第3話 機種転換訓練
お待たせしました。
P.S
金曜日に徒歩行進訓練で40キロ歩いて死にそうです。
この頃のニュースと言えば国防海軍に新鋭空母が就役するという話題で持ちっきりだった。日本が海で覇権を奮った第二次大戦から約80年。その威信を取り戻さんと横須賀、佐世保にそれぞれ「赤城」、「加賀」が就役するそうだ。同型艦である2隻は全長約350mの堂々たる正規空母だった。
そのニュースを自宅のリビングで朝食の味噌汁を啜りながら眺めていた。
「俺には関係ないか…」
そう呟くと頭の中はもう別の事でいっぱいになっていた。数週間前、助けられ飛び方を否定してきたパイロットとその機体。
あの一件で配備が決まった零は既に各航空基地に配備されていった。山下の所属する第6航空団がある小松基地にも新たに1個飛行隊が入ってくる予定だった。
山下はその日のうちに機種転換の願いをだしあの機体に乗る日を今か今かと待ち望んでいた。
準備をし、愛車のAudi TTに乗り込むと車で5分程度の小松基地を目指しガレージを出る。
今日はシミュレーターでの訓練が予定されている。その後身体が零の機動に耐えれるものかどうかを見る検査も控えていた。
それはいいのだか、訓練開始から気に入らない事がある。それは教官があのパイロットという事だった。
基地に着き国旗掲揚後、訓練が始まる。
「今日でシミュでの訓練は終わりだ。午後の身検の結果次第だが明後日から早速実機訓練に移る」
荻島 飛鳥2等空尉。
それが彼女の名前だった。
癪に触らなかったといえば嘘になるが、彼女が教官に選抜された理由は山下が半ば無理やりに転換訓練を申込み、上が丁度基地にいる荻島を教官としてあげたのだ。訓練で使うシミュレーターもちゃんとした訓練生用に用意されたものだ。上は「テスト代わりになるからいいじゃないか」と、言ったそうだ。
耐Gスーツを身に纏い座席に座る。F-15にあったようなアナログメーターは無くグラスコックピットになっている。さらに零ではHUDを廃し、HMDを採用している。以前はヘルメットの大型化に伴う首への負担が懸念されたが日本お得意の小型、軽量化に成功、搭載に至った。
今日の訓練はSu-50を2機に対し単機での格闘戦だ。ここまで空中戦、近接航空支援、海上航空支援などの訓練してきて思う事はこの機動が実機で出来るのならば米国最新鋭のF-22すら凌駕する"化け物"を作り上げたのかもしれない。事実、対ラプターを意識して作られたSu-50に勝っているのだ。
この日の訓練も撃墜2で終わった。
午後の身検も終わりBXの喫茶で今日の訓練内容をノートにまとめてると誰かの足が山下の横で止まる。
「意外とマメなんだな、山下」
長い揉み上げを耳に掛けながら覗いてくる。
実機に乗らないと細かな癖は分からないが行った機動や状況などを事細かに書き込んであった。
「若いのに負けたくありませんから」
若いのとは正規の訓練生のことである。山下もまだ26だが、イーグルに乗っていたハンデがある分負ける訳にはいかない、と努力していたのだ。荻島の方をを見ず黙々と書いていたらいつの間にか向いに座っていた。
荻島は同い年ではあるが期別で見ると一つ先輩にあたる。
これも知らないうちに頼んだであろう紅茶が運ばれてくる。山下のアイスカフェオレの氷が溶けてカラン、と音を立てる。
ほとんど会話はなく荻島はノートに目を落として時折ふむふむといったように頷く素振りを見せていた。無言は苦じゃない。
外が暗くなり始めた頃。
「そろそろ帰ります」
「そうだな、明日は休みだ」
んーっ、と大きく伸びをする。普段気の張っている荻島しか見た事がない分新鮮に感じた。
WAF隊舎の前までなんと無く2人で歩く。
「んじゃ、明後日はお願いします」
「了解した」
短い挨拶を交わし荻島は隊舎に入っていく。臨時で小松に来ている為幹部であるが営内にいる。
ぼーっと茜色に染まる空を見上げ、車の止めてある所に向かう。
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