表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の葬式――断罪された姉の為、妹は復讐を誓い真実を暴く  作者: 冬月子@書籍化決定!悪役令嬢のダイエット革命5/1発売


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/29

6話 姉の友人だった令嬢Ⅱ

「さあ、認めて。偽の証言をした、という事を」


ロザリーは、一歩だけ前へ出た。足音は、ほとんど響かない。だが、その距離の詰まり方が何より雄弁だった。

――逃げ場はない。罪を認めろ、と。


「ひ……っ、ぁ………」


サラの肩が、びくりと跳ねた。視線が彷徨い、無意識にルーカスの方へと向けられる。

助けを求めるような、その一瞬の仕草がすでに答えだった。


「ち、違うんです……私は……」


否定の言葉は、声になりきらず、喉の奥で掠れる。

整えられていたはずの微笑は崩れ、唇が小さく震え始めていた。


「そ、そうだわ。……見間違い、だったのかもしれませんわ」


ぽつりと落とされた言葉は、あまりにも弱々しい。

ロザリーは、目を伏せることなく告げる。


「今更、“見間違いだった”で済むと、本気で思っているの? そもそも、あなたはあの日……現場なんて、見ていない。それでも、見たと証言した。それが、事実なのでしょう?」


応接間に、重たい沈黙が落ちた。

言葉を失った空気が、じわじわと相手を締め上げていく。逃げ道は、もうどこにも残されていない。それでも、鋭い眼差しから逃れるように、サラは視線を伏せた。


「……わ、私は……」


言葉は、そこで途切れる。

ルーカスは、最後の一押しになる言葉を重ねた。


「……認めてくれるね? 僕たちは、公の場での証言の撤回を求めます」


低く、落ち着いた声。

それは青ざめたサラを慰めるものではなく、最後に残された“選択肢”を示す残酷な響きだった。


「真実を話してください。誰のために、嘘をついたのかを。……今、話してくれると約束してくれるなら……罪を軽くすると約束しましょう」


「あ……あ、ぁぁ……」


ルーカスからは、もはや言い逃れはできないのだと悟った。そして、罪を軽くするという甘い言葉に抗うこともできず。

ついにサラは、観念したように項垂れた。


「……わ、分かりましたわ。偽の証言をしたことを、認めます。公の場で……証言を、撤回いたします……」


ロザリーは頷いて、質問をひとつした。


「……その前に、ひとつだけ……聞かせて」


サラは、恐る恐る顔を上げる。


「あなたに、偽の証言をするよう頼んだのは……誰ですか?」


「そ、それは……」


サラは言い淀み、視線を彷徨わせる。

だが、先ほどのように助けを求める相手はいない。


ルーカスが、淡々と付け加えた。


「隠したところで無駄ですよ。……目星は付いてるからね」


彼の声には、拒否という選択肢が存在しなかった。

サラは、唇を強く噛みしめた。やがて観念したように、震える声で続ける。


「……わ、分かりました。正直にお話しします」


言葉の端が崩れ、視線が泳ぐ。


「夜会の数日前……学園で。私は、アンジェリカ様に呼び止められましたの。“王太子と仲良くしていることで、リリアーヌ様を怒らせてしまった。彼女に加害を受けている”と、おっしゃいました。そして、その場面を見たことを証言してほしいと頼まれました」


サラは、耐えきれず、首を縦に振った。


「で、ですが……っ、仕方なかったのです。逆らえば、家の立場がどうなるか……分からなかったのよ……」


その告白は、もはや弁明にもならない。

だが同時に、この事件の輪郭を、はっきりと浮かび上がらせるには十分だった。


ロザリーは、ゆっくりと息を吐く。


(アンジェリカ……。やっぱり、彼女の仕業だったのね……。)


ルーカスが、短く告げた。


「証言の撤回と、今の話。すべて、正式な場で記録に残してもらいます」


サラは、力なく頷いた。


「……はい。申し訳……、申し訳ございませんでした」


項垂れたまま謝罪の言葉を繰り返す彼女の姿を前にして、ロザリーは胸の奥に込み上げるものを抑えきれなかった。

その態度があまりにも弱々しくて、気づけば口を開いていた。


「ねえ、教えて……。どうして、姉さまを貶めるようなことをしたの?」


「だから、アンジェリカ様に頼まれて仕方なく……」


縋るような言い訳に、ロザリーの瞳がすっと細まる。


「いいえ。それだけじゃないはずよ。あの夜会だけじゃない。“悪役令嬢”だと噂を流したのは、あなたたちでしょう? 姉さまに、何の恨みがあって……」


「わ、私は……そんなつもりは……! た、確かに、アンジェリカ様から聞いたリリアーヌ様から虐められているという話を、他の人と話すことはあったけれど……」


「その真偽を確かめたの? 確かめもせずに、姉さまを悪役に仕立て上げたの?」


「私だけじゃない。ほ、他の人も言ってたわ……」


どうやら、最後まで自らの非を認める気はないらしい。

ロザリーの声は、底冷えするほど低く沈んだ。


「そもそも……あなたは姉さまの友達だったのではないの……?」


学園で姉を見かけるたび、その周囲にはいつも人垣があった。

姉も、取り巻く令嬢たちも、親しげに笑い合っていた。


その輪の中には、必ずサラの姿があった。

控えめに微笑みながら、けれど決して外側には立たない位置で。ときには肩を寄せ、囁きを交わす姿は、ふたりの親密さを物語っていた。

だからこそ、ふたりは心から通じ合う友人なのだと疑いもしなかった。姉にそんな存在がいることが、少しだけ羨ましかった。

それなのに――。


「あ、あの人が……、完璧すぎたのが、悪いのよ……」


絞り出すような声。


「何をしても、褒められて……。私たちは、ただの引き立て役で……。だから、少し……ほんの少し、痛い目を見ればいいと思ったのよ……」


“仕方なかった”と滲ませながら、その奥に覗くのは、拭いきれない妬み。


(そんな……そんな、自分勝手な理由で――?)


視界の端が、じわりと赤く滲んでいく。

友人だと信じていた相手に裏切られた姉の気持ちを思うと、胸の奥で煮え立つ感情が、今にも堰を切ろうとしていた。

爪が掌に深く食い込み、鈍い痛みが走る。けれど、その痛みですら、この荒れ狂う感情を鎮めるには足りない。


「あなたは取るに足らないことのつもりだったのでしょう。ですが――その軽率な行いこそが、彼女を死に追いやったのです」


ルーカスの声音は、ぞっとするほど氷のように冷えている。

その一言が、燃え上がりかけた激情に冷水を浴びせた。


ロザリーは、はっと息を呑む。

乱れかけた呼吸を整え、込み上げる衝動を必死に押し込める。


それでも――怒りに似た悲しみは消えない。


「そうよ。あなたの……あなた達の愚かな行為が、姉を死に追いやったのよ……」


このまま泣き崩れてしまえたなら、どれほど楽だっただろう。

けれど、涙はひとしずくも零れない。


「――ねえさまを……返してよっ」


代わりに、喉の奥で押し潰された想いが、行き場を失ったまま歪み、言葉となって溢れ出す。

辛くて、苦しくてーー、誰かを責めずにはいられない。


「……ご、ごめんなさ……」


途切れた謝罪は、形になる前に崩れ落ちた。震える肩。滲む涙。遅すぎる後悔。

ロザリーは、ゆっくりと目を閉じる。


「……今更、謝っても遅いわ」


本当に、何もかもが今更だった。いまさらどう行動したところで、失われたものは戻らない。謝罪で命は戻らない。泣いたところで過去は書き換わらない。


もう戻らない。

もう触れられない。

もう、声を聞くこともできない。


(ごめんなさい……。)


その許しを請う声は、果たして誰のものだったか――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『悪役令嬢のダイエット革命』書籍化しました!
ご予約はこちらから
悪役令嬢のダイエット革命!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ