三章六節 黙視の敵と新たな西欧校舎
――昔、とある王国の名のある探検家が樹海から姿を消した事が始まりだった。
国は周りの国々にも頼み大規模な樹海の捜索が行われたが、探検家は見付からずありとあらゆる可能性を検討し確かめるが全てが意味を成さず、探検家の消息を立った場所には血痕とその者が愛用していた短剣が落ちていただけであった。
いつしか、国王は樹海の捜索を打ち切ると、樹海にあるとされる地下の探索が行われるがいくら掘っても地下には届かず。
地下があるというホラ話に付き合わされたという結論で大規模な探索は終わりそれ以降樹海には誰も近づくことは無かった。
――しかし、ある時を境に次々と王国では奇妙な事が続いた。
見たことの無い新種の花が王国一帯に咲き乱れたのだ。
その花は七色に輝き、バラとパンジーを足した様な形であり数多くの学者を徹夜で研究させるほどに興味深い物であった。
数名の学者はその花を評価するが別の学者はそれを否定する
「あの花は医学的に人体を蝕む毒素を持っています……まず、人に使えば死ぬでしょう」
「花の毒素を中和すれば、人間を新たなステージに導くだろう。あれは……神の花だ!」
「――あの花は人間の手に余る。放棄すべき物です!」
学者は賛否両論で別れ国内は各国の学者で溢れており、何年も歳月が過ぎた頃。
1人の学者が花の研究段階でをあることに気が付いた。
花の発生源とその場所が樹海だと言うことだ。
それを聞いた国王は、直ぐ様国の騎士団を送り探索をすると……探検家探索ではなかった地下への道が続きその下には、地下を突き抜け樹海まで伸びる花と同色の大樹と花が咲き乱れ巨大な地下空洞の天井さえも埋め尽くす花にその場に立つ騎士は声を失いその光景を目に焼き付ける。
直ぐ様大樹周辺の調査が行われた。
わかった事は、大樹が発生源でありその大樹を生み出したのが―――行方不明になった探検家であった。
学者は直ぐ様大樹の表面の樹脂を調べると、その花は探検家の精神支配魔法が変質した魔法だと判明した。
学者は探検家の遺体を大樹から切り離し樹海の最奥に埋葬する。
成長しつ続ける大樹の解析と花の研究を見直し、各国の学者と連携してある薬品を完成させた。
【MP生成薬】
その薬品を投与した者の人格の崩壊、それを引き換えに内なる力の解放と半強制的に魔力を爆発的に増大させる薬だった。
そして、現在黒の手にあるケースの中にはその薬品が3つ入っていた。
―――正確には、今しがた黒の投与した物を引くので2つであった。
辺りの魔力濃度は更に膨れ上がり、大気が震え更には魔力の余波により天候さえも変化しつつあった。
その姿は黒が本来は人種でなく竜人族だという事を証明させる。
「……コイツ。人間ではなく、竜人か」
男は地面を踏みしめ構えるが、その瞬間に黒を見失う。
男が黒の姿を認識した時には、あばら骨と左腕がへし折れた状態で折れた木に凭れ掛かっていた。
「くぶはッ………がは………」
大量の血が口から流れる、その現状を理解するのに時間はかからなかった。
「ヤバい! 逃げ―――」
黒は男の体に自分の拳を叩き込む。
男はその直後に意識は途切れ、黒の攻撃は絶え間なく続き男を地面にねじ込みその上から大火力の大爆破、大跳躍からの超巨大な落雷が男を襲う。
男は折れた両腕と右足を捨て、その場から高速移動で距離を取り魔力を吸収することで黒と戦う前の状態へと戻るが、背後に回った黒の回し蹴りが男の右腕をもぎ取る。
男は再度回復しようとするが、それを黒は許さなかった。
男の首を掴み地面に叩き付けると同時に、空高く蹴り上げ炎と黒炎の混ざった魔法が男の体を燃やし黒炭にする。
黒色の炎が辺りの草に着くと、その焔は勢いを増し周辺を黒い炎の壁がそびえ立つ。
男の体は黒炭になり約半分が炭となって消えたが、直ぐ様体を再構築する。
しかし、炭になった体を構築するのには周辺の魔力と時間が足りなかった。
じりじりとその距離を縮める黒の姿男は恐怖を覚える。
実際には存在しない筈なのに、黒の頭上には竜の特徴的な角と鋭利な爪。
竜族を思わせる特徴的な青色の瞳は神々しく輝き、その瞳には男の怯えた姿が映っていた。
男は崩れた体を必死に動かし、黒から離れようとするが崩れた体では思うように動かず、その場でばたつくだけであった。
「――来るな……来るな! 来るんじゃねぇよ!」
男は叫ぶが、黒の歩みは止まらず近付き男の体をゆっくりと踏みつける。
「――ひぃ! ……やめてくれ……やめてくれぇ!」
男の叫びには目もくれず踏みつけようとした時、黒の体は男の真逆の方向へと吹き飛ばされる。
「―――駄目だよ、黒ちゃん。黒ちゃんは黒のままでいなきゃ」
黒は声の方へ向く、空間の裂け目から見下ろす暁がいた。
紺色のスーツに身を包む暁はスーツも高そうだがそれ以上に高そうな革靴で宙を歩く。
遠くからその光景を見ていたレオンは驚く、現在では空を飛ぶことは珍しい事では無い。
しかし、暁の動作は飛ぶと言うより、歩くというより踏みつけるに近い現象であった。
酸素を足場に微粒子や微生物を踏みつけ歩いてるとでも言えるだろう。
しかし、そんな事では宙を歩く事は出来ないだろう。
歩けたとしてもあそこまでぶれずに真っ直ぐ歩けはしないだろう、レオンはポケットから球体型ドライバを取りだし手前に軽く投げる。
ドライバは形を球体から小型の鳥へと姿を変え、暁の頭上に向かって飛ぶとレオンの手元には画面が表示され、その場の状況をデータ化する。
だが、暁の周囲からは変わった魔力反応は出ず少しの変化も無くそのまま歩いている。
「――暁。世界の敵でありながら、世界全土から身を隠す……誰かしらの後ろ楯があってこその芸当だ。――それに、一体何処であんなトリックを身に付けたんだ?」
レオンが木の後ろから暁の様子を伺っていると、背後に立つ男に気が付かなかった。
「―――頭に用か? 雑魚さんよ」
不適に笑う男はレオンを見下ろす。
暁はゆっくりと宙を歩き、半黒炭になっている男の傍らに降り立つ。
「大分やられたねー……火傷の男。ミスターブェイ」
暁はブェイの体を持ち上げる、その時暁の体から滲み出る魔力を吸収してほぼ元通りの体になると、黒に殺意を剥き出しにして近付こうとすると暁に止められる。
「いい加減、立場をわきまえろ。お前ごとき騎士崩れが黒ちゃんと対等に戦える訳無いでしょ?」
「わーたわーた、黙って言いなりになってれば良いんだろ? なら、さっさと行こうぜ」
ブェイは先に裂け目に飛び込み、その直ぐ後を追うように暁が宙を蹴る。
「あ! 忘れる所だった」
暁は黒へと向き直り、魔法で黒の胸を突き刺した。
「――!?」
黒はその場に倒れ込むが、すぐに起き上がり刺された胸を摩るが胸の傷は無い事に黒は理解できず辺りを見回す。
その隙に暁は裂け目を通り、その場を後にする。
しばらくして、黒は自分に投与した薬の成分が綺麗に無くなってるのに気付いた。
どうにかして、起き上がろうとするがその場で倒れ込み意識を失う。
起きるとそこは見慣れない天井、黒はベッドの上で目を覚まし辺りを見回す。
隣の荷物置きには見慣れた西欧の学生服学生服置いてあり、その場で手早く着替え黒は部屋を後にしようとする。
だが、薬の影響なのか体は思うように動かず壁に凭れ掛かる、どれ位か分からないが黒はその場で寝てしまい目を覚ますと体は十分動ける所まで回復していた。
黒は部屋を後にしてしばらく道なりに歩いていると、目の前を何名もの西欧生徒が通り過ぎていた。
普通に通り過ぎる生徒に不信感を抱かなかったが、立ち止まり良く考えたそして、新しい校舎の中自分が居ることにも今更ながら気付いた。
「どうなってんの……これ?」
外に出れば転校初日の校舎となんら変わらない姿で校舎は佇んでいた。
最低でも1ヶ月はかかる校舎の修理を終わらせていたのだ。
「起きたか、黒」
声を掛けられた事にすら気付かずに校舎を眺めていると、黒は腰を思いっきり蹴られ後ろを睨む。
「痛…! 誰だよ。て………レオンか」
レオンは黒に現状の確認と次いでにと理事長の元へと案内する。
外見は元の学園だが、中の作りは全くの別になっており理事長室の場所も当然変わっており黒一人では迷子は確実だった。
「今の西欧は生徒の半数を亡くし、西欧学園維持の瀬戸際だそうだ。俺たちは西欧が世界の裏と繋がってるかを潜入して調査する筈だったが………首謀者は取り逃がしちまったから、上から今週限りで作戦終了だとよ。俺はここを出るがお前はどうするんだ?」
黒は歩きながら考える。
西欧が裏で繋がってた事はブェイの存在で確定していたが、ブェイはそもそも西欧とは無関係の存在。
そんな奴がどう西欧と関わりを持っていたのかが黒の中で引っ掛かっていた。
それに、星零理事長は西欧生徒が急激に力を付け、議会や騎士団の上層部の不信感や大規模戦闘での西欧生徒の部隊の行方不明の件は未だに解決していない。
「レオン……この件は終わって無いぞ」
「は?」
レオンは驚き黒に尋ねると、黒はその意図を説明する。
「なるほどね……確かに裏との繋がりは確実だが、ブェイは西欧とは無関係。多分だが、裏との仲介人の役を担ってたのかもな――現に暁とも面識があるようにも見てとれた」
「暁――アイツか……」
「薬の影響でそこんところは覚えて無いだろ? ブェイはお前にボロボロにさせると助けに来た暁と消えちまったよ」
その時、レオンは初めにあの場にいたある人間を思い出す。
無数の黒服を従えた教授の存在を。
「可能性としてだが、西欧生徒を仮面の化物に変えモルモット呼ばわりしてたからな、モルモットを集めるなら西欧との関わりは確実。十分過ぎる程の裏との繋がりも確定してる」
「この前の仮面騒動で生徒の力を急激に底上げする手段を持ってる。となれば、教授ってのは相当な戦力を有してるからな……めんどくなりそうだ」
レオンと黒は理事長室に向かう道で見解を告げ、本来の敵を定める。
「どうします? きょーじゅっ」
「まぁ、今は泳がしとけ。大事なモルモットが減ったのだ補充するまで身を潜めよか。――あの二人には警戒しとくのじゃぞ」
「はーい。……フフ」
遠くから、黒達の様子を伺っている存在に黒達は気が付かない、その者達の行動は黒達を意図的に生かしてるようにも見てとれる。
「楽しみだよ。―――君たちと本気でやり合うその時を」
不気味に笑う女子生徒はフリフリ改造を施した西欧制服を風になびかせながら、風のように消えた。




