかの不要なものってこと。

上の4項目のうち、どれが引っかかったのかは実際に出てみないと分からない。


さて、次は風凪の番だ。


風凪はそんなに運動神経はいい方ではない。

だから、取るカードも最後になる。


全員が紙を取って開く。


メガネと叫ぶ生徒もいればキャラクターのストラップと叫ぶ生徒もいる。

だが、風凪は借り物を探すどころか身動きひとつ取っていない。


「つくしちゃん。どうしたんだろ。」

「この学校にないものなんじゃね?」

「んなわけあるか。生徒会長のチェックが入るんだ学校にないものは借り物競争には出ない。」

「じゃなんで?」


多分、風凪が引いたのが涼姉が渋ったカードなんだと思う。

俺も内容までは知らないが色々と面倒臭いのは確かだ。


しばらく立ち尽くしたあと風凪は一直線に俺達のとこに来た。


「私たちになにか借り物?」

「う、うん。そうなんだ。いいかな、花形君。」


まさかの人間が借り物とは。

どんなお題なんだ?


借り物競争のルールとして人にカードを見せてはいけない。

その為、叫ぶ時もメガネ!とかストラップ!とかじゃないと失格になる。

だから、俺も風凪に出されたお題を見ることが出来ない。


『風凪選手、1着ゴールです!』


実況のアナウンスと共に歓声にも似たザワメキが起こる。


「風凪、なんてお題だったんだ?」

「んん。」


風凪は顔を隠して首を横に振る。

(言いたくないか。)


なら、深くは追求しない。

知らぬが仏、という言葉がある。

今はそれに従おう。


借り物競争が終わって次は俺が出る、学年選抜だ。


招集されスタート位置まで誘導される。

学年選抜は1〜3学年で競い合う学年競技だ。


1人がトラックを1周する競技。

俺は最後から2番目。


1人目がスタートするほんの少し前。

トラックの真ん中で3年と思しき人がチアガール姿でホイッスルを吹いた。


「集合!」


その掛け声で20人弱の女子生徒が集まった。

見覚えのない顔を見ると多分全学年いる。


その中には、優や風凪、杏奈の姿もあった。


「おおおぉぉぉぉ!」

「かわいい!」

「女神だー!」


第1走者達の士気はどんどん上がっていく。


「学年選抜のみんなにエールを!」

最初に笛を吹いた人が宣言するとダンスを始めた。


みんなキレキレで迫力はあった。


「学年選抜のみんな、頑張れー!」


ダンスが終わるといよいよ学年選抜が始まった。


「位置について、よーいドン!」

ピストルの音と共にむさ苦しい男どもは全速力で駆けていく。


確かに、優だけじゃなくあそこで踊っていた女子は割と可愛い子ばかりだった。

ただ不満なのはここにある全員の目が胸に向かっていたこと。


ムカムカする。

イライラとは違う感情が中にある。

今まで起きなかった感情。


バトンは2番目に渡ったとこだ。

次は俺の番。


それまでにこのムカムカを抑えなきゃいけない。

しかし、俺の中のムカムカは抑えるどころか膨れ上がるばかりだった。


落ち着け、なぜこうなったのか考えろ。

そこに解決の糸口がある。


優のチアガール姿をみんなに見られたから?

風凪のチアガール姿をみんなに見られたから?

杏奈のチアガール姿をみんなに見られたから?


どれが正解なのか分からない。


2番目の人はもう半分切っている。


スタート位置に誘導される。

まあ、いいや。

それは、後で考えるとして今はこのムカムカを今の走りにぶつけるとしよう。

あと、後で龍平に八つ当たりでもして解消しよう。


バトンが渡されると今まで以上にムカムカが膨れ上がった。


1周400mあるトラックをがむしゃらに走る。


『やはり、速い!花形選手、前の2人を抜けさってその間を広げていきます!』


アンカーにバトンが渡されるとアンカーの人は「ひッ」と声を上げて逃げるように走って行った。

物凄いスピードで。


俺の巻き返しにより観客は大いに盛り上がった。


学年選抜が終わって、龍平に八つ当たりして、閉会式。


横では龍平が腕を抑えてこっちを睨んでいる。


「なに、不機嫌になってるんだよ。」

「.....なってねぇよ。」

「それをなってるって言うんだ。」


「倉宮さんのチアガール姿を見られたからか?」

「風凪さんのチアガール姿を見られたからか?」

「杏奈ちゃんのチアガール姿を見られたからか?」


「それが分かったらお前に八つ当たりはしない。」

「そりゃそうか。」


「いやーでも驚いた。」

「何が」


理由の分からないことを言うアホに俺は鋭い睨みを入れた。


「お前に独占欲があったとは。」

「独占欲?」

「お前のムカムカは独占欲の現れだ。お前はそれを理解してない。」

「独占欲を理解してるような口ぶりだな。」

「おうよ、毎回杏奈ちゃんにセクハラする馬鹿どもを見てたら独占欲くらい可愛いもんだ。」


「お前が1番セクハラしてるって気付こうか。」


隣でアホが酷いだのお前に何が分かるだの喚いている。


それより、俺に独占欲?

俺が誰かを欲しがっているってことか?

龍平に八つ当たりした今となってはあのムカムカも消えていた。


確かに、そう言われるも説明がつく部分もあるがそれだだと説明部族な気がする。

あくまで気がするだけだから確証もなにもないがなにか違う気がする。



この時の俺はまだ「恋」や「恋愛」という単語の定義を分かっていなかった。

俺が「恋」や「恋愛」の定義を知るのはもう少し先のことになる。

ここでお知らせです。


翌日、7月27日から作者はアルバイトを始めるため今後更新が遅くなる恐れがあります。


私情で遅くなること申し訳ないです。


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