第2話 配備決定
今日は調子良かった!
Su-50を撃墜し、呆然と飛ぶ旧世代機を一瞥すると青い火を噴き飛び去る。
そのコックピットに座るパイロット。
「スラッシュ、実弾発射試験終了。目標は規定の物でなく、味方戦闘機を狙っていた新鋭戦闘機。帰投する前にこの子の機動飛行の許可を」
『スラッシュへ、許可しよう。その代わり燃料が足りん、小松へ降りるんだ。手は回してある。お披露目だ』
なんの警告も無しに行われた空中戦。この戦闘が外に漏れる事はなく、日本の優位性を確立するに終わった。
小松基地 ランプ
汗で湿ったヘルメットを脱いで、頭を掻き毟る。固まった髪の隙間に冷たい風が吹き込む。基地へ帰る間、頭にはあの機影が写真のように鮮明にあった。見た事のない機体、だが機体に記された唯一無二の味方である事を示す日の丸。
すると、整備員がラッタルを掛けコックピットに上がってくる。
「山下2尉!よくご無事で!」
ベルトを外すと整備士に手をかり操縦席から立つ。
「山下2尉?」
見慣れたおっとり顔が何かを察したのか覗き込む。
返事が遅れる。
「ん?あぁ富竹3曹。大丈夫だよ」
歳は聞いていないが20代前半だろう。何故こんな子が自衛隊に来たのか、とよく考える。が、今はそんな事より謎の戦闘機とロシア機の恐怖が心臓を打つ。
数ヶ月前、自衛隊機の撃墜事案があったが、あのパイロットが見た最後の光景があの死神だと思うと震えが止まらない。
待機室に戻った山下は自販機で適当な物を買い、ソファにへたり込む。まだ手が震える。
天井のスピーカーが山下を呼ぶ。タワーへ来いとの事らしい。
上がると山下が所属している第303飛行隊の隊司令である峰松がいた。
「お、来たな。いい物を見せよう、最も、もう君は見ているがな」
管制官が滑走路を指定する。
その方向を見ると何か飛んでくるのが見えた。小松基地は軍民共用の飛行場であるが旅客機の大きさではない。次第に大きくなるそれは確かに見た事のある機体だった。
それはまるで1枚の羽が地面に落ちるように着陸した。パイロットはかなり腕の立つ奴に違いない。外見は空中で見た通り。ステルスの象徴である米国のF-22とは似ても似つかない機首、エアインテーク、双発のエンジンの後端に付いた3枚のパドル。
「あれが日本航空技術の粋を集めた国防空軍のイーグルに変わる新型要撃戦闘機F-3 零だ」
武者震いとはこの事を言うのだろう、と初めて感じた高揚感に先ほどの戦闘など忘れ去っていた。
気付くと山下の足は誘導路を通り山下の乗っていたイーグルの隣へ向かうあの機体の元へ走っていた。
珍しく晴れた小松の空の下、陽に照らされ眩しく白みがかって見えるその機体は確かにそこにあった。
目を細めその機体を見回す。
スラッと伸びた機首から広がる主翼。その下にあるエアインテークは五角形の幾何学的な形をしている。
見惚れていると対電磁波コーティングされ黄金色に輝くキャノピーが開く。
あの着陸にスホーイの撃墜、どんな奴だ…
そう思って待っていると出てきたシルエットは想像と違い華奢な体躯だった。
そこである声を思い出す。
『降下しろ』『降下しろったら、死ぬぞ』
まさかな…と考えているとヘルメットを脱いだ。
そのまさかだった。黒い短髪にシュッとした輪郭。眼は鋭く尖っていた。
女性だ。
ふと、眼があった。整備士に礼をしたそのパイロットはスタスタと早足で山下の前に来た。
「貴方があのイーグルのパイロット?」
上空で聞こえた声そのものだった。
女性にしては低く印象に残る声だ。
「そ、そうだ。さっきは助かった。ありがとう」
「……あんな飛び方してたら死ぬよ」
あっけに取られた。恐らく年下、しかも女性に自分の飛行技術を "あんな"呼ばわりされたのだ。航空学生の時から評価は受けていた。
女性は続ける。
「冷静でいたつもりでしょうけどあの旋回は混乱したパイロットがする機動そのもの。しかも相手が悪すぎる。よく死なないで帰ってこれたね」
それだけ言い残すとスタスタとランプを歩いて行った。陽炎に姿が歪む。
山下は動けないでいた。
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