崖
君の泣き叫ぶ声がする。
左耳はくぐもっていて、天に向けた右耳から君の声が聞こえる。
口は……動かない。目は、目の前は真っ赤だった。
もし、救われるのならその手を取っただろう。
しかし、もう手も腕も、足も動かない。
骨は全部折れたかな。
どくどくと体の中から流れ出し、私の周りを水溜りが作られていく。
真っ赤に染まった視界のなか、光に照らされたところが白く光っているのが見えた。
その光はときおり揺らめきを見せてたまに手の形を象る。
助かると思って君は手を伸ばしているのだろう。
だけど私はもう助からない。
ごめんね。ごめんね。
頭でそう唱えても口は動かない。
ふわりと浮遊感がした。ガチャリとキャスターの立てられる音がする。カラカラと車輪が回る音がする。男や女の声が聞こえた。お腹のあたりを押さえる感覚がする。
その傷はもう癒えない。しっかりと痕を残して刻まれてしまった。
水溜りの水もさらに増え続けていく。
君と同じようにサイレンも喚いた。けれどその大きな音はゆっくりと遠ざかっていく……。
視界が真っ白になる。
あぁ、花びらと一緒に無数の金の光がふわふわと舞い降りてくる。
アレはきっと私の記憶を削り取る走馬灯。ふわふわと落ちて来たくせに、ガリガリと削っていく。
ヒビが入った銀板がガラガラと崩れ落ちる。
アレはきっと最期の砦。私を守っていた概念が削り取られ崩れていく。
あぁ……、ふわふわする。
これが死か。