第二十話 手紙
体育祭が終わって下校しようとすると杏奈の時と同じように1枚の手紙が靴箱に置いてあった。
今度はハンカチが置いてあり女子が持ってそうな少しピンクがかった色をしている。
手紙の内容は、「ありがとう」のみ。
差出人はなし。
杏奈の手紙かと思ったがどうやらそう簡単には確認できないようだ。
杏奈のとこに向かおうと手紙を持って行こうとするとハンカチを掴み損ねて落としてしまう。
ひらりと落ちた布はハンカチと呼ぶには奇妙な形をしていた。
その三角形の布は俺が持っているには相当に危ない代物だった。
はっきり言おう、ハンカチだと思って触っていたのは女性物のショーツだった。
あまりの衝撃にしばらくその場で硬直した。
この差出人不明の手紙と添えられていたショーツ。
扱いに困ることこの上ない。
杏奈に確認しようにも、「お前今パンツ履いてる?」って聞くとかいくら先輩であれセクハラも甚だしい。
「あ、青君。まだ帰ってなかったんだ。」
「だあぁぁ!」
「ど、どうしたの?そんなにびっくりして。いつもなら「なんだ、優か」とか言いそうなのに。」
「いや、疲れてボーッとしてた。」
幼馴染とはいえ女物のパンツを持ってるとこを見られるのはまずい。
一先ずは、カバンに手紙と一緒に押し込んでおいた。
「そう。あ、今帰るとこ?」
「あ、ああ。そうだ。」
「じゃあ、一緒に帰ろ。」
優と帰るのはそんなに珍しい事じゃない。
しかし、今の状況は人生で初めてのことだった。
いや、人生でこんなことが何度もあってたまるかって話なんだが。
優と家の前で別れて家に帰って考察を始める。
杏奈の時と言い女子の考えることは全く分からない。
手紙にパンツを添えるとか頭がどうかしてるとしか考えられない。
一体何がしたいんだ。
俺への嫌がらせか?
恩を仇で返すの流行ってるの?
頭が混乱している。
そりゃそうだ。
普通の男子高校生がお礼にパンツ貰ったんだから。
「どうしたもんか...」
「お兄ちゃん。」
俺がパンツについて考えていると廊下から声が聞こえた。
俺の妹、花形真奈。
俺の二つ下で現在は中学二年生。
色々暇な時期だ。
「どうした?」
「そろそろ定期試験あるんだけどさ範囲がイマイチでさ。教えて欲しいんだ。」
「え、それ、俺に言う?優に聞けばいいじゃん。」
中学二年の時期は直人のこととか色々合って勉強どころじゃないからそこだけぽっかり空いてるんだ。
「お兄ちゃんでしょ。」
「兄はそんなに万能じゃない。」
むぅーと頬を膨らませる。
そんなことされても教えられないものは無理だ。
「お兄ちゃんのバカ。」
範囲が分からないやつに馬鹿呼ばわりはされたくないな。
とは、口には出さないが目線で訴えておく。
真奈が去って再び考察に戻る。
手紙の内容から察するに俺がなにかをしてそれによって助かった人からの手紙の可能性が高い。
俺が無意識のうちに人助けをしていたのだとすれば杏奈の時より人数は多くなる。
3学年〜1学年までの女子...いや、手紙の色がピンクだからといって女子とは限らない。
可能性としては限りなく低いが男子と言うことも有り得る。
となるとだ、全校生徒がグレーと言うことになった。
全校生徒、400人弱いる中から1人を見つけ出せとか杏奈の時より酷い。
仮に男子を外して女子だけで考えても230人近くいる。
93人でも時間がかかったのにその3倍近い人数は途方に暮れる。
なにか、なにものか。
この手紙を送った人を半分でもいいから絞れる情報は。
と、その時スマホがチャットアプリの受信を知らせた。
見ると涼姉だった。
まだ、アドレス消して無かったのかと驚いたが性格を考えれば不思議な事じゃなかった。
あの人は『もしも』を考えて動く人だからその『もしも』に引っかかっただけの話。
で、内容は主に仕事お疲れ様という内容だった。
『雑務の仕事お疲れ様。2度目だけあって手際はかなりのものだった。そのおかげで熱中症で病院行きになる生徒がいなくてほんとに良かった。明日からまた通常授業があるから遅刻等しないように。実行委員の仕事はまだあるから。それじゃまた明日。』
1回に送る文量ではないことに早く気づいて欲しい。
字が小さいから詰められてると読みにくい。
それにしても、去年はこんなもの送ってすら来なかったのに今年は送ってきた。
少しは許して貰えたと考えてもいいのだろうか。
ま、それは時間が経つのを待つしかない。
俺がなにやっても悪化するだけだ。
『涼姉もお疲れ様。今日は勉強しないでしっかりと休んで。また倒れたら大変だから。』
と返しておく。
去年は熱中症で病院送りになる生徒がいたのか。
今年も体育祭をやってるってことは何事もなかったんだろうけど。
まあ、あの暑さなら熱中症にならない方が珍しいか。
.....ん?待てよ。この手紙が置かれていたのが体育祭が終わったあと。
なら、体育祭途中で倒れて保健室に運んだ生徒の可能性が高い。
『体育祭で倒れたのって何人?』
こういうのは生徒会長の涼姉に聞いた方が早い。
数分して返信がきた。
『青砥と運んだ5人だけ。』
『ありがとう』
これはいい情報を貰った、
230人から5人にまで絞れた。
倒れたのは全員女子生徒だ。
って、そうだ。置かれていたのが女物のパンツなんだから男子なわけないじゃん。
余計なことを考えていた。
話を戻す。
保健室に運んだのが覚えてる範囲で
3年の赤髪をした生徒
3年の茶髪をした生徒
2年の金髪をした生徒
1年の紫髪をした生徒
1年の黒髪をした生徒
髪色がカラフルだと思ったから覚えていたが顔までは覚えてなかった。
しかし、最後の1年以外は特徴的な髪をしてるからすぐに見つかると思う。
あとは、どうやって確認するかだな。
「俺にパンツを送ったのはあなたですね。」とか言おうものなら即座に変態のレッテルを貼られる。
それに、言ったのが本人ならまだいいがもし違った場合、冗談では済まされない。
こいつは困った。
確かめる方法がなに1つないんだ。
加奈先輩や杏奈に手伝って貰うことも考えたが、手紙の主にNoと言われればそれで終わりだ。
あーもう。面倒臭い。
お礼ならいらないし言いたいなら直接言ってほしい。
仮に手紙でもありがたいことにはそうだがパンツを置いていかないでほしい。
捨てることもできないし持ってるには危なすぎる。
さぁて、どうしようか。
いっそ、相手が痺れを切らせて俺に接触してくるまで待つか。
時間はかかると思うが1番安全だ。
いや、その分俺の元にパンツがある期間が長いって事だからそうでもないのか。
俺は明日からパンツを落とした女子生徒を探さなきゃいけない。
杏奈の時より過酷で助けを求められない状況。
人探しをするのに最悪の状況と言っていい。
まさか、これを狙ってのパンツなのか?
...そう出ないことを願っている。
面倒くさがりの俺にこんな推理じみたことは不可能に近いってことを理解した上で送ってほしい。




