捌・何時の世も
「末森がそんなことをしていたとは」
大宮と皐月の報告を受けていた阿弥陀は、驚いた表情を浮かべていた。
「ええ。以前爺様に連れて行かれた診療所がやっていた実験。あれを本当にしている人がいたなんて」
「しかし、医者としての腕はたしかだったことも事実だ。頭が狂ってさえいなければ、立派な医師だったといえるんじゃないかな」
「それでも、彼がやったことは赦されることじゃない」
皐月はゆっくりと天井を見上げた。
「それで、末森は?」
「彼でしたら、警察病院に入院してもらいましたよ」
阿弥陀はそう言いながら、皐月を見やった。
「それから訶梨帝母からの報告ですけど、葉月ちゃんに取り憑いていた浮遊霊の正体。実はあの病院で、末森に殺されたみたいですね。皮膚を切り落とされて」
「ひ、皮膚を?」
「いや、正確には自分から皮膚を切り刻んでいたといったほうがいいですかね? 要するに自分の頬の皮膚をカミソリの刃で切り刻んでいたんですよ。刃を垂直に切るのではなく、皮膚に刃を叩きつけるみたいにね」
阿弥陀の言葉に、想像してしまった皐月は身体を震わせた。
「阿弥陀警部、あまり刺激するようなことは」
「いやいや、すみません。ですが……彼が担当していた精神病棟には、それ以上のことをしていた人だっている。いやなにをどうしたらそうなってしまったのかという人だっている。皐月さんはまだいいほうですよ。そうやって人の痛みも自分のことのように感じる優しさがある。ですがね重度となると、自分の痛みすらわからなくなってしまうんですから」
阿弥陀はそう言いながら、椅子から立ち上がった。「それから、大宮くん」
そう言われ、大宮は阿弥陀を見やった。
「皐月さんを家に送ったら、明日一日休んでください」
大宮は理由を尋ねようとしたが、阿弥陀のモノ言わぬ険しい表情に押され、頷くことしか出来なかった。




