三章七節 西欧存続と任務継続
理事長室は学園存続がかかった大事な時期を向かえていた。
「理事長! 西欧学園存続の危機です、どうにかして生徒を集めなければ………」
秘書が前のめりに理事長に迫るその時、黒とレオンの二人組が理事長室に入ると秘書は服を正し理事長の隣に立つ。
「……間が悪かったんなら出直すぞ?」
黒は開いた扉を閉めようとするが、理事長は止める。
「気にしないでくれ。秘書の彼女がこの学園の存続が危ういと嘆いていてな」
「べ……別に嘆いている訳ではありません!」
秘書はそう弁明すると、顔を赤らめる。
「んで、俺たちを呼んだのはどういったご用で?」
黒は理事長の机に座り、青色の瞳で理事長の顔を覗き込む。
「大した理由じゃ無いよ………少しめんどくさいだけだよ」
レオンは胸に隠したホルスターに手が触れ、黒の下げている血燐の鞘からは無数のぼた餅が溢れる。
「『ここより、西南西の村へ無数の仮面の化物が現れた』との報告が使い魔に届きましてね、私からすれば小さな情報だが――貴方達からすれば大きな情報でしょう?」
理事長は微笑み、部屋から出ていく二人の後ろ姿をただ眺めているのみであった。
「良いのですか? 彼らは確かにこの学園の生徒と言えるでしょうけど、それはあくまで彼ら騎士団と警備会社の極秘任務の一環で生徒の立場が動き易いからです。学園の都合で彼らを動かして良いのですか? 何なら、生徒会を動かすのも手だと……」
理事長は秘書の顔の前で人差し指を立てる。
「そんな事をしたら、彼らが怒りますよ」
理事長は人差し指を立て、ゆっくりと弧を描く。
すると、空間が歪み仮面が出たと言う村の上空から見下ろす村の現在の様子が浮かび上がった。
「――空間魔法【傍観者の瞳】」
瞳の写す光景を覗き込む秘書は口に手を当て、そのまま部屋を飛び出した。
「彼女には、早すぎたかしら?」
映し出された村は焼け焦げ逃げ惑う村人を襲う仮面の姿、血だらけで倒れる村人の数々、その光景を見つめる理事長は唇を噛み締める。
黒達は山を駆け抜ける。
木々を足場に飛び、地面にくっきりと靴跡を残しながら西南西へ向かって駆け抜けていた。
途中に現れた妨害用の巨大な虫や腐った獣達を切り進めているうちに黒の魔力は底を尽き欠けてきた。
「しくった……。これはイカンなー」
「気にすんなよ。一人ならまだしも、俺がいるだろ? 前はお前に任せちまったけど……今回は俺がやる」
黒は鼻で笑い、レオンに拳を向ける。
「任せたぜ。レオン」
「おう」
二人の拳が触れると、左右に別れ所々に集まる村人の目の前に降り立つ。
「……あ…あんたらは誰だ?」
村人は小さな子供を抱き抱えたまま尋ねる、体を震わし恐怖で腰を抜かした老若男女達の前で黒は自分の事をこう呼んだ。
「――俺は、西欧学園の魔導師、もう安心しな。ここら一帯は西欧の魔導師が守るからな……」
青白西欧の制服が風に吹かれ靡く、背中には西欧のシンボルたる大きな六芒星と魔方陣が重なった校章。
校章は日に照らされると青くキラキラと輝いた。
「――ママぁ……キレイなお星様だよ…」
少女は黒の背中を指差すと、少女に向けて黒は笑みを浮かべる。
「――このお星様は西欧の誇りで、君たちを守る者の目印だ。覚えといてくれよ」
村人目掛けて向かって来る仮面達を血燐の刀身から現れたぼた餅が仮面の体に巻き付き、拘束する。
「さて、レオンの方はどうなったかな?」
レオンは迫り来る仮面の化物に向けて引き金を引く。
村人は黒との合流地点へと向かわせ、一人仮面を引き付け村人が逃げる時間を作る。
小銃の弾倉を何度も入れ換える。
薬莢がレオンの通った道端に落ちており、硝煙を上げる小銃を片手にレオンはひたすら走る。
その後ろ姿を仮面は必死に追い掛ける。
腰のホルスターから別の銃を抜き、2丁の銃火器から放たれた銃弾は仮面の足や腕体の至る所に命中するが、一向に倒れる気配がなかった。
「不死身かよ、この化物共……」
仮面に命中した箇所は数秒すると煙を上げて塞がり、それを繰り返して徐々にレオンを追い込んでいく。
しかし、レオンは冷静に対処していた。
的確に足下を狙い撃ち、一人一人確実に動きを止めることでギリギリのラインを保ちながら後退を続けることで、時間稼いでいた。
だが、それもここまでであった。
―――最後の弾倉が地面に落ちる。
それは、簡単に言ってしまえば、現状で仮面達の動きを止める唯一の手段でありレオンにとっての命綱である。
だが、レオンは小銃をホルスターにしまうと向かって来る仮面の一人の首を掴み、膝で顔の仮面諸とも砕き、怯んだ所に強化魔法での殴打を食らわせるそれにより顔は変形する。
その場に倒れ込む仮面の脇に立つ仮面にレオンは、拳を握り直す。
その姿を目にした仮面は、動きを止め一斉にその場から退散していく。
「前回学園を襲った奴の方が歯ごたえがあったな……」
ただの骸となった仮面を炎魔法で燃やす。
燃えた家屋と同様に燃える仮面は、何故だかやけに綺麗に燃えていた。
そうして、黒と合流したレオンは村人を連れ西欧学園へと戻る。
黒達が学園に戻ると、そこには大勢の人で溢れかえっていた。
話によると、理事長の考えで各地の村を1つにまとめ西欧学園のの立つ山の下に作ろうと理事長が集めたとの事だ。
そのため、その作業に追われてるのか教師や生徒が何人も空を飛んでいた。
「俺らも、手伝った方が良くね?」
レオンは黒にそう提案するが、黒はその場から飛ぶように逃げるが後ろから追い掛ける三坂に捕まり作業を手伝わされることになった。
魔法で地形を変えることは造作も無いが、問題は建物だった。
どんなに強力な魔法でも、細かい作業は神経を磨り減らすものだ。
黒も小さいが数優先でぼた餅を量産するが、他の生徒達も魔力が尽き欠けてきた所で、村人の中から何人も元大工だと言う者が現れ作業は進み、3日かけて西欧学園の正面には多くの家が建ち並びその中には数多くの店が並んで賑わう姿が目に浮かぶ。
その直ぐ後に理事長に呼ばれた黒達は現状報告次いでに西欧の件を聞きに行こうとするが、秘書が笑顔で理事長室から出てくるのが見え西欧存続問題は解消したのだろう。
「失礼するぜー」
レオンはノックせず扉を開く、その後ろをついて歩く黒はレオンの背中に当たりよろめく。
「レオン止まるな……」
黒は横から覗くと、部屋の中には理事長と隣には久隆警備会社のロゴが入った服に身を包む男女の二人組がレオンに向き直る。
「――レオン。君への任務期間は終わった筈だが? 何故まだこの地にいるのかな?」
男がレオンに向かって歩み寄る、黒の隣では男を見詰めたままレオンはその場で硬直していた。
「答えてくれ。レオン……」
男はレオンの肩に手を置くと、隣に立つ黒までもその殺気に当てられ数歩後ろに下がる。
男は肩に置いた手に力を入れるが、直ぐに女が近寄り男をレオンから引き剥がすと、黒と理事長に向けて頭を下げる。
「何故お前が頭を下げる?」
「先輩はご自分の立場を理解していません。ここは西欧学園の中です、私達が生徒に手を出したら問題になります」
くしくもその通りだと分かったのか、男はレオンを突飛ばすと舌打ちしてその場を後にする。
「重ね重ね申し訳ありません。あの人は完璧を求め過ぎる性格で、レオンさんの任務でも完璧を求めてしまい任務期間を過ぎた事に腹を立ててしまったのです」
女は再度深々と頭を下げると、急いで男の後を追う。
「お前の上司恐いなー」
黒は倒れたレオンに手を差し伸べる。
レオンは黒の手を掴み立ち上がり、苦笑いを浮かべ理事長室に入る。
「さっきの警備会社だよな? レオンの任務期間がどうとか言ってたな」
黒が理事長に尋ねると、理事長はため息をこぼしレオンを見詰める。
「――貴方はどうするの? レオンさん」
「俺は……」
言葉に詰まるレオンに黒は肩を掴み笑い掛けた。
「任務が終わってここに居られなくても、俺がお前の分までSクラスの連中の無念を晴らしてやる」
黒は肩を軽く叩き理事長室を後にしようと、扉の前で止まりレオンの方に向き直る。
「――レオン。だからお前はお前の出来る事をやれ」
その日境にレオンは西欧学園を辞め、警備会社へと戻っていった。




