第十一話『何者なのか』
白を基調とした清潔な、けれどどこか冷たい待合室の長椅子に、れんは一人で座っていた。
先ほど、楓に「受付してくるから、とりまここで待ってて!」と言い残され、手持ち無沙汰に自分の手のひらを見つめる。
(思い出せる日常の知識はある。言葉の使い方も、物の名前もわかる。なのに……自分の名前も、自分が何者で、あそこでなぜ倒れていたのかという肝心なことは何も思い出せない。だけど、……絶対に思い出さなきゃいけない気がするんだ)
そんな焦燥感に駆られていると、ばたばたと騒がしい足音が近づいてきた。
「ごめんごめん! 受付には本人のサインも必要だったの忘れてた(=゜ω゜)ノ」
片手を上げてウインクする楓に、れんは(……おいおい)とジト目を向けるしかなかった。
受付のカウンターは、れんの薄ぼんやりとした記憶にある「普通の病院」とよく似ていた。
ただ、医療従事者らしき女性の背後の棚には、見たこともない奇妙な測定器や、微かに光を放つ魔道具のようなものがいくつも並んでいる。
「五十嵐さん、お戻りですか。それで、そちらが例の患者さん?」
「はい、ここです!」楓が自慢げにれんを指差す。
「わかりました。では、こちらの書類の確認欄にチェックを入れて、最後にサインをお願いします」
手渡された紙に目を通すが、特に怪しい規約などは書かれていない。れんは言われた通りにペンを走らせた。
(チェックだけで身元なんてわかるのかな……?)
「はい、書きました」
「ありがとうございます。では診察室へどうぞ。あ、五十嵐さんもお付き添いをお願いしますね」
案内された診察室は静かだった。受付の女性は「ここで先生が来られるまでお待ちください」と言い残し、奥の扉へと消えていく。
(やけにスムーズに進むな……。病院の手続きって、こんなに簡単だったっけ?)
れんが身を硬くしていると、隣の椅子に座った楓が気楽に声をかけてきた。
「よーし、とりあえずここまで来れば一安心。ねえれん、本当に自分のこと、なーんにも覚えてないの?」
「日常のことは覚えてる。だけど、自分が誰なのか、家族がいるのかとかは、さっぱりわからないんだ」
「そっかぁ。それはちょっと不便だねぇ」
「そういえば……ここは、普通の病院じゃないよね?」
「うん。ここは京都中央病院の精神科・軽症担当の区画。れんは記憶喪失以外は身体もピンピンしてるし、ここが一番融通が利くかなと思ってさ。さっき外から見たとき、めちゃくちゃデカい建物だったでしょ?」
「うん、大きかった」
「あれね、精神科の軽症と重症の区画がセットになってるの。私たちがいるのは離れみたいな場所なんだけど……ちなみにね、重症化区画の担当医のなかには、妖撃士団日本支部幹部の貴嗣クラス、つまり最強格の呪術師である“丸山環”さんがいるんだよ!」
「へぇ……最強……」
(そんな凄い人が、この病院にいるのか……)
恐ろしい世界だとれんが内心で戦慄した、その瞬間だった。
頭の芯に、ノイズ混じりの微かな声が直接響いた。
『―主―……』
(え……?)
れんは周囲を見渡すが、楓は特に何も気づいていない様子だ。
(何か聞こえた気がしたんだけど……気のせい、かな?)
そのとき、奥の扉が開いて一人の男性が姿を現した。白衣をまとった、いかにも知的な医師だ。しかし、その表情はどこか腑に落ちないといった風に歪んでいる。
医師はデスクの椅子に腰掛け、カルテを見ながられんに視線を向けた。
「君かな。記憶喪失だというのは」
「は、はい」
「意識もしっかりしているし、事物の判断も受け答えも正常だ。具体的に、何が思い出せないのかね?」
「自分の名前も、過去のことも、自分のことに関するすべてがわかりません」
「そうか……。おそらく一時的な記憶障害だろうが。……それでね、先ほど君が書いたサインから魔力鑑定を行おうとしたんだが……どうにも、上手くいかなくてね」
「どういうことですか?」
「本来、人が書いたサインにはその人物固有の魔力が微量に残留する。それを使って身元を特定するんだが、君のサインからは残留魔力がまったく検出されなかったんだ」
(なるほど、魔力版のDNA鑑定みたいなものか。でも、検出されないって……)
「ちょっと、現在の魔力量を直接測らせてもらうよ」
医師は引き出しから、一見すると電子体温計にしか見えない小型の測定器を取り出した。
「この魔力計を脇に挟んで、電子音が鳴るまでじっとしていてくれ」
(見た目は完全に普通の体温計じゃん……)
れんは大人しくそれを受け取り、脇に挟んだ。
診察室に沈黙が流れる。すると――再び、あの声が響いた。今度は、鼓膜ではなく脳髄を直接揺らすほどに、はっきりと。
『――主』
(っ!?)
れんは息を呑んで弾かれたように周囲を見回した。だが、医師も楓も平然としている。
(聞こえていない……。僕にしか、聞こえていないんだ。気のせいじゃない、はっきりと僕を呼ぶ声がした。……なのに、不思議と怖くはない……)
ピピッ、ピピッ。
電子音が鳴り、れんは我に返って魔力計を医師に手渡した。画面に表示された数値を一目見た瞬間、医師の目が見開かれる。
「なるほど……通りでサインから反応が出ないわけだ」
「先生、どうだったんですか?」
医師は深くため息をつき、信じられないものを見る目をれんに向けた。
「君の魔力量……常人の平均値の、およそ十分の一しか存在しない」
「えっ……そんなに、少ないんですか?」
(十分の一って……。やっぱり僕は、この世界では魔法なんて逆立ちしても使えないんだ)
「まあ、全く流れていないわけじゃない。原因究明のために、少しだけ魔力を直接採取させてもらうよ」
医師は細い注射器のような器具を取り出し、れんの腕から血液を素早く採取すると、そのまま分析室へと引っ込んでいった。
およそ一分後。戻ってきた医師の顔は、さらに曇っていた。
「すまない、やはりデータベースに君の該当者はなかった。もしかすると、海外の人間かもしれないな」
「そんな……」
途方に暮れるれんが、助けを求めるように隣の楓を見ると――彼女は直立不動のまま、薄目を開けて船を漕いでいた。
(静かだと思ったら、立ったまま寝てるじゃん!!)
「しかし、外見的にはどう見ても日本人なんだがね……。身元が特定できない以上、放免するわけにもいかない。とりあえず、詳しい検査のために数日間、ここに入院してもらうことになる」
(入院……か。なんか嫌だな、早くここを出たいのに……)
その瞬間、ガバッと目を開けた楓が、何事もなかったかのように会話に割り込んできた。
「入院するのね! とりあえず身元がハッキリするまで安全だし、良かったじゃん!」
(仮眠をとってたんだ……! 妖撃士団の人たちって、こういう隙間時間の睡眠を大事にしてるのかな……タフだな……)
「五十嵐くん、一応君が第一発見者だ。身元がわからない上に魔力が少なすぎて精密検査が難航しそうだからね、しばらくこの子の付き添いになってあげてくれ」
「えぇっ!? 私がですか!?」
「頼んだよ。……よし、では場所を移そう。こんな手狭な診察室ではなく、患者専用の個室へ案内する」
医師が立ち上がり、れんたちを促す。れんは大人しく医師の後ろを歩き始めた。
(離れの区画って聞いたけど、廊下も広いし、結構でかい病院だな……)
医師が廊下の奥の扉を指差す。「ここの406号室に――」
――『主!!!』――
その瞬間、脳内で爆音のような叫びが響き渡ると同時に、れんの身体が勝手に跳ね上がった。
「――っ!?」
「ちょっと、君!?」「れん! 待って、どうしたの!?」
医師と楓の驚愕の声を背に、れんは廊下を猛スピードで疾走し始めていた。いや、走っているのではない。まるで目に見えない強靭なワイヤーで、身体を強引に前へと引っ張られているのだ。
(またあの声だ……! 体が勝手に動いて止まらない、まずい、まずい、まずい!)
れんの意思とは無関係に、曲がり角を猛スピードで直角に曲がる。まるで目的地の部屋がどこにあるのかを、自分の肉体が完全に熟知しているかのような走りだった。
後ろから「待ちなさい!」と楓が凄まじい速度で追いかけてくるのがわかる。だが、彼女は病院内での被害を恐れて出力を制限しているらしく、なかなか距離が縮まらない。
足の筋肉が悲鳴を上げ、心臓が爆発しそうになる。
(周りにたくさん人がいるのに……! 迷惑にしかならない、止まれ、止まってくれ……っ!)
廊下にいた看護師たちが悲鳴を上げて飛び退き、車椅子の患者が怒号を飛ばす。
「たす……け……て……!」
視界の先に、一枚の扉が現れた。れんの身体はその扉に突っ込み、鍵がかかっているはずのドアを体当たりで勢いよく踏み破る。
部屋に飛び込んだ瞬間、ようやく身体を縛っていた不可視の力が消失した。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! た、助かった……のか……?」
れんはその場に激しくへたり込み、過呼吸気味に息を荒げた。
『――主!!!』
(なんだよさっきから……! お前は一体誰なんだ!? 怖い……自分の身体が、自分じゃないみたいで、本当におかしくなりそうだ……!)
「れん!!」
直後、楓が荒々しくドアを開けて部屋に飛び込んできた。その顔は完全に怒りと困惑で満ちている。
「どうしたの!? 一体何が起きたって言うのよ!」
「わから、ない……。でも、頭の中で誰かに強く呼ばれた気がして……そしたら、身体が勝手に走り出して、自分の意思じゃ止められなくなったんだ……」
れんは冷や汗を拭いながら、部屋の中を見渡した。
そこは、数々の厳重な封印の術式が施された、特殊な資材置き場のような部屋だった。様々な魔道具が棚に並ぶなか、部屋の中央――厳重な結界のなかに安置された、一際大きな黒い結晶が、れんの目に飛び込んできた。
その結晶が、まるで心臓のようにドクン、ドクンと赤みを帯びた光を放っている。
ガタッ……!
(あれっ……あの石、今、動いた……?)
れんがそう思った、次の刹那だった。
台座に固定されていたはずの黒い結晶が、術式の結界を内側から粉砕し、一直線にれんの胸元目掛けて飛来した。
「――え?」
避ける暇など微塵もなかった。黒い結晶はれんの胸へと吸い込まれるように激突し、その瞬間、爆発的な黒い霧が奔流となって部屋全体を瞬時に埋め尽くした。
「えっ、嘘、大丈夫なの!? なんで結晶が勝手に……まずい!」
近くにいた楓も、その禍々しい黒霧に完全に巻き込まれる。だが――。
(……あれ? おかしいな。こんな色なのに、邪悪な感じがまったくしない。というか、むしろ……?)
数秒と経たずに、部屋を満たしていた黒霧は、霧散するように一気に収まった。
「……一体、何だったの……って、れん!?」
楓は、床に頽れたまま完全に意識を失っているれんに気づき、慌ててその身体を揺さぶった。
「れん! 目を覚まして、大丈夫!?」
そのとき、破られた扉から、カツカツと冷徹な足音を響かせて一人の男が入ってきた。
シルバーのフレームの眼鏡をかけ、底知れない理知的な眼光を放つ男。
「君はたしか……楓か。ここで一体、何が起こったんだね」
「あ……ま、丸山先生!」楓が顔を強張らせる。彼こそが、この病院にいる妖撃士団 貴嗣クラス、丸山環だった。
「この子が突然走り出してこの部屋に飛び込んでいったんです! そしたら、丸山先生の管理していた黒魔結晶が勝手に動いて、この子の中に吸い込まれるみたいになって……!」
「何……? 黒魔結晶が、勝手に動いてこの少年に向かっただと!?」
環は鋭い目を棚へと向けた。そこにあるべき黒魔結晶が、跡形もなく消え去っている。
「チッ、まずいことになったな……」環の眉間を深い皺が刻む。「あれは、日本の兵器だ。あれを失うようなことがあれば、国の防衛戦力は著しく低下する」
楓はまだ、目の前で起きた異常事態の連続に脳の処理が追いついていない。
「……とにかく、楓くん。結晶がこの少年に向かって消えたということは、この少年が何らかの隠蔽魔法で結晶を体内に秘匿した可能性が高い。詳しい話を聞くため、この子を私の面談室へ連れて行く」
環が冷徹に告げ、倒れたれんへと手を伸ばした。
「あ、私もついて行きます! 何が起きたのか知りたいし、この子の付き添いですから! それに……」
パシィッ!
部屋に、鋭い音が響き渡った。
「――なっ!?」
環の動きが、完全に止まる。彼の強靭な手首を、横から伸びてきた細い手が、完璧な力でガッチリと掴み、固定していた。
(速い……! 完全に気配がなかった。この私の知覚をすり抜け、全くいなす隙もなく間合いに入り込むなど……! こんな芸当ができるのは、最低でも私と同じ貴嗣クラス、あるいはそれ以上の化け物だけだぞ……!?)
冷や汗を流す環の横で、お尻をモチのようについたまま呆然とする楓も、上を見上げて固まっていた。
楓は混乱しすぎて、あまり思考を回すことができなかった。
(だ、誰……!? ⋯綺麗な人……!)
緊迫する空間のなかに立っていたのは、燃えるような鮮やかな真紅の髪が特徴的な、一人の美しい少女だった。
完璧に整った人形のような容姿、しなやかでありながら圧倒的な存在感を放つボディライン。今すぐにでもモデルやアイドルとして世界に通用しそうな美貌。しかし、その瞳には、触れた者すべてを切り裂くような、凍てつくほどの冷徹さが宿っていた。
「――主に、安易な手で触れるな」
少女は低く、鈴の鳴るような、けれど絶対的な威厳を持つ声で言い放った。
「お前……一体何者だ」
環が手首を掴まれたまま、鋭い殺気を放って問い詰める。
「答える義理はない。別に、ここで今すぐお前たちと殺り合うつもりもないからな。……だが、我が主を無断で連れ去ろうという不届きな真似は、ご遠慮願おうか」
「……取って食おうというわけじゃない。ただ、黒魔結晶をうばった疑いのあるその少年に、事情を聞きたいだけだ」環はメガネの奥の目を細める。「答える義理とかは知らん。だが、この国で勝手は許されない。まずは貴様が何者なのか、名乗ってもらおう」
張り詰めた沈黙が、診察室の空気を限界まで引き絞る。
やがて、赤髪の少女はふっと息を吐き、掴んでいた環の手首を冷酷に突き放した。
「仕方ないな。主の目覚めの前に無用な血を流すのも一興ではない。名を名乗るくらいであれば、許容してやろう。……私は、この高貴なる御方に仕える式神が一人、――名を『六音』という」
「式神、だと……?」環の目が怪訝に細められる。「名乗られたからには、こちらも名乗るのが礼儀だな。私は丸山環。妖撃士団日本支部の幹部を務めている。……六音と言ったか。ひとまず、その手を離してくれないか」
「いいだろう。私自身、こうして永き眠りから復活を遂げることができ、非常に気分が良いからな。今回はお前たちの無礼を見逃してやる」
「話が早くて助かる。……場所を変えたい」
六音はフンと鼻を鳴らすと、床に倒れていたれんの身体を、まるでお姫様抱っこのように軽々と両腕で抱き上げ、冷たい視線を環に向けた。
「ならば、私が主を運ぶ。案内しろ、人間」
「……わかった。ついてきなさい」
四人は重苦しい沈黙を引きずったまま、一般人の目に触れない医療室へと移動を開始した。
――暗闇。
どこまでも深い、底のない暗黒のなかで、れんはパチリと目を覚ました。
(ここは……一体、どこだ?)
周囲は何も見えないはずの漆黒の空間。なのに不思議と、自分の身体や、空間の広がりだけはハッキリと認識することができた。
そのとき、背後から不意に、聞き覚えのある声がかけられた。
「おやおや。もう、ここまで来ることができたのか」
「誰だ!?」
れんは弾かれたように振り向いた。――そして、自分の目を疑った。
そこに立っていたのは、まるで鏡写しのように、自分と全く同じ顔、同じ背格好をした、もう一人の自分だった。
「……お前、誰だよ。なんで僕の顔をしてるんだ?」
「そうだな。私はお前であり、お前は私を生み出すものだ」
「意味がわからない。どういうことだよ……! それに、ここはどこなんだ?」
「ここは、お前の無意識の領域。そして、その無意識を支配するものとしての存在――それが私だ。故に私はお前であり、お前は私なんだよ」
鏡の中の自分は、酷く冷徹に言い放つ。
「……なんとなくは、わかった。いや、やっぱり全然わかんないけど。……じゃあ、なんで僕はこんなところにいるんだ? 僕はさっき、病院の部屋で黒い石にぶつかって……」
「それはな、お前が記憶と力を失っている状態で、あまりにもいきなり、その一部を取り戻してしまったからだ」
無意識領域の少年は、れんに一歩近づいた。
「今の弱体化しきっているお前の肉体にとって、あの結晶の魔力は急激すぎたんだ。……お前の中に飛び込んできたあの黒い結晶。あれにはな、お前の失われた記憶と力の断片が封印されていたんだよ。お前がここへ来られたのも、その記憶の封念が解けたからだ」
「記憶……。いや、でも僕は何も思い出せてないぞ? っていうか、あそこは僕の知ってる世界じゃなくて、化け物がいる異世界なんじゃ……」
「いいや、違うな」無意識の自分は首を振った。「あそこは正真正銘、お前が元いた世界……お前の故郷だ。……いいだろう、ならば今から思い出させてやる。それも、ここにいる私の役目だからな。――ただし、少しずつだぞ? 焦ってすべてを思い出そうとすれば、今のお前の脆弱な脳は、一瞬でパンクして消し飛ぶ恐れがあるからな」
その瞬間、
ドクンッ!!!
凄まじい衝撃とともに、れんの頭の中に、強烈な光を伴った情報の濁流が直接流れ込んできた。
(あ、が……っ、これ、は……記憶……!? 誰だ、僕の周りにいるこの人たちは……。そして、これは……僕の、本当の……)
脳裏に浮かび上がる、数々の光景。そして、自分を呼ぶ声。
「そうだ……思い出した……! 僕の名前は、――“黒遥 蓮”だ!!」
無意識領域の蓮は、満足そうに目を細めて尋ねた。
「……何を思い出した?」
「自分の……人間としての名前を、思い出すことができた……」
蓮はハッと息を呑み、自らの言葉に強烈な違和感を覚えた。
(待て……。僕は今、なんて言った? 人間としての名前……? どういうことだ、じゃあ僕は、人間の他に、一体何の――)
「そうか。まずは第一歩、上出来だ」
無意識の蓮はそれ以上答えず、ふっと身体を薄れさせながら、最後の言葉を告げた。
「お前の部下たちには、私から口封じをしている。お前自身が自らの意志で思い出さなければ、以前の力を取り戻すことはできないと思うからな。……もし、すべての記憶と力を取り戻したいのであれば、もっと多くの結晶を集めることだ。……さあ、とりあえず私の仕事は終わった。さっさと起きろ――厳しい現実へな」
「ちょっと待って! まだ聞きたいことが――」
次の瞬間、蓮の視界は空間と真逆の眩い純白の光に包まれ、彼の意識は薄れていった。




